2021年2月に見た映画その1

『天国にちがいない』『存在のない子供たち』『聖なる犯罪者』『すばらしき世界』『鬼滅の刃 無限列車』『そして誰もいなくなった13日までに見た6本です。その後に『あなたの名前が呼べたなら』『秘密への招待状』『花束みたいな恋をした』と3本で今月も9本でした。先に6本紹介します。

『天国にちがいない』

 さっぱりわからない映画でした。

チャップリンの再来と言われるエリア・スレイマンが監督、脚本、主演を務めます。彼が新作映画の企画をもって、イスラエルのナザレを出て、パリ、ニューヨークを訪れます。彼の視点からナザレの田舎のようす、大都会の人間たちが描写されます。奇妙な感覚は伝わってきましたが「よさ」はわかりません。

『存在のない子供たち』

 レバノンベイルートに住む貧しい家族の話です。やせっぽちで尖った感じの少年ゼインが両親を裁判所へ告訴するところから始まります。彼は「僕を生んだ罪」だと言いました。

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 原題は「カペナウム」です。付けた主旨はよくわからないが、新約聖書に出てくる町の名前です。イエスが宣教活動し、そして滅びると予言したと書かれてありました。

 映画はゼインがどのように生きてきたか、日常生活を描いていきます。まるでドキュメンタリーのようですが、劇映画です。

 彼は12歳と言いますが、栄養失調のためか、やせていて小柄です。しかも出生の届けもないままに育ちました。学校に行くこともなく、日々、多少のお金を稼ぐために働いています。近所の店の手伝い、町ゆく人に商品を売りつける等の雑用で小金を稼いでいます。

すぐ下の妹は、お金のために結婚を強いられて、しばらくして死にました。

 次々と彼をめぐって色々な子供や大人が出てきます。これが中近東のスラムの実態だというようです。

 妹を売られたゼインは親に絶望して、家を出てエチオピア移民の不法就労の女性と知り合います。彼女の赤ん坊の世話をしますが、ここにも大人も子どもも不幸な生活があります。

彼女はお金を稼ぎ、故郷の親に仕送りをしています。不法就労で、彼女が警察に逮捕されて帰ってこなくなり、お金もなく面倒を見切れなくなったゼインは、赤ん坊を、養子を斡旋する男に売り渡しました。

 裁判所で「世話ができなければ子どもを産むな」とゼインは絶叫しました。 

 中近東とまったく状況が違う日本ですが、なぜか共通するものを感じます。寺脇健がプロデュースした『子どもたちをよろしく』を思い出していました。いじめの問題と子どもたちの親の状況、貧困問題がつながっているという映画でした。

『聖なる犯罪者』

 同じような不良少年を殺して少年院に入った少年ダニエルは、院内のミサを手伝ううちに、神父になりたいと思います。しかし前科者にはその道は開かれていません。

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 仮出所して、仕事を紹介されて田舎の町に行ったときに、新任の神父に間違われます。それを幸いに、神父に化けて、教会に入り込みます。彼の型破りの神父ぶりに町の人は大喜びです。

 しかし彼が少年院上がりの偽神父だとばれる日が来ます。

 小さな町ですが、大きな交通事故があり、その加害者の家族は町から排除され、被害者家族からに憎まれ、大きな溝がありました。そこにダニエルは手を差し伸べて、両者の関係修復を試みようとしました。過去の過ちを神は許す、と言う主張を感じます。

 主人公のキャラクターは複雑です。少年院に戻ったダニエルは、かつて殺した少年の兄と殺しあうような強烈な殴り合いをしました。そして終幕、カメラは町の教会へ切り替わりました。

 実話に基づく映画です。カソリック信仰の厚いポーランドならではと思いました。

『すばらしき世界』

 西川美和の脚本、監督、主演は役所広司、原案は佐木隆三「身分帳」です。

若いころから暴力団に所属して前科を重ね、ついには殺人を犯した前科者が、出所してきて堅気の人生を生きようとする映画です。西神ニュータウン9条HP3月号に書きます。

面白い、いい映画です。

鬼滅の刃 無限列車』

 観客数2400万人を超えた、興収も『千と千尋の神隠し』を超える365億円で歴代1位、社会的現象となったので見ました。しかし、がっかりしました。私にはこの映画の魅力が全く見えませんでした。

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 絵がきれいなわけでも、奇想天外のストーリーがあるわけでもなく『ドラゴンボールZ』のようなひたすら、鬼と鬼滅隊のマンツーマンの戦いがあるだけです。鬼は人間を襲い食べるという設定のようですが、バリバリと頭から食べるというようなシーンはなくて、ひたすら戦いです。

   戦いがメインなのですが、スピード感あったり変幻自在にというのはありません。彼らの体や剣の動きが描かれるのではなく、術を唱えて剣を振ると、空間に電光、炎、水等が走るというものです。

鬼と鬼滅隊のキャラクターも、今までの漫画などで作られたものと似ています。その人間性は懐古的保守的です。

新たなものがない、と言うのが特徴です。

そして誰もいなくなった

 アガサ・クリスティ原作、1945年制作のルネ・クレール監督のミステリー映画です。離れ小島には、招かれた8人の客と彼らの世話をする2人の使用人がいました。彼らは全員、過失もしくは事故、あるいは故意に人を殺したが、法で罰せられていない、と言う秘密を抱えていることが、最初に暴露されます。

そして彼らは「10人のインディアン」の歌をなぞるように、一人一人殺されていきました。小さな島には10人以外は誰もいません。するとこの中に犯人がいると、お互いに疑心暗鬼になっていきます。

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殺害のシーンとかは描かれず、登場人物それぞれの人間像が描き分けられる上品な映画です。最初はわからなかった人間関係が、一人ずつ殺されていくたびにわかってきます。

小説と映画は結末を変えていますが、ミステリー映画として上手に作っています。さすが名匠ルネ・クレールと言う映画でした。

 

『おとうふコーヒー』感想

神戸演劇鑑賞会1月例会(125日(月)、劇団銅鑼)

様々な人生を見せた芝居

 豆腐とコーヒーが認知症予防に効果があると知りました。そういう題名です。でもコーヒーを飲みながら豆腐を食べるのは、もうすでに認知症も深刻でしょうね。この芝居の中心人物、ふみ子さんは美味しそうに食べていました。

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 特別養護老人ホーム「さんぽ」で永谷ふみ子さんの「看取り」がある夜、大きな台風が襲っていました。その一晩の出来事です。

 舞台は、その日2017917日を起点に、その1年前2年前3年前4年前と時間を行き来して、『さんぽ』にかかわる人々の素顔が次々と紹介されていきます。

    出てくるのは、入居者のふみ子さんと元消防士の金山泰司さん、施設に来ているボランティアの女と男、FTMのふみ子さんの孫・瑞樹くん、慌て者で空気の読めない民生委員・旗本さん、近くの専属医、そして施設長などの職員4人がいます。

 1年ごとに切り替わる舞台で、彼らのエピソードと人となりが次々と積み重なるので、ちょっとあわただしい芝居です。全体的にコメディタッチで、面白い展開ですが、残念ながら人物描写の深みが足りません。

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 気になったのは二人、一人はFTMの瑞樹くんですね。それから民生委員の旗本さんです。

    瑞樹くんは、まだ体は変えていないようですが、周囲にカミングアウトしている段階です。「さんぽ」の人たちは誰も気にしないで、受け入れています。なぜでしょう。福祉に携わる人はLGBTに理解あるのでしょうか。

   その一方で、ふみ子さんの看取りに彼女の子どもたち、瑞樹くんの親は来ていません。彼の家族はバラバラみたいで、これをどう見るのか、気にかかります。

    民生委員の旗本さんは、芝居の最初から慌て者で、相手の気持ちを忖度できない人間として描かれます。権力者に対する忖度はみっともないですが、弱者に対しては必要です。それが少し足りない人間性として描かれます。自分の考えを押し付け過ぎる「独善的」な感じでした。それが芝居の最後に彼のこれまでの人生、考え方が告白されます。

   人の役に立ちたいと考える真面目な人間ですが、あまりに一生懸命すぎて周囲に誤解されています。このような人とどのように付き合うのか、考えました。

 この芝居、終の住まいである特別養護老人ホームで死を迎える、ふみ子さん巡って、様々な人間の人生を並べました。それぞれにユニークですが、ちょっと煩雑だとおもいます

2021年1月に見た映画その2

     1月に見た映画の残り『南山の部長たち』『コロニア』『エスケープ・ルーム』『アリ地獄天国』を書きます。

『南山の部長たち』

 韓国19791026日、朴正煕大統領が側近のナンバーワン、KCIA部長に射殺された事件を描く、実話に基づく映画です。事件から遡ること40日間が描かれます。

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 権力闘争と言う面もあります。大統領を裏切った前部長から大統領が隠し資産を持っていて本当の側近が管理しているという「秘密」を聞かされます。政権ナンバー2の地位が脅かされる、警備部長との争い、朴正煕大統領に疎んじられている、そういう焦りも持ちました。

朴正煕に対し腐敗した政権を倒して国民のための政治を作ろうとクーデターを起こした同志と言う思いを、KCIA部長は何度か口にします。1961年に軍事クーデターを起こし、その後18年も軍事独裁政権、民主派を弾圧し続けたグループが何を言うのか、と思いましたが、韓国民の感情としてどうなのかな。

ヒットしたと言います。それは何故か、韓国の政治が民主化して近現代史をリアルに描けるようになったからなのか、朴正煕に人気があるからか、わかりません。開発独裁という手法で「漢江の奇跡」という経済成長で、戦後から最貧国の一つだった韓国を、今のような、いびつではあるが経済的に豊かにした基礎を築いたという評価もできる、と思います。

『コロニア』

 実話をもとにした恐ろしい話です。1973年チリ、米国の支援を受けてクーデターを起こしたピノチェト将軍は、アジェンデ大統領を支えてきた労働組合員やジャーナリストなどを弾圧し、拉致、虐殺を行いました。

アジェンデ派の支援に来ていたドイツ人ダニエルも秘密警察に捉えられて拷問を受けました。そこは「コロニア・ディグニダ(尊厳のコロニー)」と呼ばれるカルト教団の施設で、ピノチェト軍事独裁政権と強く結びつく「生きては出られない」恐怖の館です。

彼の恋人、ルフトハンザ航空のキャビンアテンドであるレナは、ダニエルを救出するために、信者を装い、決死の覚悟で潜入しました。

男女に分けられた宿泊棟、逆らうことの許されない強制労働と日常生活、そして異常な儀式の中で、レナとダニエルは出会い、秘密の地下道を見つけ出します。

二人は132日目に脱出に成功しました。しかし逃げ込んだ西ドイツ大使館にもピノチェトの手が回っていました。ギリギリのところでルフトハンザ航空の飛行機に飛び乗りますが、管制塔から離陸中止の支持が出ます。

ハラハラドキドキの映画で、よく脱出できたと思いました。

実話ですから、数十年という長期間、信者たちは教祖に絶対服従であったことと思います。恐怖と暴力による支配です。

このカルト教団ピノチェト政権の前からつくられていた組織で、教祖はナチスの残党です。ピノチェトが倒された後、少年たちに対する性的暴行で起訴されるが逃亡し、2005年に逮捕されます。

エスケープ・ルーム』

 米国映画です。脱出ゲームの賞金につられてやってきた男女6人(男6、女2)(白人3、黒人2、インド人1)が、協力しながら色々な罠が仕掛けられた部屋(5つぐらいあったか、灼熱、氷、天地逆転等)の中から決死(実際に死人が出ます)の覚悟で脱出する「ゲーム」です。

 些細なところから脱出のキーワードを得るのですが、映画全体として何が言いたいのかよくわかりません。

『アリ地獄天国』

 労働争議のドキュメンタリーです。日曜朝のニュース番組、サンデーモーニングは良いス番組だと思ってみていますが「アリさんマークの引越社」というCMが流れるたびに不愉快です。スポンサー契約と、番組制作の部門は別ですが、番組のイメージを悪くすると思います。この映画を見ていっそうそれを確信しました。それほどひどいブラック会社です。

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アリ地獄天国

 固定の残業手当を組み込んだ給料、仕事中の事故などに対する損害賠償、休暇もとれないなど酷い労働現場ですが、そこに不満の声を上げた若い営業担当を会社は「シュレッダー係」にしました。「人事は会社の裁量」といいます。彼は胃が痛い毎日を送ります。

 西村(仮名)さんは個人加盟の労働組合に入って、会社に団体交渉を申し入れて、それが都の労働委員会中央労働委員会へと闘いの場を移して、最後は全面勝利の「和解」となりました。

 団体交渉を拒否し、抗議のビラを会社の前で配る支援の労働組合員を恫喝する映像は、まさに「反社」かと思う酷さです。

 この映画は、そのブラック企業と正面からぶつかる労働者、労働組合の闘いの映画ですが、少しでも気持ちよく働きたいと、声を上げた勇気ある一人の若者の成長の記録でもありました。

 引越社の現状がどうなっているかはわかりませんが、経営陣が変わっていないと、大きくは変わらないと思います。CMに流れる「優しい」とは程遠い非人間的な暴力がありました。

 

市民映画劇場2月例会『あなたの名前が呼べたなら』紹介

標記の映画は来週2月19日20日と県民会館で上映します。私の班が担当しました。映画サークルのHPで日時と映画について紹介しています。

神戸映画サークル協議会(神戸映サ) (kobe-eisa.com)

私は映画の「背景」として以下の文章を機関誌に書きましたが、HPには出ていないのでここに載せます。

※  ※  ※  ※

インドの紹介

 『あなたの名前が呼べたなら』は現代的大都市ムンバイを舞台にした、身分の違いを超えたプラトニックな恋愛映画と言ってもいいと思います。私たちがよく耳にするインドの身分制度カーストをはっきりとは描きません。しかしインド社会にある昔からの身分、職業、古い因習等を背景にして、現代の先進諸国にもある、大きな経済格差、都市と農村の違い、男女差別が人権と自由な恋愛を阻害していることを描きました。

ラトナ等の家政婦や召使いとご主人様アシュビンの親族、友人の間には歴然とした差別意識があります。そして寡婦となった女性を縛る古い因習も紹介されます。

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インドの諸元

映画の理解を促すためにインドの基本的なことを紹介します。

政治:インド共和国(二八州と九の連邦直轄領)は中央政府、州政府、地方自治体(都市部、農村部)と言う三層構造で、中央集権制が強い連邦体制をとっています。政治体制は英国に倣って立憲共和国として立法、行政、司法の三権分立、議会制民主主義です。議院内閣制による下院の最大政党から選ばれる総理大臣が実権を握っています。形式的な国家元首として大統領も置き、現在は人民党のコーヴィント大統領、モディ首相で、ともに下層カースト出身です。

国旗:インド独立の原点を表しています。サフラン・白・緑の横三色の中央に「アショーカ・チャクラ」(アショーカ王のチャクラ(輪)という意味)という法輪を配した旗。サフランヒンズー教、緑はイスラム教、白は二宗教の和解とその他の宗教を表す。アショーカ王は紀元前に仏教を保護した王です。

人口:十三.六億人(中国に次ぐ大国)

面積:三二八.七万㎢(日本の約九倍)

公用語ヒンディー語他二一語が公用語で、英語は準公用語です。映画を見ると金持ち階級の人々は英語を喋れるようですが、田舎から出てきたラトナは、十分な教育も受けていないので、わからない言葉がありました。

教育制度:五+三年(義務教育は初等教育六~一四才)二+二年(中等教育)で、それ以上が大学(二~五年)となっています。初等教育ではその地方の言葉、ヒンディー語、英語が必須です。貧しさゆえに学校にいけない子もいて平均識字率七五%です。

宗教:八〇%がヒンズー教イスラム教一三%で、他にキリスト教、仏教、シク教などがあり、根深い宗教対立が残っています。独立後、政権を担ってきた国民会議派の基本方針は政教分離ですが、現在の政権を握る人民党モディ首相はヒンズー教原理主義的です。

二一世紀、新興大国として

 インドは古い歴史と独自の文化を持ち、巨大な人口と面積、多民族、多言語、多宗教で構成されている国です。

紀元前から、高度な文明を持つ国家をつくりましたが、西欧の帝国主義の時代にムガル帝国が滅ぼされ、一八五八年イギリス領インド帝国として植民地化されます。

第二次世界大戦後、英国から独立し、イスラム教を国教とするパキスタンと分離して一九五〇年に、ヒンズー教徒が圧倒的多数の下で政教分離の立憲共和国となりました。

 国民会議派ネルー首相の下で、社会主義的な混合経済をめざす国づくりを進めてきました。東西冷戦構造の時代には、米ソの軍事同盟に加わらない中立非同盟運動の盟主として国際政治の主役でした。一九七四年に核保有国になります。

そして二一世紀に入って、グローバル経済の下で大きく経済成長を続け、近い将来には米国や中国と肩を並べる超大国の一つになると予想されています。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれ、資源と人口が豊富な新興大国の一つになりました。

インド経済の特徴は、グローバル経済とIT産業によって目覚ましい経済成長を続けながら、その一方で、現在も多くの農村人口を抱えていることです。

GDPと(労働人口)の割合は第一次産業一六(四三)%第二次産業三〇(二四)%第三次産業五四(三三)%とアンバランスになっています。

 インドと言えばヒンズー教に基づく身分(ヴァルナ)職業(ジャーティ)を世襲するカーストです。憲法カーストを認めながら、それによる差別を禁じています。低い階層には大学入学や公務員採用の優先枠を設けています。しかし厳然として個人の人権感覚や社会的生活、職業、住居地等を縛っています。

二〇世紀末から成長してきたIT産業はカーストの範疇からはみ出して、能力が認められれば誰でも職を得ることができます。

女性の地位

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インド社会の女性の地位は、伝統的文化や宗教的には低いものです。初等教育の就学率は大きく改善されていますが女性の識字率は低く、就労割合も三割程度(二〇一八)で所得格差もあります。女児出生率も低くなっています。

都市部では女性の社会的地位は上がっていますが、農村ではラトナのような寡婦は婚家に縛られます。かつては夫が死んだときに妻も一緒に焼かれる習慣もありました。

インドもコロナ禍が大きく、DV被害の増加や非正規雇用が多い女性にしわ寄せがきています。

  ムンバイ

 インドの西海岸、インド洋に面する商業港湾都市、都市圏人口はデリーに次ぐ二千百万人。マハーラーシュトラ州の州都。一六世紀ポルトガルに支配されてボンベイと名付けられるが、一九九五年に現地語のムンバイに変わりました。雨季と乾季に分かれる熱帯サバナ気候です。

 金融都市であり、多くの多国籍企業の拠点が置かれています。映画大国インドの中でも映画製作が盛んで旧名をもじってボリウッド映画と言われています。世界で十番目に億万長者が多い都市と言われています。(Q)

参考文献池上彰の世界の見方インド/池上彰』『インドを知る辞典/山下博、岡光信子』インターネット情報

 

 

 

2021年1月に見た映画その1

『シカゴ7裁判』『ミッション・マンガル』『パブリック図書館の奇跡』『レ・ミゼラブル』『人生、ただいま修行中』『南山の部長たち』『コロニア』『エスケープ・ルーム』『アリ地獄天国』が1月に見た映画9本です。一度に書こうとしましたが、ちょっと長くなりすぎました。それで2回に分けます。

    これからは一度に掲載する分量は1600字をめどにしようと思います。

『シカゴ7裁判』

 実話に基づく米国映画です。1968年、シカゴでベトナム戦争に反対するデモ隊と警官隊が衝突した事件、そしてそれを扇動したとして、政治団体の責任者7人(当初8人から1人は別の裁判へ)がニクソン政権から起訴された裁判を描きます。

 西神ニュータウン9条の会HP2月号(http://www.ne.jp/asahi/seishin/9jyonokai/)に書きましたので、そちらを見てください。

『ミッション・マンガル』

 インド映画です。インドが火星に探査機を送り込んだ実話に基づくものです。マンガル(MANGAL)は火星のことです。

 月へロケットとばす計画に失敗したチームが、左遷されて、見込みのない火星担当に回されるところから始まります。この部署は予算もなく、落ちこぼれのような研究員(女性が多い)を集め、使われていない研究所の施設に机など設備を揃えて、研究を開始します。いろいろあって、計画は成功してめでたしめでたしです。

 インドがアジアでは宇宙開発の先駆者であったとこを知りました。そしてなにより、宇宙開発研究機関で働く研究者に女性が多いのに驚きました。高学歴理系女性が進出しています。

しかも、この映画の主人公は、結婚して子供も産み育てながら、一家の主婦として家庭内を切り回して、働き続けて主任クラスの業務を担っています。ヒンズー教徒やイスラムが多く、宗教の影響も大きい国ですが、このような女性の活躍もあるのが、日本とちょっと違う感じです。

『パブリック図書館の奇跡』

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 オハイオ州シンシナティを寒波が襲います。ホームレスに凍死者が頻繁に出る状況です。市の避難シェルターは数が足りません。日常的に公共図書館を使っていたホームレスたちは、図書館の閉館時間が過ぎても出ていかず、図書館に立て籠もりました。

 最初は脅かされて従っていた図書館司書も、積極的にホームレスの味方になっていくという映画です。

 米国で実際にあった話をもとに作られています。

色々とても面白い視点があります。情報に接する権利は万人にあり図書館はホームレスであっても保証し、排除しません。司書も元ホームレスであったことも味噌です。市民受けを狙う現職市長と、次期市長を狙う地方検事の思惑(秩序が大切)が対比的です。しかし両方ともホームレスの凍死には関心が低い、と批判します。

報道するテレビ局もいい加減で、勝手にストーリーを作って放送しています。

包囲する市警の責任者の息子がオビオイド中毒でホームレスになっている、とあります。オピオイドという「鎮痛剤」で死者が出ていますが、映画では初めて聞きました。

社会派でコメディと言う面白い映画でした。映画の冒頭に、司書がホームレスから告訴されて、図書館運営委員会から懲戒処分されるシーンがあるが、全編の複線のように思いますが、でも鋭さに欠ける感じです。

レ・ミゼラブル

 パリの郊外。移民や難民たちが多く住む地域を描く映画です。

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映画の冒頭は、フランスがサッカーのワールド大会で優勝し、市民が大通りで喜び騒いでいるシーンです。白人も黒人も一緒で「ワンチーム」のようです。

場面が変わってモンフェルメイユ、移民難民が多く住み、犯罪が多い町と警察が認識し、特別チームの警官3人が毎日パトロールしています。

 ここにやってきたロマのサーカス団の子どものライオンが盗まれます。団長が警察と、この団地を仕切るいくつかのグループに接触してライオンを返せと脅しをかけてきます。

 捜査は現代的ですSNSで検索を掛けると出てきました。盗んだ人間は「きっと自慢する」ということで、いたずら小僧が捕まりました。小僧は団長からライオンの檻に放り込まれる、と言うきついお仕置きを受けました。

 これで終われば良かったのですが、彼は仲間とともに警官をからかって、ゴム弾を顔に受けて意識不明に陥ります。しかもそれを少年の仲間がドローンで撮影していました。

 そのSDカードを手に入れるために警官チームは、あらゆる手を尽くします。

 映画は、その顛末を通じて、この町にあるグループの縄張り争い、3人の警官の出自、考え方の違いもきちんと描きます。

 そしてラストは、少年グループが警官3人に罠を仕掛け、この町を支配している輩をも巻き込む暴力が広がります。生き死にまで至るようなところで結果を見せずに幕が下りました。

 今までの市民映画劇場で見てきたフランスと違って、絶望的な状況が前面に出てきます。経済格差からくる将来を夢見ることのない少年たち、治安維持の暴力を是認する警察機構、

反社会的であっても生き抜くためのコミュニティ。まさにレ・ミゼラブル(悲惨な人々)です。

『人生、ただいま修行中』

 例会です。フランスの看護学校の学生たちを撮ったドキュメンタリーです。彼らは学校で学び、実地研修として病院に行って患者を看護します。

 後半3分の1は指導教官と学生の面接です。これが面白かったです。フランス人らしく生徒の人権を認めたうえで、彼らが実習で経験したこと悩んだこと嫌だったことも含めて、彼らと話し合って報告書を書くという作業です。

 様々な経験談、思いが出されますが、印象に残ったのは、能力が低いと言われて、この仕事をすることに自信を無くしている女性です。

2021年1月の読み終えた本(その2)

後半は4冊です。 

『悪意の迷路/日本推理作家協会編』

2013年~15年に発表された短編集から選出された15人のアンソロジーです。「願わない少女/芦沢央」「ドレスと留袖/歌野晶午」「不適切な排除/大沢在昌」「うれひは青し 空よりも/大山誠一郎」「憂慮する令嬢の事件/北原尚彦」「シャルロットの友達/近藤史恵」「水戸黄門謎の乙姫御殿/月村了衛」「パズル韜晦(とうかい)西澤保彦」「魔法使いと死者からの伝言/東川篤哉」「潜入捜査/藤田宜永」「屋根裏の同居者/三津田信三」「優しい人/湊かなえ」「永遠のマフラー/森村誠一」「背負う者/柚月裕子」「綱渡りの成功例/米澤穂信

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 15人のうち、これまでに読んだといえる作家は大沢在昌森村誠一藤田宜永だけです。彼らの文体はなじんでいますが、他は読みにくい人もありました。さすが一流の作家ですからアイデアなど面白い作品ばかりです。でも好き嫌いはあります。

 テーマや登場人物の人物設定に、しっくりこない、受け入れがたいものがあります。

「優しい人/湊かなえ」よっぽど嫌な人でないと断らない「優しい」女性が、最後に殺人をするという話。優しさが最後に暴発した、ということですが、何か違う感じがしました。

「背負う者/柚月裕子」は、母子家庭の少女がホテルに行った男の財布から10万円を抜いた事件。彼女は何も語ろうとしないが、担当した研修中の新米調査官が調べて、妹の治療代であることを突き止め、同時に母親のこと、親戚の状況なども明らかにして、彼女を家族から切り離すことが必要と判断する話。なんだろう、ごく当たり前の展開と結果です。 

「綱渡りの成功例/米澤穂信」は、土砂崩れで家が数軒流されて、唯一助かった老夫婦の災害時の秘密を、フリーの記者が気づくという話。それは隣の家の冷蔵庫の牛乳を盗んだことですが、それの葛藤をミステリーとして書くかと言う感覚です。

  この3人は色々な賞を取っているので、世間の評価は高い人たちです。でも私はだめです。

 15人の中で、次ぎに読もう思ったのは三津田信三です。「屋根裏の同居人」と言うタイトルの通り、江戸川乱歩のオマージュがあります。その短編集もあるようです。

『リバース/相場英雄』

 些細な老女の万引き事件から、世界的企業が絡む汚職事件へと捜査の手が伸びたというミステリーです。福島原発事故に絡む巨悪の暗躍を描き、あるかもしれないと思わせるだけで、社会への警鐘になります。

 警視庁捜査2課の面々が主人公で、前作『トラップ』の後、西澤、清野が所轄に飛ばされます。彼らはそれぞれで活躍しますが、その事件がつながり、話がどんどん広がっていきます。

 万引きで捕まった中流階級の夫人から、福島の放射能汚染をネタにした「原野商法」を引っ張り出します。年金基金汚職を見つけ、さらに補償金目当ての詐欺があり、そこから殺人事件が発生します。そこから世界的な企業が絡む原発廃炉をネタにした汚職があることを突き止めます。

 比較的短い長編ミステリーですから、ちょっとテンポが良すぎて、数兆円の除染、廃炉事業にたかる世界規模の企業、商社の描き込みが足らない感じです。さらに2課の課長が癌で死ぬという設定まで入れますから、ちょっと詰め込みすぎですね。でも福島の現状を細かく描写する等、きっちりと書いています。

『世界1月号』

特集は①「自治のある社会へ」②「ポスト・トランプの課題」です。創刊75年を記念しての谷川俊太郎の詩『少年と世界』もありました。

 ①は一つ目「幸福を掲げた自治の実践―岩手県、震災からの10年/達増拓也岩手県知事)五十嵐敬喜(法政大学名誉教授)」の対談です。「創造復興」に言及して「元に戻す」復旧ではなく「未来に追いつく復興」を強調しています。首長の気持ちと思いました。

 二つ目「瀬戸際の地方自治―機とされる参事弁城型の制度改革/岡田知弘」は、コロナ禍の地方自治体の問題と「自治体戦略2040構想」批判です。

 自公政権自治体への介入は、一言でいうと「国に従属する『地方行政サービス体』にする」ということです。

 コロナ禍のもとで、国も自治体も、さらにマスメディアも公衆衛生と医療体制を充実させる必要があるといわないことに、私は不信感を持っています。パンデミックがコロナで終わるわけではありません。西欧諸国に比べる医療機関は圧倒的に民間が多いのが日本の特徴で、医療崩壊という事態はそのためです。

 久元神戸市長が月刊「地方税12月号」に書いた「withコロナ時代の大都市経営」でも、市政の根幹と公衆衛生、医療の関係には触れません。

 片山善博の「日本を診る」は、大阪市廃止住民投票での公明党を厳しく批判しました。「自党の国会議員のポストを失うまいとして」「むき出しの打算を見せつけられた」と書いています。

『淫らなお仕置きはいかが/館淳一

「白衣の女教師」「真夏の夜の下着」「セクハラ・カンパニー」「鞭、セーラー服そして少年」「ミッドナイト・ブルー」「神よわが閨房を覗くな」「春愁エロティカ」官能小説短編7つ。館淳一さんは好きな作家です。SM的要素が高いのですが、非人間的ではなく愛情を感じさせます。セックスですから本来はそういう関係がないとできません。

 この中で異色なのは「ミッドナイト・ブルー」です。これはスケコマシの罠にはまった人妻が主人公ですが、二人がたまたま二人の殺し屋の殺人現場の出くわして、ハードボイルドなシーンがあって、彼女は3人を殺して、何食わぬ顔で日常生活に戻る、という話です。

 

2020年ベスト5映画投票(映画サークル投稿)

 いい映画と言うよりも好きな映画を選びました。ですから感動的な映画はありません。いずれも、かつて書いています。


短評を付けましたが、文末にもう少し書いたブログの日付を書きました。

市民映画劇場ベスト3

①『i-新聞記者ドキュメント-』②『芳華』③『テルアビブ・オン・ファイア』+『百円の恋』

市民映画劇場の作品は、それぞれに特徴を持ったいい映画と評価していますが、好みに応じて順番をつけると、自分の好きな映画の傾向がわかります。今回の映画は、新たなことを気づかせてくれた映画が上位に来ました。f:id:denden_560316:20210131224244j:plain

i-新聞記者ドキュメント-』は、ジャーナリズムの団結は難しい、国民の知る権利に基づくと言っても、記者は社員であり企業活動の枠内。それを超えるには何が必要か、望月さんの如く、空気を読まない、しつこく闘う。(20.10.24)

『芳華』は、検閲のある国、中国の映画をどう見るのか、監督は何を考えているのか。この映画では中越戦争とその後の文工団員の描く映像が答えだと。中国映画は香港の状況を見て考える。(20.8.21)

『テルアビブ・オン・ファイア』は私も含めて日本人はパレスチナに対する関心が低く、正確な報道はなく、イスラエルの軍事支配がこんなに酷いと知った。コメディにしたパレスチナ人の心の内はわからない。(21.1.8)

『百円の恋』は、力を出し切った試合の後に、自分を捨てた男とよりを戻すか、男からみるといかにも「つまらない男」としか見えないが、それに惹かれるのが女心かよと、彼女の心中に迷う。(20.11.14)

邦画ベスト5

①『罪の声』②『さよならテレビ』③『海辺の映画館』④『星屑の町』

 日本の現実を、どこかに写し取っているような印象を持つ映画たちです。

『罪の声』は劇場型犯罪と言われた「グリコ森永事件」をモデルに、謎解きの仮説を組み立てた。犯人グループをヒーローにせず、巻き込まれた子どもの悲惨な人生を描いたことがいい。(21.1.4)

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『さよならテレビ』はテレビ局内部のドキュメンタリー。非正規労働者、視聴率争い等に焦点をあてて現状を描く。「あゝテレビよ」と言う感じ。

(20.2.2)

『海辺の映画館』大林宣彦監督の遺作。向かいの島との狭い水道の畔に立つ故郷の尾道をイメージした田舎の古い映画館で上映される脈絡のない戦争の映画。なぜか思い出す映像ばかり。(20.9.12)

『星屑の町』は、地方公演を続ける売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」の面々の悲哀を描いたコメディ。通俗的だからいい、同世代の男の生き方は琴線に触れた。(20.4.5)

洋画ベスト5

①『その手に触れるまで』②『ニューヨーク親切なロシア料理店』③『娘は戦場で生まれた』④『暗数殺人』⑤『私の知らないわたしの素顔』

 パンデミックは人間社会の有様が招いたもので、その要因を深く把握したいと考えます。これらの映画は、そこに通じる悲惨な現実の中に息づく人間性の良い面を感じさせてくれました。

『その手に触れるまで』は、ベルギーで生まれ育ったアラブの少年、イスラム原理主義に狂信的に嵌った彼の再生の可能性を肯定。強い。(20.6.29)

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『ニューヨーク親切なロシア料理店』はDVから逃げる母子を助ける奇妙な人々、袖すり合う程度の関係を保ちながら助け合う、さっぱりとした大都市の隣人愛に共感。(21.1.4)

『娘は戦場で生まれた』は、シリアの悲惨な戦場で、そこに留まりながら子どもを産み育てる女性の人生観が強烈。(20.6.29)

『暗数殺人』は、警察が認知しない死体なき殺人を追い求める刑事の正義が韓国に生まれていることに驚く。(20.4.19)

 『私の知らないわたしの素顔』の50代の美しい大学教授の振る舞いに魅了され、自分ではない自分を作り上げる、錯覚の魔力に溺れた。(20.4.19)