2021年8月に読んだ本その2

『伊東晴雨物語/団鬼六』『怪談/小池真理子』『世界8月号』です。残り3冊を簡単に書きます。

『伊東晴雨物語/団鬼六

 現在では少しは知られた(と思うが)責め絵画家の伊藤晴雨の自伝的小説。団鬼六の数少ないSM以外の小説です。

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 小さい頃から責め絵、芝居の女性が縛られる場面、拷問の場面が好きでたまらない伊藤は、それを描くためだけに生きたようです。変人変態として見られ、結婚しても妻を縛ってモデルにしています。

 同じ好事家からは高い評価を受けますが、それ以外には全く評価されません。それでも一時的なブームがあり、その時はお金も手に入れますが、それ以外は不遇の人生です。しかし、それでも彼は満足していたようです。

『怪談/小池真理子

「岬へ」「座敷」「幸福の家」「同居人」「カーディガン」「ぬばたまの」「還る」7本いずれも32頁前後の短編です。恨みを残して死んだ「怖い」「ぞっとする」ような怪談ではなく、この世の常識では測れない、嘘か誠か判然としない、そのような奇妙な味の小説です。要約するのが楽しい短編集でした。

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 「岬へ」は、近しかった男友達、求婚されたが、そんな気にならない男が、断崖から投身自殺をしたのを気にかけて、その岬付近の宿屋に来た女の一夜の経験。

 「カーディガン」は、会社の同僚の送別会を、小さなスナックを貸し切って行い、みんなが帰った後に残ったカーディガン。だれも忘れた者はいないが、店の女主人に聞くと、会社以外の人間がいたという、そんなはずはないと言いながら、彼女が残していった名刺を手掛かりに家を訪ねた話。

 「同居人」は座敷童の話で、移り住んだべ別荘に誰かがいると感じて、その存在にいつのまに馴染んでいく女の話です。

『世界8月号』

 特集は「サピエンス減少―人類史の折り返し点」でした。「まもなく世界人口はピークを迎え、減少局面に転ずる」にピンときませんでした。実際に人口推計は202078億人から2100109億人となっています。しかし中身を見ると一番増えるのは高齢者であり、増える地域はアフリカです。なるほどと思いましたが、個々の論文を要約して書くことはできませんでした。力不足です。

片山善博の「日本を診る」(141)「企業統治指針改定―政府が「まず隗より始めよ」」】

 企業統治の原則(2015年に東京証券取引所が定め、この6月に改訂された)を政府に当てはめて考えると、というのが今回の話。

 取締役会に多様性を求めているが、それはジェンダー、国際性、職歴、年齢等で、現在の内閣21人中女性は2人、二世三世は10人と偏っている。

 そして情報開示、意思決定の透明性・公正性、説明責任も求められるが、これらは民主主義の基本であり、安倍菅政権ではないがしろにされてきた。

 企業統治指針は安倍政権の下で策定されたが、「正しい施策」ですが政府自身がその基本原則を踏みにじっているという指摘です。

 岸田政権になっても直らないかもしれません。

【メディア批評(164)/神保太郎】
  1. 「コロナと五輪」―この堅牢な枠組みを超えて

 この間「コロナと五輪」だけが重要視された報道であったという批判で、「土地規制法」という国民の主権を揺るがしかねない法律が強引に成立した。[読売][産経]だけが支持するという悪法。

 五輪反対の社説を[朝日]も出したが、社内のからかなりの批判があったようだ。その対立の「根源は何か」という問いだけに終わっている。答えが聞きたい。

【蘇る戦場の鬼気―戦中派サスペンスを今読む/斎藤貴男

「戦争を推進した人間ないし組織への憎悪に貫かれたミステリ小説」2冊『蟻の木の下で/西東登』『太陽黒点山田風太郎』紹介しています。

 『蟻の木の下で/西東登』は1964年発行で、第10江戸川乱歩賞。戦争中と戦後の殺人をつなげたミステリーです。乱歩賞の選評で「現地を知らない人間には書けない」という評価を得ています。

 『太陽黒点山田風太郎』は1963年。ブルジョア子弟の「太陽族」に対する怨念を抱く真犯人の「次々に戦死していった同世代の友人たちへの鎮魂歌」と斎藤さん読み取りました。

 読んでみたいと思います。図書館にあるかな。