2021年9月に読んだ本その1

『深海の使者/吉村昭』『RIKO―永遠の女神/柴田よしき』『桃太郎は盗人なのか?―「桃太郎」から考える鬼の正体/倉持よつば』『刑事失格/ジョン・マクマホン』『喧嘩(すてごろ)/黒川博行』『世界9月号』6冊です。珍しく翻訳物がありますが、書評に惹かれました。ちょっと読みにくいのですが、全体的な組み立ては良かったです。それだけでなく、9月はそれぞれに面白い本でした。まず3冊を紹介します。

『深海の使者/吉村昭

 本当に久しぶりに吉村昭を読みました。戦史記録文学というのでしょうか、質量ともに読みごたえがありました。第2次世界大戦時の日本軍の記録とその間に挿入される想像の世界は、うまく融合していました。

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 日独伊三国同盟を結んだけれども、連合国側の制海制空によって、この3国の人と物の交流は非常に困難になっていきます。

 日本は戦争を有利にするため、ドイツのレーダー等の技術を得る必要があり、何としても定期的な連絡ルートを作ろうと策を練ります。ドイツも日本の技術、ゴムなど東南アジアの天然資源を必要としていました。

 しかし長距離を飛べる飛行機での北極回りルートは、ソ連領を侵すために東条首相は禁じます。それで潜水艦による、東南アジアからインド洋、喜望峰、大西洋を通って、ドイツが占領するフランスの西海岸の軍港まで3万キロ約2か月の行程を往復しようと試みました。

 日本の潜水艦は大型でドイツのUボートは小型であることを知りました。それは日独の海軍の活用目的、行動範囲が違うようです。連絡には長距離を航行できる日本の潜水艦が使われました。

 戦況が悪化する中で、それは絶望的な戦いでした。ほとんどが失敗して、兵士だけでなく同乗した科学者、技術者などの有為の人材を多く失いました。

 敵の制海圏を行く際の密閉した潜水艦の様子が淡々と冷静な筆で描かれていました。それは残酷なものです。

 また圧倒的な物量の攻撃を受けると、ほとんどの潜水艦が逃げることも抵抗も出来ずに沈んでいきました。

RIKO―永遠の女神/柴田よしき』

 凄まじい警察小説です。女性刑事が仲間の刑事からレイプされるシーンやレズビアンなどの性愛描写もふんだん盛り込んでいます。でも読んで興奮するという書き方ではありません。

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 ここが官能小説作家との書き方の違いです。

 村上緑子(りこ)という、性に対して奔放で破滅型、男を魅了する新しいタイプの女性刑事を作り上げます。しかも彼女の周りの男連中も好き者だという、それでいて全体的にはハードボイルドのスタイルを持っていました。

 警視庁の中にそんな人物を作り上げた柴田よしきさんの才能には恐れ入りました。

 小説の構成も、現在の事件の進展を中心にしながらも、過去の事象が、何かあるたびに緑子の中で蘇ります。それは彼女の心の揺れを描くとともに、登場人物の関係が明らかになっていきます。上手だな、と思います。

事件は少年たちのレイプ、裏ビデオから始まりました。そして被害者が殺されます。身代金目当ての誘拐というハードな犯罪、捜査情報の漏洩と、どんどん広がっていきます。

 横溝正史賞を受賞しています。

『桃太郎は盗人なのか?―「桃太郎」から考える鬼の正体/倉持よつば』

 小学4年生の女の子が、桃太郎と鬼について図書館の本を200冊以上借りて調べつくした経過と結果をまとめた本です。桃太郎も鬼も時代によって、その性格を変えていたことを明らかにしました。見事に文部科学大臣賞をもらっています。

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 桃太郎の出生も、若返ったおばあさんが生んだ回春ものと、桃から生まれたというものがあるそうです。

 江戸時代から明治251892)年までは、桃太郎は鬼の財宝を取りに行った「盗人」でしたが、それ以後は「悪さをした鬼」という理由がつけられるようになります。

 さらに昭和8(1933)年に「泣いた赤鬼/浜田広介」から優しい鬼が出てきます。

も時代によって、その性格を変えていたようです。

 この本には明確に書いていませんが、中国大陸など侵略戦争を仕掛け行く時代と、桃太郎の鬼退治は関係あるようです。