2020年1月~3月に読んだ本

「現代推理小説体系11(海の牙/水上勉)(4万人の目撃者/有馬頼義)(落石/新田次郎)(獣に降る雨、魔女の視線/菊村至)」「不発弾/相場英雄」「憂いなき町/佐々木譲」「わがひそやかなる愉しみ/田辺聖子編」「やくざと芸能と/なべおさみ」「仮面小説家/桜沢ゆう」「覆面作家大沢在昌」「軽い心/小玉オサム」「犬の掟/佐々木譲」「神戸 近代都市の過去・現在・未来/池田清」「透明な迷宮/平野啓一郎」「科学する心/池澤夏樹」「池上彰森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題/池上彰森達也」「漫画マルクス・エンゲルス/丸川楠美」「天才の思考/鈴木敏夫
2020年1月から3月までに読んだ本を数えたら21冊ですが、そのうち読んだといえる本はこの14冊です。それもすべて紹介できないし記憶も薄れています。特によかったものだけを紹介します。
「現代推理小説体系11(海の牙)(四万人の目撃者)(落石)(獣に降る雨、魔女の視線)」この本は表記4人の5本が収録されていました。読みたかったのは「海の牙」です。

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これは水俣病を背景にした推理小説です。東京都の保健所の職員が水俣にやってきて殺される、というのが事件ですが、当然、水俣病の実態、水俣湾に暮らす漁民の被害、廃液を流出している企業、本来取り締まらなければならない行政、学者や医者などのさまざまな立場の人たちが出てきます。
 事件周辺の人々がたくさん出てくるので、読んでいて、何度か前に戻りましたが迫力は感じました。
 「四万人目撃者」はどんな話か知らずに読み始めたが面白い小説でした。プロ野球のスター選手がゲーム中、ヒットを打って3塁ベースの手前で死ぬ、それを4万人の観客が見ていました。そこに居合わせた検事が、事件性は感じなかったものの、なぜか違和感を覚えて、独断で「個人の興味」として死因を探るというところから始まります。
 事件ではないので、表立って警官を動かせないのですが死亡した選手の周辺の人々(家族、控え選手、球団関係者、経営する喫茶店関係者)を探っていきます。常用の薬に毒薬が混ぜられていたという可能性を考えますが、その毒薬が何かわからない、という謎が残っていきます。
 関係者ということで、いろいろと調べられるのは嫌なものです。いろいろな可能性を見つけ、潰しで、じわじわと死の背景まで迫っていくのは、地味ですが面白く感じました。
「わがひそやかなる愉しみ」田辺聖子さんが編集したアンソロジー15編です。これは面白かったですね。「ひそやかな」ですから公にできない愉しみでいうと谷崎潤一郎が思い浮かびます。彼は「富美子の足」という若い女の足に執着する老人の話でした。意外だったのは加賀乙彦の「くさびら譚」です。これまた老教授、医学博士の話で、こちらは茸に取りつかれた男です。田辺聖子は「嫌妻権」という皮肉な小説です。妻はいるのが当たり前という前提で、嫌うという気持ちはわかります。
「神戸 近代都市の過去・現在・未来」は神戸市政を分析した本ですが、現実の市政を直接に調べたものではなくて、適当に過去の文献をつなぎ合わせたもので、なんとも中身のない本でした。「現在・未来」は、著者が神戸市職員であった時期と重なるのに、そこにはまったく言及しないし、労組の「ヤミ専従」問題でも、実際に見聞きしているはずなのに体験的なことは全く書いていません。第3者委員会報告だけを材料にして簡単にまとめて、宮崎市政の労務政策などと書いています。
 自治体の労働組合の役割や課題について考えたこともないのでしょう。そしてこの問題が「ながら」条例や労働組合の再編など全国的な自治体労組の問題と、神戸市内部の問題とにかかわっているのに、それにふれることもありません。
彼が現在所属している兵庫県自治体問題研究所が出している神戸市政関係の本を読んだ感じもありません
宮崎、笹山、矢田、久元と市政が変わってきていますが、丁寧な調査もしていないようです。大枠として全国の政令市と比較しての検討もありません。その程度だとは思って読みましたが、改めて失望しました。
「科学する心」は面白い本でした。池澤さんは新聞などのエッセイは読んでいますが、まとまった本としては初めてです。彼は理学部中退ということも知りました。12章ですが、生物、物理、宇宙、原子力、農業、AI等多分野の科学的知見をわかりやすく日常生活に引き付けて書いています。

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ブルーバックスよりも専門性が低く文学性がある、こういう科学読み物は好きです。ここで紹介されている動画や本、言葉などを紹介しておきます。
まず「powers of ten」はユーチューブで見ることができる、素晴らしい映像です。どういう仕掛けになっているのかわかりませんが、カメラが極大から極小まで変化します。
最初、地面に寝転ぶ男女を上から撮っていて、どんどんカメラは宇宙に飛び出してきます。湖畔、米国、地球、太陽系、銀河、島宇宙と10の24乗まで行き、今度はどんどん近づいて、細胞、分子、原子、原子核まで10の-16乗までの映像を見せます。
 本では人類の歴史を俯瞰的に書きながら、なぜ我々だけが生き残ったかを解き明かす「サピエンス全史」、カンブリア紀に生物の種類が爆発的に増えたことを解明した「眼の誕生」、次はこれらを読みたいという気にさせました。
言葉では「現実は努力と運の組み合わせでできている」「農業革命は史上最大の詐欺」「科学は五感をもって自然と向き合う姿勢」「AIは『考える』ことは出来るが『思う』ことは出来ない」に納得しました。
池上彰森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題」池上彰森達也ともに個性ある二人ですが、それが話をできる関係とは知りませんでした。二人とも組織に属さないジャーナリストですが、池上さんはテレビ、新聞の中で権威と一定の地位を確立しています。森さんはいわばアウトローのイメージです。

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 映画サークル5月例会『i新聞記者』の背景を書くときに参考にしました。
 新聞の宅配制度が市場原理を促進させて、読者が好みそうな論調になっていく、というの意見は「そういうものか」と納得しました。読売や産経が安倍政権支持の記事を書くのは読者の多くがそれを期待しているということです。
 戦前、中国への侵略や米英との戦争に対して、新聞が好戦的になっていくのは読者の意向にこたえようとしたのです。
 それとどんな政府も、マスコミに圧力かける、それに従うのはマスコミの責任で、そういう意味で日本のマスメディアは情けない状況です。
 「マスコミがエリートになってしまった」という指摘も、言われればそうかと思います。ブンヤという言い方は「やくざな仕事」みたいですね。テレビやラジオの仕事も新しく、しかもそこで働く人は幾重にも下請けになっているみたいですね。正社員が偉くなるのでしょう。
「漫画マルクス・エンゲルスカール・マルクスとフレッドリッヒ・エンゲルスの自伝的漫画です。彼らが出会う少し前から共同で「共産党宣言」を書くまででです。

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歴史的な名著である資本論をかいたマルクスエンゲルスですが、どんな人間であったのかよく知りません。資本論講座に4回ほど通い、その思想は少しは理解しているつもりですが、この漫画は彼らの思想を解き明かすのではなく、生い立ちとか人間性、家族、友人などを紹介したものです。
 第3巻もこの調子で書いてもらえたらと思います。彼らの思想の理解も、その人生を知ればすすむかもしれません。
「天才の思考」は、鈴木さんが高畑勲宮崎駿というアニメに大きな存在である二人と映画をつくってきた様々な出来事を振り返って語っているのですが、彼らの思考の深みというのが感じられませんでした。
 面白いのは面白いのですが、彼らが物事を考える基準が何か、ぐらいは書いてほしいと思います。例えば高畑さんは映画人9条の呼びかけ人なる等、社会に向かって発言していますが、宮崎さんはそういうことはしません。自分の任ではない、という感じかなと思いますが、例えば「永遠の0」などには極めて辛辣な批判をします。
 二人以外の新人監督、近藤喜文、宮崎の息子の宮崎吾郎米林宏昌の話は長所だけでなく、力足らずのことも、もう少し詳しく書いてほしかったですね。
「不発弾/相場英雄」「憂いなき町/佐々木譲」「犬の掟/佐々木譲」「覆面作家大沢在昌」はさすがに面白かったです。