『風の電話』『オフシャル・シークレット』『ジョーンの秘密』いずれも期待を持ってみたのですが、ちょっと肩透かしを食った感じです。テーマや素材が良くても、いい映画にするには一工夫二工夫が必要です。
実話を劇映画に仕立てるには、不明確な部分があっても蓋然性が高い映像を挿入して、全体像をわかりやすくするとか映画的効果によって面白く見せるとか、してほしいと思いました。この程度では残念ながら、評価することはできませんでした。
『風の電話』
市民映画劇場の3月例会です。「風の電話」という、個人が作った「天国に通じる電話」が大槌町にあります。それをネタに作られた映画で、大災害の被害者を前面に出しすぎ、の印象が残ります。
3.11東日本大震災、岩手県大槌町を、大津波が襲います。父母、弟を失った9歳の少女ハルは、呉に住む叔母に引き取られて、高校生になりました。
叔母が急に倒れて入院する事態になって、彼女は一人ぼっちになったと思った時に、大津波の記憶がよみがえりパニックになります。そして何の準備もなく大槌へ帰ろうと、ヒッチハイクにでました。
その旅の途中で、彼女が色々な人に出会って、少しずつ生きていく力を取り戻していくという映画でした。
突然の大災害で肉親を失った少女を主人公に持ってきて、その悲しみを前面に出すのは、好きではありません。悩みながら生きていくのが多くの人の生き方だと、私は思っているのです。
この映画には定まった脚本がなかったようです。クルド人のコミュニティでのやり取り、福島出身の西田敏行の故郷を思う語りと歌、ラストのハルの風の電話での独白は、俳優に任せた即興と書いてありました。
大きな悲しみを抱えた人間をドキュメンタリータッチで描いたという評価もありますが、自ら人間を描く力がないと言っているようなものです。
ですから、この映画にはロード・ムービーの特徴である見知らぬ人が出会う場面の面白さがありませんでした。
『オフシャル・シークレット』
実話に基づく映画です。
米英がイラク戦争を開始する直前、「違法な戦争」を起こそうとしていると、英国政府の極秘の情報を漏らした諜報部所属の女性キャサリンが、裁判で闘って処分を撤回させた話です。
彼女は諜報部で、外国語文書の翻訳家として雇われます。イラク戦争開戦に向けた文書を見た彼女は、知り合いを通じてマスコミに流します。そして犯人探しが始まりますが、彼女は自ら名乗り出ます。そして逮捕されました。
トルコ系移民の夫にも圧力が加わり、強制送還されそうになります。
彼女は弁護士と相談して、違法な戦争を止めるために情報を公開することは合法、という方針で裁判を戦うことを決意します。
しかし、いざ裁判となった時、検察は裁判を放棄します。結果的にイラク戦争が「イラクが大量破壊兵器を持っている」という嘘からはじまった戦争であることを認めました。
キャサリンが広島にいたことも、戦争に反対した動機であると、映画は言いました。
主演のキーラ・ナイトレイはきつめの美人ですが、ちらっと出てきた実物はおとなしそうなかわいらしい女性です。
『ジョーンの秘密』
第2次世界大戦の戦中戦後から、英国の原水爆の機密情報をソ連に流し続けた女性科学者がいた、という実話です。
2005年、80才のジョーン・スタンリーは突然、国家反逆罪で逮捕されます。外交事務次官が死んで、彼の残した資料から彼女とともにソ連の諜報部に機密情報を流していたことが明らかになりました。
映画は、1938年戦前戦中から戦後にわたってのさまざまな人間関係、男女関係などを描きます。大学時代の彼女の交友関係から、ソ連との関係は始まりました。
そして彼女は物理学者として原爆開発プロジェクトに入り、研究するとともに、その責任者と不倫もしていました。
彼女は、広島長崎に落とされた原爆に大きなショックを受けます。そして二度と世界大戦を起こさないために、米ソの力が均衡している必要があるという信念にもとづいて、西側の科学情報を出していました。
映画的にはちょっと退屈でした。