『冒険者カストロ』佐々木譲 集英社

 佐々木譲は本当に幅広く書く作家です。これはミステリーとか冒険小説ではない、キューバ革命を戦い、その後キューバの指導者としてアメリカと戦い続けているフィデルカストロの伝記です。
 しかもカストロ自身は伝記を書くことを許していませんから、いわば佐々木譲が勝手に資料を集めて、小説仕立ての「キューバ革命の英雄、フィデルの物語」です。
 学生時代の一人で革命をめざしていた時代から、新キューバ共産党を組織して、革命キューバの国家運営を指導していきます。
 それはまさに英雄という言葉がぴったりです。それは運がいいということです。米国の足元で誇りを持って「反米」を主張しながら国家を保っていられるのは、彼の政治手腕もありますが、何より運のよさだと思います。これは誰がどうしようと、何者にも変えがたいフィデルの運命です。
 そして洞察力の鋭さです。言葉を変えて言えば情勢判断です。それも天下一品です。その彼でさえ間違いがありますから、それを救ったのが運です。
 マルクス主義の正しさも少しはあるかもしれませんが、そんなものでは彼の人生は図れません。