11月例会『ナチュラルウーマン』学習会

標記の学習会を10月30日「あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)」の田崎俊彦さんから「性的マイノリティの基礎、性的マイノリティの人権」というタイトルで話をしていただきました。
ナチュラルウーマン』の主人公がトランス女性ということで、性的マイノリティとはなにか、彼らの人権は守られているのか、というテーマで日本や世界の主な国の状況を聞きました。

LGBTで表される性的少数派の人々の人権を守る法律は、現在の日本ではほとんどないといっていい状況です。EUや米国の州の多くが認めている同性婚を認めていません。
そして法的問題だけではなく、より広く「生き辛さ」ということが、日本では大きいようです。
学習会で気づいたことを書きます。
・レズ、ホモ、両刀使い、オネエ、オカマは差別用語で彼らを傷つける。
・LGBT以外に、I(インターセックス肉体的に男女に分けられない)Q(クエスチョン性的嗜好が確定できない)A(アセクシャル恋愛感情性的欲求がない)X(Xジェンダー自分自身の性別が男女にあてはまらない)他にもあるという。
・LGBとTは区別する必要がある。日常的法的に別々に考える必要がある。
キリスト教イスラム教は宗教として同性愛を禁止していると見られていたが、そうではない。EU諸国は容認している。教義の読み方。イスラムも転換するかも。
・LGBは性的嗜好で非日常的、Tは日常的だから大変。多数派との軋轢が多くなる。
 機関誌で作品の背景ということで、LGBT等は書きましたので、それを載せます。
※  ※  ※  ※
基本は寛容と多様性の尊重
1.はじめに
ナチュラルウーマン』の原題は「素晴らしい女性」です。英語の「ナチュラル」は「天然の、生まれつきの、普通の」という意味ですが、邦題の意図は不明です。この映画の主人公マリーナは、彼女自身の言葉では語られませんが、トランス女性(この言葉の意味は後述します)です。
映画は彼女の心の内や人生を解き明かすものでも、生き方を問うものでもありません。ごく自然に生きているマリーナが、最愛の人の突然死に直面し、最後のお別れをしたい、彼の思い出となるものがほしいという、彼女の自然な願いを阻む社会、彼女を排除しようとする人間関係を描きました。
なぜ周囲とのトラブルが生まれるのか、彼女の強欲とか過剰な願いによるものではないことは、映画を見ればわかります。
彼女自身が、チリの社会的規範からはみ出す性的マイノリティであり、そのことで「普通の市民」から排除されます。映画はその不自然さ、醜さ、卑しさと、根強さを描きます。
映画はそれを乗り越えたマリーナのすばらしい歌声でラストを締めくくりました。
2.性的マイノリティとはなにか
人間の性的な要素は生物学的な肉体、心の問題として性自認、そして恋愛感情や性的欲求が誰に向くかという性的指向の三つがあります。その組み合わせによってタイプが決まってきます。
多数派の規範は、肉体的には男女二種類で、肉体と心の性別が一致していて、性的指向は異性という人間です。しかしそこからはみ出す人間は多様に存在しています。
日本ではLGBTという言葉で、彼等の存在が可視化されています。Lはレズビアン(女性同性愛者)Gはゲイ(男性同性愛者)Bはバイ(両性愛者)Tはトランスジェンダー(体の性別と心の性自認が異なっている者)という意味です。その割合は七〜八%という調査があります。決して少ないと言うレベルではありません。
しかし肉体でも心においても男女二種類と分けることは出来ません。性染色体はⅩⅩ(女)XY(男)だけではなく、内性器外性器の形状も様々です。生物学的に典型的な男と女を両端にして連続的に変化する人々が存在します。心の有り様も様々です。性的指向も男、女、両方あるいは性別に拘らない、という人もいます。
性的マイノリティはLGBTでは捉えきれない多様性を持っています。
映画はマリーナの心の内を描きませんが、彼女を取り巻く人間関係と彼女の肉体映像から、肉体的には男、心は女、性的指向は男と見えます。ですから彼女はトランス女性で異性愛者です。
オルランドと愛し合うシーン、バスルーム、警察で写真を撮られるシーン、男性サウナへの潜入等、彼女は自然な体を見せます。奇異な感じはしませんが、決定的なものは、見る者の想像の中です。
3.世界と日本の動向
 国連は二〇一一年一五年と「性的指向性自認と人権」と題する決議を可決し、一六年には国連人権理事会のテーマ別手続に新しく「性的指向性自認と人権に関する独立専門家」を任命しました。性的マイノリティの権利保障は、今や国連の人権施策の主流です。
 性的マイノリティの権利保障は、世界の各国においては文化や歴史、宗教、経済状況、地理的配置、人権意識等により様々です。二〇一六年五月現在で七三ヶ国(アジア、アフリカ、中近東が多い)が同性愛に刑事罰を科し、十三ヶ国(サウジアラビア、イラン、北朝鮮等)で最高刑が死刑になっています。一方で性的指向を理由とする差別を法律で禁止する国は七六ヶ国(EU、豪州、南アフリカ等)同性の婚姻等を認める国は四七ヶ国(東欧以外の欧州が多い)になっています。
 チリは性差別禁止法(二〇一二)、同性パートナーシップ認定(二〇一五)がつくられています。しかし映画のような現状です。
 国連が動いて以降、国際社会は大きく変化しています。
 日本は国連の決議には賛成してきましたが、自国の具体的な権利保障の法制度は不十分と人権理事会で再三指摘されています。
 「性同一障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」が二〇〇三年に成立しています。当時は大きな前進でしたが、国際社会が性的マイノリティの理解を進める中で、名称や要件緩和など、改善しなければならない点が多々あります。日本学術会議は「性的マイノリティの権利保障をめざして」と言う提言(二〇一七年)で、差別を禁止する法制度や婚姻と教育、雇用・労働の三つの分野で彼らの権利保障が急務になっているといっています。
4.隣にいるはずなのに
 政権与党の自民党国会議員が、LGBTについて無知と偏見に満ちた差別論考を大手出版社の月刊誌に発表し、それが予想以上の批判を受けて休刊に追い込まれる事態がありました。
 また地方自治体が同性パートナーを認証する条例を作り始めました。その届出は世田谷区で六一件、宝塚市ではやっと一件だそうです。教育では、お茶の水大学がトランス女性の受け入れを表明しました。
 でも日本の世論がLGBT等の性的マイノリティに寛容であるとは思われません。一般的には知識がなく関心がないのではないか、と思います。
 江戸時代の日本は、宗教的にキリスト教イスラム教のような戒律がなく、男色に寛容な性的文化を持っていました。しかしテレビで見る「オネエ」タレントの扱いは、人権意識と性的マイノリティの存在が結びついていると言いがたいものです。

 自分を振り返って、周囲にいるはずの彼らに気づいていません。やはり現実は厳しいと思います。(Q)
参考資料:「提言 性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」日本学術会議/「LGBTを読みとく」森山至貴/「先生と親のためのLGBTガイド」遠藤まめた
11月例会は16,17日です。新開地のKAVCホールで上映します。詳細は神戸映画サークル協議会のHPを見てください。
https://kobe-eisa.com/