2020年7月に見た映画

『コリーニ事件』『一度も撃ってません』『芳華』『罪と女王』『真実』『エスケープ-ナチスからの逃亡』『テルアビブ・オン・ファイア』『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』『不愛想な手紙』『プラド美術館 驚異のコレクション』10本です。

『コリーニ事件』

 フィクションが現実を動かす、という素晴らしい法廷小説の映画化です。

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 殺人犯コリーニを演じるのはマカロニ・ウエスタンの名優フランコ・ネロでごつい顔でいい味を出しています。しかし少年時代とちょっと変わりすぎの感じです。

白昼、豪華なホテルでイタリア人が穏健な企業会長マイヤーを殺害する事件が起きた。犯人は黙秘を続け会長との関係や動機もわからない。しかし担当したトルコ系の新米弁護士は、地道の調査を続けて、犯人の身元を突き止め、とうとう被害者との関係までたどり着きました。

マイヤーは元ナチスの将校で、イタリアで市民を虐殺し、犯人のコリーニは、その時、父を殺された子供でした。

彼とその姉は一度マイヤーを告訴しますが却下されていたことも明らかになりました。それは1968年「ドレーアー法」と呼ばれる、ナチス戦争犯罪に加担した「命令されてやった」人々を救済する法律が作られていたためです。

この映画の原作はナチス戦争犯罪を巧妙に隠そうとする高級官僚を鋭く告発し、国に法律の見直しを促しました。

原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハはドイツの高名な刑事事件の弁護士で小説家、そして驚くべきことは彼の祖父はナチスの幹部でした。

『一度も撃ってません』

石橋蓮司が主演、売れないハードボイルド作家で、その妻が大楠道代、元教師という。そこだけで、画面全体が昔の日活ロマンポルノの雰囲気を持っているコメディです。

佐藤浩市が定年間際の編集者で出ていて、軽い役でいい味ですが駄目です。映画出演も主演作品も多く、日本を代表する役者だが、出ている映画が悪い。これはという映画がない。単に運が悪いということではなく、いい監督に呼ばれていないのではと思ってしまいます。

父、三國連太郎が評価した『道頓堀川(監督:深作欣二)では、若いちょい悪のハスラーを演じています。その後の映画ではコメディからシリアス、時代劇まで色々な役回りをで出ていますが、普通に俗人的な主人公や脇役です。いわゆる個性的な役者にはなり切れませんでした。

この映画自体は、特に論評することはありません。

『芳華』

 前半は、人民解放軍の文工団という歌と踊りで、前線を慰問する芸能集団の若者たちの青春を描きます。1976毛沢東が死んだときにやってきた、田舎出の少女に注目するように描きます。彼らは、ある意味エリート集団です。歌や踊りに能力を発揮し、人民解放軍が評価しています。

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 現在の目で見ても、普通の若者でした。愚かで嫉妬深く、溌溂として恋をしています。

 悪夢のような文化大革命もほぼ終息し、鄧小平が指導する改革開放へと国家方針を切り替えた時代です。

 映画は、中越戦争と文工団解散を挟んで現在へと切り替わります。

 後半は、中越戦争は悲惨な映像がこれでもか、と描くとこから始まります。そこで心身ともに負傷した男と女が、脇役のようでありながら、この映画の中心になります。

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元文工団で成功した男女をとは違う人生を歩む彼らに焦点を合わすことで現代中国を批判している、と私は思います。

 しかし検閲を経ていますから、そこはソフトな描き方です。中越戦争の経緯や開戦した理由を明示していません。汚職警官を批判します。

この映画は中国で大ヒットしました。それを踏まえて検閲のある映画をどのように見るのか、批評の仕方を考えないといけません。

『罪と女王』

 デンマークの確立された男女平等と個人の自由の中でこその、男女の立場でしょうか。いわば少年をもてあそぶ、高名な女弁護士の傲慢さを描きます。

 夫と家庭を持ちふたりの子どもがいる40代の女性が、諸般の事情から、問題行動の多い、夫の先妻の息子17歳を引き取ります。ふとした弾みで彼とセックスをしてしまいますが、それがバレそうになるや、一切を否定し、彼を大ウソつきにして家から追い出します。そして彼が自殺めいた死にいたるという話です。

 デンマークと日本ではセックスや男女の関係、親子の関係などが違うから微妙なところはわかりません。でも「同意なきセックス」は男からみるとありえないし、この面では17才でも男の責任は負えると思います。捨てられてから死ぬというのが納得できませんでした。

 彼が別の形で、女弁護士に復讐するという映画になれば、これとは違うテーマになってしまうのでしょう。

『真実』

カトリーヌ・ドヌーブジュリエット・ビノシュが主演、監督に是枝裕和と豪華トリオが組んだ映画ですが、平凡な感じです。「映画はテーマ」という面があると認識しました。映像美や娯楽的要素を持つ映画があまりない是枝作品は、豪華女優を配しても、それで魅せると言ことにはなりません。是枝作品のうち私が評価しない系統の映画です。

 国民的な女優であるドヌーブが、老いた国民的女優を演じます。ビノシュが娘で、映画はドヌーブの気ままな振る舞いと二人の葛藤を描きましたが、あまり深まっていません。

 過去の二人に近い女優の謎めいた事件を匂わせますが、それも空振りです。

エスケープ-ナチスからの逃亡』

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 ナチス占領下のノルウェーユダヤ人少女エスターが、ナチスに追われて、男に化けて都会から田舎の農場に逃げ込みます。

 そこにはナチスのシンパのノルウェー国民統一党の農場主ヨハン、身障者の息子、ナチス将校と不倫している妻がいました。

 ヨハンは障害がある息子を人前に出さず、一人前の扱いをしません。その反動で、機敏に動く男装したエスターを可愛がりました。

 息子は当初からエスターと心を通わせています。妻もエスターの正体を知りながら夫を嫌い、家族は破綻していました。エスターは農場から脱出する機会を狙っていました。

そしてヨハンが、ナチスと国民統一党幹部を家に招く、最高の名誉ある日に、それらの矛盾が爆発します。農場が燃え上がり、お互いに殺し合う、ナチスが敗北へ転換するような場面です。一気のカタルシスありました。

ラストに戦後、生き延びて生家に帰ってきたエスターを描きました。

ナチスものですが、ファシストの農場主とその家族の話でもあります。

『テルアビブ・オン・ファイア』

 西神ニュータウン9条の会のHPに書きましたので、こちらをご覧ください。

 http://www.ne.jp/asahi/seishin/9jyonokai/

 映画サークルの11月例会になりました。

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』

 スウェーデンの専業主婦はどのくらいいるのだろうと考えました。

ブリット=マリー、彼女は長年、家事と夫の世話をすることだけを考え、完ぺきにこなしていました。夫婦には子供はいません。

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彼女は、薄々気が付いていた夫の浮気に直面した時に、家を出ます。40年ぶりに働きますが、何の経験も資格も持たない彼女は、田舎町ボリのユースセンターの管理人で少年サッカーのコーチに就きます。

 個性的な住民とも付き合い、サッカーチームの子どももたちも懐きます。子どもたちに移民(難民かも)が混じり、活躍しています。

そして夫が「帰ってほしい」と迎えに来ました。しかし彼女の選択はパリに行くことでした。

 この映画には原作があり、原作も映画も大ヒットしたようです。でも、この映画の何がいいのか私にはわかりません。

『ぶあいそうな手紙』

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 ブラジル映画ポルト・アレグレという人口140万人の大都市で、一人暮らしの78歳エルネストに、昔の友人から手紙が届きます。しかし彼はほとんど目が見えなくなっていました。隣に耳が聞こえなくなっている、友人がいますが、ちょっとした喧嘩があり、エルネストは同じアパートの住民の姪だという若い女ビアに手紙を読んでもらいます。

 そして返事も彼女に書いてもらいます。彼女と知り合ったエルネストの生活は、少し楽しくなりますが、ビアも色々と訳アリの女です。

 独居老人のわびしい生活ですが、それは自らが選んだものです。ラテンアメリカの老人は子や孫と暮らすことを、潔しとしないようです。だからラストシーンのようになりました。

 私は好きです。 

プラド美術館 驚異のコレクション』

 ナビゲーターを務めるのはジェレミー・アイアンズですから、見てみようと思いましたが、私には無理な映画でした。ダリやゴヤなど知っている画家もいましたが、この世界に入れませんでした。

 スペイン王室のコレクションを核にした美術館の紹介です。