2021年3月に読んだ本その1

『文豪山怪奇譚/東正雄』『韓国 行き過ぎた資本主義―「無限競争社会」の苦悩/金敬哲』『アンソロジー隠す/アミの会(仮)』

とりあえずこの3本を書きました。

 アンソロジーが好きです。知らない作家の短編が読めるからで、知らない作家の長編はちょっと手が出にくいですが、アンソロジーに入っている短編は無理にでも読みます。ここで魅力を感じた人は次を読みます。でも今回は、そういう新しい人とは出会いませんでした。

『文豪山怪奇譚/東正雄』

火野葦平「千軒岳にて」田中貢太郎「山の怪」岡本綺堂「くろん坊」宮沢賢治「河原坊」本堂平四郎「虚空に嘲るもの 秋葉長光菊池寛百鬼夜行」村山槐多「鉄の童子平山蘆江鈴鹿峠の雨」泉鏡花「薬草取」太宰治「魚服記」中勘助「夢の日記から」柳田國男「山人外伝資料」編者解説(東雅夫

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 文豪と言われる人達ですが、昔の文体はちょっと読みにくく、10頁以内、長くて30頁と短い作品ですが、時間ばかりを食いました。でも雰囲気はあります。

 私の好みを紹介すると「くろん坊」。これは、人間がくろん坊(黒人と言う意味ではなく、人間の仲間に入らない山の民)に「娘を嫁にやる」とだまして使役し、ついには殺してしまう話です。くろん坊の恨みが残り・・・、と言う話です。

「虚空に嘲るもの 秋葉長光」は名刀、長船を持って、嵐の中を山頂の神社に参った豪傑が途中で、何者かに腕をつかまれますが、刀で払って登り切り、帰りの朝日の中で見ると、岩を切り取っていた、という話です。ともに短いものですが、哀れさを感じました。

 柳田國男のエッセイも怪奇譚に入れられています。それは書き出しで、山に住む山の民を、里に住むものとは違う先住族としてみるところから、一連の小説と同じ怪奇的レベルになっているからでしょうか。山の民は麓に降りることなく、山から山と山脈の中を行き来して、日本列島の自由に移動していると書いています。

『韓国 行き過ぎた資本主義―「無限競争社会」の苦悩/金敬哲』

①「過酷な受験競争と大峙洞キッズ」②「厳しさ増す若者就職事情」③「職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代」④「いくつになっても引退できない老人たち」⑤「分断を深める韓国社会」

    「政府の過剰に新自由主義的な政策により、すべての世代が競争に駆り立てられている「超格差社会」韓国。その現状を徹底ルポ!」「一握りの勝ち組とその他に分断された超格差社会」という宣伝文句がありました。

 韓国は特殊合計出生率1を切る状況で、これだけでどれほど生き辛い、希望の持てない社会であるかが推察できます。

 若者が結婚できない、結婚しても子どもを産む余裕もなく、子どもの未来が明るいものではない「いくら努力しても階層の上昇が難しい社会」そんな思いを持っています。それをすべての世代について紹介していました。大変です。

①は子ども時代、②は大学生の就職事情、③現在の社会を支えている4050代、④老人世代です。

 その直接のきっかけは1997年の通貨危機、映画『国家が破産する日』であったように、IMFに融資を頼んで、その条件として新自由主義政策を受け入れたことです。そして皮肉なことに、初めての進歩派政権、金大中大統領の時代にその実際の政策を実行します。

 過酷な規制緩和と緊縮経済によって、借金は3年半ほどで返したといいます。それが今に至っているということです。

 皆保険皆年金制度が整ったのは1999年ですから、制度全体の維持も大変な状況です。このような社会をどう変えていくのか、韓国国民の知恵と力を見てみたいと思います。

『アンソロジー隠す/アミの会(仮)』

大崎梢「バースデーブーケをあなたに」加納朋子「少年少女秘密基地」近藤史恵甘い生活篠田真由美「心残り」柴田よしき「理由」永嶋恵美「自宅警備員の憂鬱」新津きよみ「骨になるまで」福田和代「撫桜亭奇譚」松尾由美「誰にも言えない」松村比呂美「水彩画」光原百合「アリババと四十の死体 & まだ折れてない剣」女性作家ばかり11篇です。

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 知っているのは柴田よしきだけでした。はっきりと言えば、この本では「次も読んでみよう」と思う魅力的な作家を見つけることは出来ませんでした。良かったといえるのは柴田よしきだけですね。

 短編であるからか、ここに書いている作家の特性か、テーマや舞台設定が日常的で身近なことばかりです。わずかに「アリババ・・・」が千夜一夜物語の一つを賢い女奴隷をミステリー風の裏話に仕立てています。

 女性が主人公ですが、みんなちょっと意地が悪いか、ユニークな性格です。私が気になり憧れる、あるいは可愛いと思うような人は描かれていません。