2021年2月に見た映画その2

2月の後半に見た『あなたの名前が呼べたなら』『秘密への招待状』『花束みたいな恋をした』の3本を書きます。

『あなたの名前が呼べたなら』

 映画サークルの2月例会でした。以前に劇場で見て、今回の担当であり試写で見て、例会日にも見ました。「良くできた映画」と言う感想ですが、例会のちぎりアンケートで「良くなかった」という評価が一つ入っていました。意見は書かれていません。

 この映画は、夫が死亡したために田舎から出て金持ちの家のメイドとして働きだした、若い寡婦ラトナが、新婚早々、妻の浮気で別れた米国帰りの男アシュビンと、身分の差を越えて、お互いに思いを通じ合わせる、プラトニック・ラブであり、ラトナの自立の映画です。インドにある男女差別、身分差別、経済格差等が背景に描かれています。とてもやさしい映画でした。

 何が「良くない」と思ったのかと気になります。考えを巡らすと、この映画はインドの深い恥部を描いていない、ことに気が付きます。極端な貧困、根深い身分差別、暴力的な宗教差別、不衛生なスラム街が出てきません。そして政治的な批判もありません。

この映画の監督ロヘナ・ゲラは米国の名門大学で学び、映画作家であると同時に平和運動自然保護団体にも加わっているようです。男女の違いはあるもののアシュビンと同じような西欧的な民主主義の価値観を持っているように思います。そこから女性の自立という観点で、経済発展と近代化をめざす、インド社会の問題をとらえたと思います。

 ですからインド特有のどろどろしたものを避けて、経済格差と男女差別を浮き上がらせるように単純化したと思いました。

『秘密への招待状』

 原作があり、原題と同じく「結婚式の後で」といいます。

 インドで孤児院を経営している女性のところに、米国の大企業を経営する女性から「寄付するから来てくれ」という連絡が入ります。そしてニューヨークで、彼女の娘の結婚式に出席します。そこから、この映画の人間関係などの種明かしが始まります。

 ちょっと気色悪い映画と感じました。こんな言い方をすれば反発があるかもしれませんが「大金持ちがインドの孤児院に2000万ドルを寄付する話に、尾ひれを付けただけ」みたいです。

 子どもが出来た時に、育てられないからと、男と別れ子どもを養子に出した女。女と別れた後で子どもを取り返して自分で育てた男。その男と再婚して継母となって娘を育てた女、彼女は広告メディア会社を立ち上げて大成功。母親は死んだと聞かされて育った娘。彼らが一堂にそろったのは、この娘の結婚式でした。

 のちに、その関係がわかるのですが、みんなそれなりに成功していて「よかったね」です。ところが経営者として成功した女性の余命がなく、会社を処分してインドの孤児院に寄付をするのです。

誰でも死にます。それはちょっと不幸ですが、その程度です。それを、起業で大成功した一家が不幸な人生で何か悲しそうな雰囲気を出す映画でした。

『花束みたいな恋をした』

 脚本の坂元裕二はテレビドラマ『それでも、生きてゆく』から気にかけていましたし、その上、この映画で山音麦(菅田将暉)の書くイラストに、映画サークルの表紙を書いていただいている朝野ペコさんのものがつかわれている、そんな理由で、普段はあまり見ない甘い恋愛映画を見に行きました。

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 深く愛し合った若い男と女が、5年ほど一緒に暮らし、そして心が離れて、別れるという映画でした。

 盛者必滅会者定離と言う言葉を思い起こします。時の流れは残酷で、人の心は変わっていくし、この映画でいえば、女はそう変わらないが、男の生き方が学生時代と、働きだしてからは大きく変わっていく、と描きます。そして二人の心は離れていったが、恋愛感情が無くなっても男、麦は「結婚しよう」といい、女、絹(有村架純)は別れを選び、同棲を終えていきました。

 でもそれは男が変わり、女が変わらないということではなく、この場合の二人がそうだ、と言うだけです。

 二人がまだ知り合っていない段階で、同じような感性の持ち主であると見せます。そして知り合い、本、雑誌、ゲーム、映画、芝居、音楽、展覧会、写真等の好みが一致していることで、二人はとても満足して、恋愛関係におちます。

この時「好きなものが共通よりも嫌いなものが共通する方が長続きする」という立川談四楼師匠の言葉を思い起こしました。

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 上手な映画ですが、気になったことを書いておきます。

 独身男、麦の異様にきれいなアパートの部屋、新聞も週刊誌、月刊誌もとっていない、テレビも見ない、エロ本エロDVDもない生活環境です。芸術家肌とは思えませんが、大学を卒業した時は、彼はイラストレーターを志望していました。

 二人は現実に対応して、就職します。でも女、絹はやりたいことをめざして仕事を変わります。しかし男、麦は「仕事は遊びじゃない」と我慢して働くことを選びます。その彼の会社は通販業界です。荷物を配送していた同僚が「労働者ではない、誰にでもできる仕事はしたくない」といって、荷物を放り投げて、退職したエピソードを挿入していました。

 これが男と女の違いということではないです。逆の場合もありますから。昔のパターンはどちらかが我慢して、一緒に暮らす幸せを選ぶことが多いのかな、と思いました。