2013年の映画

2013年の映画、短評
昨年を振り返り、良いなと思った映画の短い感想を書きます。しかし見よう見ようと思って見逃した映画がけっこう多いので、残念です。
邦画
① 約束
 震えるような映画です。名張毒ぶどう酒・冤罪事件を描いたドキュメンタリー。物的証拠もなく、強制された一時的な自白だけで奥西容疑者に死刑判決を出した、裁判所の恐ろしさに身震いします。容疑者の無罪に有利な証拠を消して行った警察と検察、そしてそれに協力した村人、その一方で無罪を信じる人々の広がりに人間社会の複雑さを感じました。
② 少年H
静かに現在を振り返る映画です。戦前、戦中、戦後を生き抜いた神戸市の洋服屋さん、普通の人間を歪める戦争を告発しています。「戦争が終わった時に、恥ずかしい人間になっていたらいかんよ」という水谷豊の実直な台詞を聞きながら、現在の日本人に言っているのかと思いました。
③ もういいかい
胸を突かれた映画です。ハンセン病(らい病)患者のみなさんの人生をあまりにも知らなすぎたことを恥ずかしく思います。彼らの心情を丹念に追う映像に敬意を表します。戦前戦後を通じて、人権とか科学的であるとか、そういう考え方が日本ではいかに浅いものであるのか、と思い知らされました。
かぐや姫の物語
 ちょっと驚いた映画です。実写でもなく細密な絵でもない、ラフな線が絵の力を感じます。赤ん坊がこれほどかわいく力強い生命力を持っていたのかと、子育ての時代を思い起こしました。
⑤ オース・バタヤン
ふむふむと思った映画です。戦後の歌謡曲は、憲法の理念である平和と民主主義の世の中を、感情的な面で反映しているように思います。『帰り舟』を歌う田端義夫はその一番手です。幼児期の貧しい生活のためにトラコーマで片目を失ったこと、コンサート会場が小学校の体育館というのも含めて、象徴的です。

洋画
① ザ・ウォーター・ウォー
熱い怒りを巻き起こす映画です。チリに見るように南米では新自由主義軍事独裁は非常に相性がよく、彼らは米国に従って国民の生活と命を食い物にしてきました。近年の水道民営化はその象徴です。左派が巻き返して中南米共同体を作っていますが、彼らの歴史的な戦いに感動です。翻って日本では・・・。
② 偽りなき者
 冷たい怒りを貫く映画です。「幼子に性的虐待」という汚名を着せられた男は人生を破壊されます。映画ははっきりと彼が冤罪だと示しますが、誰もそれを証明できません。ただ信頼関係、友情の虚しさが浮き彫りになります。自分を守る闘い辛いけれども、それが人間の尊厳です。
③ よりよき人生
人生に敗者はいない、と心に沁みる映画です。自分の店を持つと言う夢に失敗した料理人は、混乱します。しかしゼロ、いや借金を抱えたマイナスからの再生ですが、彼は、それでもささやかな幸せをつかんで歩み始めます。久々に胸が熱くなりました。
④ 故郷よ
深い悲しみと嘆きが伝わってくる映画です。チェルノブイリの事故、その隣町にいた人々のその直後とその10年後です。ふるさとの夢が伝わってきます。美しい美しい思い出です。まさに福島の人々のことを想像してしまいます。
アルマジロ
戦争と人間に迫る映画です。アフガニスタンに派兵されたデンマーク軍の若い兵士をカメラが追い、リアルな戦場、戦闘シーンを取りました。人間がズダブクロのようになり、彼らもショックで嘔吐します。しかし志願して再び戦場に赴くのはなぜでしょう。
次 王になった男
 人情厚き人々の映画です。李氏朝鮮王朝の暴君の影武者になった男は、人情に脆くて臣下の者に情けをかけます。最後に彼は殺されそうになるのですが、その情けが彼を救います。韓国で大ヒットしたそうですが、それがかの国の思いです。

市民映画劇場
① シロタ家の20世紀
戦争の惨禍と反省の映画です。20世紀前半のヨーロッパ、日本の歴史がシロタ家の人々の人生に重なるように描かれています。そして日本国憲法草案にかかわったベアテさんのメッセージは、九条が明快に平和を希求する世界の人々の願いであることを示しています。
② ぼくたちのムッシュ・ラザール
深い悲しみを持つ男の映画です。アルジェリアからの難民、家族を殺害されたラザールの心を推し量ると、その胸の内は張り裂けんばかりであると思います。それを押し殺しながら、彼はモントリオールの少年少女に人として大切なものを贈りました。
キリマンジャロの雪
人生はこれからだ、と後押ししてくれる映画です。マルセイユの小さな企業の老いた労動組合委員長は信念を持って活動してきました。しかし労働者と社会の現実を見ていなかった、と思い知らされます。失意の中から、彼とその妻は力を合わせて、もう一度、自分たちの歩む道を求めます。