2020年7月に読み終えた本

7月は思いのほか、たくさんの本を読みました。その中から紹介したいと思う本の書評を書いてみました。

『幽霊と自転車/永田よしつぐ』

「幽霊と自転車」「ひとみさんの瞳」「電球」の短編3つ。社会の底辺に生きる真面目な若者の純愛小説という感じ。登場人物はみんな大人ですが、恋愛感情が希薄な感じです。

純文学にしたら思索の深まりがなく、魅力的な人物像の造形もなく、リアルな生活感も出せていないので、永田さんが小説を書くのは無理だと思います。映画評論に集中してください。

『未来少年ケン』『SF短編集(悪夢の死者、リルから来た悪夢)』『ミュータント外伝/桑田次郎

 先月に続き桑田次郎の大人向けの漫画を読みました。人類史を旧人類の誕生、そして新人類が生まれ、両者の生存競争、文明を発展させて、ついには宇宙への進出、異星人との接触と広げています。あるいは「人外魔境」(原作:小栗虫太郎)等、未開の地には人知が及ばない謎がある、と漫画らしい発想です。

 でも通俗的に人間社会の課題、戦争や差別、経済格差などには触れません。

『民主主義の「危機」:国際比較調査からみる市民意識/田辺俊介編著』

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 これは読了出来ませんでした。世論調査のデータをもとに表記のテーマを探った10人の研究者が書く学術的な文書です。ですから読みにくく、読破する根気がありませんでした。それで各章の最初と最後の単元を読みました。それでもけっこう言いたいことはわかるし、主旨を把握できたと思います。

序章「民主主義の危機を把握するために」1章「若者は本当に政治に無関心なのか」2章「シティズンシップは涵養できるのか」3章「誰が民主政治に参加しないのか」4章「誰が支持する政党を持たないのか」5章「誰がデモに参加するのか」6章「『大きな政府』か『小さな政府』か」7章「自由か安全か」8章「グローバルかナショナリズムか」9章「多文化主義か同化主義か」終章「民主主義の『危機』を打開するために」

 1989年の東西冷戦構造の崩壊、ソ連陣営の自滅によって「自由と民主主義」の政治が勝利したように喧伝されましたが、すぐに「教科書的事実」として「民主主義の危機」が言われ始めました。

その一つに「若者の政治的意識が低い、近年は低くなった、日本は特にそんな感じ」が第1章で取り上げられています。結論は、若年層の政治的関心の低さは社会的な齢間役割分担(年齢による社会的役割)の表れで、いつの時代でもどこの国でも生じてきたこと、というものでした。

年を取れば次第に高くなるといいます。しかし先進国の全体的傾向としては投票率などは低下しているので、若年層でも昔より低い傾向はあるようです。

『真夏の雷管/佐々木譲

 道警シリーズ。佐伯、小島、津久井、道正寺等のいつものメンバーが勢ぞろい。

 JR北海道を不当に解雇された男が、復讐にかられて爆弾テロを画策しようとするが、彼らの活躍で阻止された、という話。その男と彼に協力する少年などを巧みに配し、社会的な背景を作り上げているが、犯人側からの直接な声は書かない。

 周囲の人間の証言でJRがいかにひどいことをやっているかが出てくるが、事実として、それが社会的批判などを浴びて改善されていないのだから、底辺の人間の恨みは封じ込められ、無念さだけが伝わってきた。そこが上手。

『拝啓、衆議院議長様/古川健』

 これは726日のブログに書きました。いいシナリオです。

『炎と苗木/田中慎弥

44編のショートショートです。星新一等のSF作家のそれと違って、明確なオチがあるのは少なく、不条理小説で「奇妙な味」のショートショートになっています。普通の単行本サイズで1編が3頁です。

 安倍政治が嫌いなのはよくわかります。例えば「右傾化」では、実際に体が右に傾いている首相を出しました。思想的なことは書きませんが、メディアの「体が傾ている」報道に対する首相側の言い訳、反論は詭弁を弄し、いかにも彼が言いそうなことでした。

風狂に生きる/三國連太郎・梁日石』

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 この本の構成は三國連太郎と梁日石の対談がメインです。そして二人について、それぞれ5人が人となりを語っています。三國には渡辺エリ「特殊な光線」、原田美枝子20で三國さんに遭遇した」、相米慎二「時代をはみ出る人」、勅使河原宏三國連太郎の利休」そして水上勉「芯のある人」と主に映画人です。梁も5人で映画監督の崔洋一を除いては私の知らない人達です。

 三國は出演して映画、梁は著作についてそれぞれ自ら解説をしています。

いずれも言葉使いも含めて、かなりあけすけに話しています。それがとても気持ちよく読みました。

 『怪優/佐野眞一』を読んで、もう少し三國を知りたくなりこれを読みましたが、期待どおりでした。「かなり」といっていいほど変人です。5年周期で役者をやめたくなり、一方で役作りで健康な歯を抜いたりしています。

 梁日石の本は読んでいないので、彼については何も言いようがありません。でもこれを読んで彼の評論集『闇の想像力』を借りました。

『現代宇宙論を読む/池内了

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 1992年に書かれた本で、宇宙論もかなり変わっているだろうな、と思いながら読みました。案の定、21世紀に入って発見、撮影された巨大ブラックホールについては書かれていません。

 しかし宇宙の全体構造をどのように考えるか、それはどのような発見の積み重ねからつくられたかがよくわかります。

 真空とは「何もない空間」と思っていましたがそうではなく、強い電場をかけると、そこから電子と陽電子が生じます。ですから人類が感知できないけれども、そこに何かがあるのです。

 また真空だと思われている空間にはダークマターと言われるもので満たされている、ということも重力を量ることで分かっているといいます。

 宇宙の原初であるビックバンについても説明していますが、私の能力では説明しきれません。関心がある人は、宇宙論の本を読んでください。現在では、そのようなことは常識になっているようです。