2021年1月に読み終えた本(その1)

『愛ある追跡/藤田宜永』『あおぞら町春子さんの冒険と推理/柴田よしき』『フェイクボーイ・リアルボーイ/たむろ未知』『掃除屋―プロレス始末伝/黒木あるじ』『溢れて/藍川京、草凪優館淳一、牧村僚、睦月影郎』とりあえず5冊を紹介します。あと1週間で読む本は23冊ですが、それは「その2」です。

『愛ある追跡/藤田宜永

 藤田さんの本は「探偵・竹花」シリーズ等を読んでいて、ミステリー系を探して、これもそうかなと思って借りましたが、ちょっと違う感じです。

 獣医の父親を主人公にした4つの連作短編で「男の総決算」「愚行の旅」「じゃじゃ馬」「再出発」です。

 勤務医が殺されて、娘が、その男と不倫関係にあって、殺した容疑者として指名手配されます。彼女は「無実」という連絡を父に入れて行方をくらまし、父は彼女の無実を信じているが、警察より先に探して話をしたいと思って、獣医の仕事を放棄し、精神を病んで入院している妻にも黙って全国を探し始めます。それを警察、定年を直前にした担当の刑事が時々探りを入れてくる、という大枠です。

それぞれ娘を探す行動、旅を続けながら、それ以外の事件が絡む話になっています。まあまあ読ませます。しかし落ちなり、事件の全貌は明らかならない、中途半端に終わります。続きはないようです。

「男の総決算」は娘がデリヘル嬢をしているという情報を得て、父はその店の運転手になり、娘を知っているデリヘル嬢に近づき、彼女の事情が浮かんできます。娘は影が見えただけでした。

「愚行の旅」は友人から三重県伊勢市で娘を見たという情報を得て、父は飛んでいきます。娘は、その昔、麻薬に手を出して姿を消したミュージシャンの所に居ましたが、すれ違うように消えていきます。

「じゃじゃ馬」は、石川県白山市で物産展の売り子をしているという情報でとんでいきます。そこで殺された医師と同僚であったという病院長に会いますが、娘の姿はありません。

「再出発」は群馬県安中市の温泉でコンパニオンをしていたという情報で、再び飛んでいきます。そこで元ヤクザであった爺さんと親しくなります。暴力団も事件に絡んでいるようですが、娘はいません。

 丁寧に紹介しましたが、次の展開はどうなるのか、という期待を持って読みました。殺人事件の全容はもちろん、娘と殺された男の関係すら、はっきりとはわからないままに終わりました。駄作かもしれませんが、引き付ける筆力でした。

『あおぞら町春子さんの冒険と推理/柴田よしき』

 これは柴田よしきさんらしい傑作です。「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」「陽平くんと、無表情なファンの冒険」「有季さんと、消える魔球の冒険」3篇の短編で、主人公は、プロ野球2軍選手、園田拓郎と結婚した春子(元看護師)さんです。殺人事件とかはなく、平凡な日常生活の中で出会う、ほんのちょっとおかしなことから、彼女は事件に気付きます。

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 「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」は、ごみ捨て場に捨てられた白い花が気になった花子さんは、捨てた男と話をしていくうちにDVで監禁されていた、その妻に気づきます。

「陽平くんと、無表情なファンの冒険」は、2軍の試合を見に来る女性がいつも同じ席に座ることを聞いた花子さんは、街で噂になっている窃盗団に結びつけました。

「有季さんと、消える魔球の冒険」は、引退したプロ野球のスター選手の奥さん、美人の有季さんと知り合いになり、その夫婦の秘密を打ち明けられて、春子さんはより深く人生を考えます。これはミステリーではありません。

3つの話の後で、春子さんは自分の人生を考えずに拓郎の生活を支えるのではなく、自立した人生を考えることが、本当の意味で拓郎を支えることになると、気づきます。

柴田よしきさんの小説は、多彩で幅が広いのですが、いつもそこはかとなく女らしさを感じています。

こんな言葉があります。拓郎が、後輩ですがチームのエース級になっているスター選手から結婚式の司会を頼まれ、断り続けた時に、春子にその男から連絡があり「人生の恩人」と教えてもらいます。

その時「春子は、誇らしさで胸がいっぱいになった。私の拓郎。拓ちゃん」と書きました。

これだけで、私は痺れました。

『フェイクボーイ・リアルボーイ①~④/たむろ未知』

 レディース・コミックの感じですが、結構まじめなトランスジェンダーモノと言ってもいいと思います。

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FTM(体は女、心は男)の薫は、彼(彼女)の秘密を隠してバイク便で働いています。お金をためて、体を男にする手術をしようとしていました。

 それが仕事の最中に麻薬組織の犯罪現場に出くわし、秘密にかかわる証拠物件を預かって、事件に巻き込まれます。

 命を狙われる目にあいますが、職場の先輩・雄大、彼の従妹でジャーナリストのナオコに助けられて、事件は落着します。しかし薫の秘密は二人に知られます。

 ここから話の流れは変わってきて、ナオコが薫を中心にトランスジェンダーのルポを書き始めます。その取材のためにMTF(男の体、女の心)やFTMの話を聞き始めます。薫も雄大も、それに巻き込まれていきました。

 雄大は女の薫に惹かれていきます。男になりたい薫の気持ちも理解しようとしますが、ホルモン治療でひげが生えてきたと薫が喜ぶのを見て、複雑な気持ちです。

       FTMで男の体を得た人、彼が女の時に生んだ娘を、薫が好きになるという挿話もあります。

溢れて/藍川京、草凪優館淳一、牧村僚、睦月影郎

「女陰塚/藍川京」「私が捨てた男/草凪優」「淫欲溢れてやまず/館淳一」「死んでもいい/牧村僚」「女体盛り/睦月影郎」官能小説短編5編のアンソロジーです。

 当然セックス描写が多いですが、一流の作家ですから設定も面白いです。「私が捨てた男/草凪優」は、うだつの上がらないグラビアアイドルがAV女優になる話。「淫欲溢れてやまず/館淳一」SMで結びついた夫婦。「死んでもいい/牧村僚」は、末期がんになってあこがれの義姉と関係を持つ男。

『掃除屋―プロレス始末伝/黒木あるじ』

 50歳直前のロートルプロレスラー、ピューマ藤戸を主人公にした連作短編「造花」「不運」「三巴」「好敵手」「捕食者」5編です。

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ピューマ藤戸は、かつては大きな団体のスターレスラーでしたが、今はフリーになって前座のコミカル・レスリング等で地方巡業を回っています。試合中に親友でライバルだったレスラーを昏睡状態に落としたことが直接の原因です。

彼の裏の仕事は、高い報酬をもらってプロレスの試合中に相手の体を故障させ、長期療養か廃業に追い込みます。レスラー仁義に外れる所業をした者、プロモーターのいうことを聞かない外人レスラー等が対象です。ガタガタの体ですが、ここぞというときに力を発揮する男という設定です。

私はプロレス好きでした。力道山ジャイアント馬場アントニオ猪木大木金太郎吉村道明豊登の時代から、鶴田、坂口、藤波、天竜、長州、タイガーマスク、川田、小橋、グレート・サスケぐらいまでは知っていますが、今はほとんど見ていません。

だからこの本が目に留まって読みました。評価はまあまあといったところです。深い人物描写やミステリー的などんでん返しまではいきません。