『ストックホルム・ケース』『グレタGRETA』『無頼』『赤い闇スターリンの冷たい大地で』『ソニア ナチスの女スパイ』残り5本の紹介、感想です。
『ストックホルム・ケース』
イーサン・ホークが主演だから見ようと思いました。ちょっと抜けた、人の好い、線が一本足りない、粗暴な強盗の役を好演しています。
ストックホルム症候群という、誘拐や監禁された被害者が、生存を図るために加害者にすり寄っていく心理の語源となった実話に基づいています。
1973年ストックホルムの銀行に銃をかざして、見るからにいかれた男ラースが強盗に押し入ります。銃を乱射して銀行員を人質にとって、お金と刑務所にいる友人の釈放を求めました。
でも凶悪犯ではありません。段々とラースの人の好さが出てきます。
警察は銀行を包囲して、逃げられないようにしていろいろと交渉を始めました。それがなんとものんびりとして、コメディかと思うような展開になります。
そして人質となった女性銀行員ビアンカ等が、いつしか犯人と心通わせる関係になっていきました。
逃走用に車を用意しろ、そうすれば人質を解放するという要求に対し、警察は首相の命令で、それに応じません。いらだつ犯人と人質たちが組んで、警察や政府をだましにかかりました。あの手この手を使いますが、結局、ラースは警察に逮捕されます。
後日ビアンカはラースに会うために刑務所に行きます。離婚はしませんが、あの一日が忘れられなかったということです。男と女の関係になったとことを映画は描きますが、男の人質たちもラースに協力します。人質たちは警察と政府が信用できないと見えたと映画は描きました。
自分の命がかかった時に人間の心はどのように動くかをよく描いていました。そしてスリリングな体験を共有すると、心が通じ合ったと思い込み、それが忘れられなくなるのでしょうか。
『グレタGRETA』
イザベル・ユペールが主演だから見ようと思いましたが、怪演でした。でも好きな映画ではありません。同じような怪演の『エルELLE』のほうがよかったです。
これは実話ではないと思います。地下鉄に上等そうな婦人用の手提げ鞄をわざと忘れて、それを届けてくれた人と友達になる、老嬢グレタ(イザベル・ユペール)の話です。
気のいい若い女性フランシス(クロエ・グレース・モリッツ)が地下鉄で拾ったかばんを届けた相手は、ちょっと上品な感じの高齢の女性グレタでした。親しくなって何度か家に行きますが、ある日「鞄の秘密」に気づき、彼女の異常さを感じます。
そして会うのを拒否しますが、ここからオカルト映画のような展開になりました。
グレタは執拗にフランシスを追い回して、もう一度、親しい関係に戻りたいと迫ります。フランシスはグレタの身の上話が嘘で固められたものと知り、ますます恐怖を感じて町を出ようとします。
グレタは元看護婦で麻酔、毒物などを使って、これまでも何人もの被害者を家に監禁し、最後には殺していました。
なぜそういう行動をとるのか、人の心理が理解できないと不気味です。グレタは子供が自殺して、孤独であったと推測できますが、若い人と親密になりたいのはいいけれども、拒否されて殺すところまで行くのは異常すぎて理解できません。
まあ、このような映画の通例で、主人公は危機一髪で助かりますが、どうも後味がよくありません。若い人と親密になりたいのはいいけれども、拒否されて殺すところまで行くのは異常すぎます。
『無頼』
井筒和幸監督だから見よう、と思った映画ですが、ちょっと期待外れです。
戦後の日本で不幸な子供はたくさんいたと思いますが、だからと言って暴力団に入るのは納得できません。でもそんな世界を生き抜いた人間を描く映画でした。モデルがあるそうです。
主人公は何度も刑務所を出入りしますが、死ぬこともなく成功した部類の人間です。引退して発展途上国の、幼かったころの自分と同じような貧しい子供たちを援ける仕事をしようとします。
私は「なんだかなあ」と思います。
やくざ、極道、任侠、暴力団といい方はありますが反社会的勢力で、法律を犯して金品を得ることを生業とする人たちです。多くは暴力を使って善良な人々、財産や命までも奪います。
それを主人公に映画を作るのですから、彼らから見た戦後日本の変遷、政治家や財界人などが彼らをどのように利用してきたかなど、戦後民主主義の矛盾を描くのかな、と思ってみました。そうでもありません。
また日本社会の変化、高度経済成長、オイルショック、バブル景気そして長期の不景気と新自由主義政策などが彼らにどのように反映したのかも見ようとしましたが、それもわかりません。
結局、何も残らない映画でした。井筒監督に期待してみたのですが残念でした。ただ出ている役者の顔が、主演の松本利夫や松角洋平等あまり整っていなくて、存在感を感じて面白いかったです。
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
実話に基づく映画です。
ヒトラーをインタビューした新進気鋭のジャーナリスト、英国首相ロイド・ジョージの外交顧問でもあった、ガレス・ジョーンズが1932年~33年に起きたホロドモール(スターリンの指導するソビエトのウクライナで引き起こされた大飢饉、数百万~1400万人の死者が出たといいます)を報道した史実を映画化しました。
第2次世界大戦前、各国が不況にあえぐ世界恐慌の中で社会主義ソビエトは着実な経済成長を遂げていました。
その秘密を探ろうとガレスはソビエトに潜入します。モスクワについた時から、官憲の様々な妨害があります。そこに滞在する外国人ジャーナリストたちの退廃ぶりも明らかになります。ピューリッツァ賞受賞の米国人記者がソビエト政府に加担していると描きました。
ガレスは、その秘密はウクライナにあると嗅ぎ付けて、密かに行きます。そこで見たのは飢えた人々です。人肉さえも食べていたと描きます。
豊かな大地であったウクライナの荒廃、それは農業政策の失敗で人為的な大飢饉であり、しかもソビエト政府は人民を見捨てていました。経済活動のためにウクライナから穀物を持ち出していたのです。
何とか英国に帰国したガレルは、ソビエトの惨状を報道しようとしますが、戦争前の混乱した政治的な状況から弾き飛ばされました。
全体主義を批判した『動物農場』を書いたジョージ・オーウエルとの出会い、そして米国の新聞王ハーストと知り合い、ガレルはとうとうホロドモールを報道しました。
しかし、それでも多くの妨害を受けました。
社会主義ソビエトの幻想の下でどれほど多くの人々が殺害されたか、しかも自由な報道さえも抑え込まれたか、よくわかりました。
『ソニア ナチスの女スパイ』
これも実話に基づく映画です。
実在した北欧の女優、ソニア・ヴィーゲットをモデルにした映画です。スウェーデンは中立を守りましたが、ノルウェーとデンマークはナチスに侵略され支配されていました。
ノルウェーの舞台や映画で活躍していたソニアは、ナチスを嫌う父の影響もあって、実質的にノルウェーを支配するナチスの弁務官の招待に応じませんでした。
しかし父が強制収容所に入れられ、スウェーデンの諜報部からナチスの情報を手に入れるように要請されます。やむなく弁務官に近づきます。
彼女はナチスの宣伝に協力させられ、さらに北欧諸国の反ナチ活動の情報を得るように依頼されました。
2重3重のスパイ活動をするソニアは、複雑な人間関係を泳ぎます。それに恋愛感情も絡む面白い映画に仕上がっていました。でも白人を識別するのが難しく、誰と誰がつながり、敵対するのは誰かがよくわからない映画でした。
ソニアは戦中はもちろん戦後もナチスに協力的な女優と見られていました。国家の機密文書が公開されて、やっとその全貌が明らかにされて名誉回復されたようです。
自分の身や家族を守るために、意にそぐわないことをすることは悲劇です。しかもそれがスパイであることは心身ともに厳しいものであることは容易にわかります。
安倍「桜を見る会」に行った芸能人は、ソニアとは明らかに違うと思います。