『シアター・プノンペン』の感想

映画サークルの機関誌に載せたものを順次アップしていきます。
カンボジアの苦悩
現代から過去へ

 現代カンボジアの苦悩の一端を感じる映画でした。
若者たちが青春を謳歌しているプノンペンの夜の酒場、喧騒の街が出てきます。そして彼らが廃墟のような映画館に迷い込み、一九七〇年代の映画『長い家路』に出会うことから、カンボジアの過去が蘇ってきます。 
 主人公、女子大生のソポンは、高級軍人の父を持つ上流階級の奔放な娘です。しかし彼女は母親ソアテが内戦時代のトラウマに悩んでいることを、気にかけています。そして古い習慣に従って彼女に結婚を押し付ける父親が、元ポル・ポト派兵士であることが、映画が進むにしたがって明らかになります。
 彼女の家族に国全体の問題が投影され、凝縮しているように描かれました。
カンボジアは一九六〇年代後半からベトナム戦争に巻き込まれ米軍の空襲を受けます。ベトナム戦争終結後も悲惨な内戦を続けていました。九一年に和平協定が結ばれ、二一世紀になって東南アジア諸国連合の一員として、経済成長に踏み出しつつある、と知っていました。しかし「キリング・フィールド」といわれたポル・ポト派の大量虐殺(百万人を超えると言われる)が、現代のカンボジア社会にどんな傷跡を残しているのか、知りませんでした。
『シアター・プノンペン』は、厳しくつらい過去を、若い世代に伝わるように上手に描きました。
共存と真相
古い映画の再生という作業を通じて、その映画にかかわった者たちの過去と現在の経緯を、謎解きの手法を使って興味を引くように表現しました。
母ソテアは内戦前まで映画スターであり『長い家路』の主演を務めます。そして、この映画の主演男優兼監督と恋仲でした。彼はポル・ポト派の支配する時代に、知的エリートとして殺されます。
彼を密告したのが、『長い家路』の脚本、助演、彼の弟であり現在の映写技師でした。しかも直接手を下した兵士はソポンの父であったことが明らかになります。父は、ソテアには「命を救う」ために結婚したと信じ込ませていました。
映画はこのショッキングな事実を踏まえて『長い家路』のラストシーンを、失意の弟が頭を丸めて出家する、に作り変えました。それでも父の所業は明らかにせず、母に知らせません。
ここにカンボジアの苦悩があります。
現在の政府は元ポル・ポト派も国づくりの一員とし、彼らの犯した罪を問いませんでした。この映画は、それを明らかにすることを求めています。
若者たちの成長を描き、この苦悩を越えてカンボジアの未来を担ってほしいと期待を込めました。