8月例会学習会「伝統的メディアの現状」坪井兵輔(阪南大学教員)

『i-新聞記者ドキュメント-」の学習会を表記のタイトルで開催しました。

 坪井さんは、前職が毎日放送の記者、ディレクターで新聞やテレビの現場をよくご存じであると思い、学習会を依頼しました。期待にたがわず面白い話が聞けました。

 新聞もテレビも大変厳しい状況であるということが確認できました。この二つを「伝統的」と言っています。インターネット、スマートフォンSNSが普及して以後、「伝統的メディア」の財政的な危機が急速に進行し、その結果、制作の現場は荒廃しているようです。

『i-新聞記者ドキュメント-』の主人公、望月衣塑子さん

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 講演を聞いて、結論を先に書きますが、権力の監視や調査報道をする能力ある記者の再生産がもっとも重要で急務であると思いました。地方紙の危機は現実のようです。神戸新聞すら危ない状況です。

現場の危機

 新聞の発行部数が激減し、20193780万部と最盛期の3/4になっています。若年層が新聞を読んでいないのです。大学生は2%ぐらいといわれていますが、坪井さんの子どものクラスで古新聞を持ってくるように言われた時に、持ってきたのは40人中3人だったそうです。

 若年層にはニュースはインターネットで無料で読むのが当たり前で、ヤフーニュースに無償で出している産経新聞のニュースが読まれているようです。若年層は産経史観に染まっているといってもいいでしょう。情けないことです。

 インターネットが普及し始めた1995年ごろに、他に先駆けて産経新聞は無償で出しています。しかしそれで新聞の部数が伸びるわけではありません。産経新聞の待遇を聞きましたがひどいものです。非正規雇用に毛の生えた程度です。

 インターネットの配信で成功したのは日経新聞だけだそうです。

 新聞の危機の先例は米国です。地方紙がどんどん廃刊になって、その地域の自治体の取材ができなくなっているようです。「ニュース砂漠」と言って、その地域の住民に地方議会で何が議論されているか、自治体予算の課題は何かとか、知らされていません。その結果、投票率が低迷しています。関心が薄れると民主主義が機能しません。

 日本でも投票率が低下傾向です。そしてかつては選挙報道は、それぞれのテレビ局の社を挙げての最大のイベントで力を入れて番組作りをしたようですが、今は違うと、坪井さんは言います。

 出口調査など社員の半分ぐらいが動員されていたのが、そうではなくなったようです。各政党党首へのインタビュ-など「池上彰に任せればいい」的な発想があるようです。

 東海放送制作の「さよならテレビ」は本当にテレビ局の内部事情をドキュメンタリーにしたようです。このドキュメントで一番びっくりしたのは、分刻みで視聴率が出ることです。誰が担当したコーナー、だれが出た時間帯に見る人が増えるのかてきめんに出ます。それがテレビ局で重要性を増しているようです。

 昔は視聴率が低くとも「いい番組ができた」と酒を酌み交わすことがあったようですが、

今は難しいといいます。 

 民放におけるスポンサーの影響の話もありました。番組全体を買い取る場合はイメージが大事で、スポンサーの意向は必ず反映されるようです。例えば日立製作所がスポンサーであれば、原発の被害などは絶対に欠片も入れた番組制作はできません。

 ワイドショーやバラエティなど、MCの服装、化粧にもスポンサーが付くようです。ペットボトルの水もラベルが見えるように置かれるといいます。サブミニナル効果が狙われているようです。

 そしてテレビ局の現場では下請け化が極端で、制作現場300人中、社員は13人といいます。そして報道番組は金がかかり、しかも視聴率も低いので「肩身が狭い」思いです。

中継車を出せば20万円、ヘリを飛ばせば100万円。コメンテーターは10万円程度です。

暗い見通しだが

 坪井さんは、紙のニュースはなくなるだろうという見通しを言われました。確かに費用対効果でお金に換算すれば、そうなります。

 今、広告料を最もとっているメディアはインターネットです。新聞広告は激減です。

 しかし現状でもテレビのニュースのもとは圧倒的に新聞です。放送局が独自でニュースを取ってくる力はなくなっているようです。インターネットとかSNSに載っているのは信用できません。

 実際に、力のある記者は、大手新聞社やテレビ局で求められているようです。これもビックリでしたが、産経新聞の記者が朝日新聞に大勢転職しているようです。

 権力の監視はジャーナリズムの重要な役割です。それができる記者の育成が肝要だと思いました。どんな社会的な仕組みを作るのか、これは権力や行政ではできません。

 一つは市民運動だと思いました。ユーチューバーとかもいます。ファクトを検証しながら自ら記事も書いていく「市民記者」を大勢作り、その中から専門的な記者に成長してくれればと思いました。