2021年9月の本その2

9月の残りの本『刑事失格/ジョン・マクマホン』『喧嘩(すてごろ)/黒川博行』『世界9月号』について書きます。

『刑事失格/ジョン・マクマホン』

 海外のミステリーあまり読まないのですが、書評がよかったので読みました。でも翻訳の文章が滑らかでないのと、登場人物相互間の人種や年齢、職種など関係性がうまく伝わってきません。優れたミステリー、ハードボイルドでは権力関係、利害関係だけではない、人種や宗教など、その社会特有の微妙な人間関係が、そこはかとなく表現される場合が多いので、海外物は難しいと思います。

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 これは米国南部のジョージア州が舞台で、人種差別が根底に潜んでいる州です。しかも警察組織は自治体警察、州の保安官は組織が違いますし(これには出ないがFBIが絡めば、それもまたややこしい)この本でも微妙な関係が書かれていました。。

妻と子が事故で死んで落ち込み、酒浸りになっている白人の刑事マーシュが主人公です。彼が顔見知りのストリッパーに頼まれてDVのヒモを深夜に恫喝に行きますが、翌日、その男が殺されたと報告が入ります。

昨晩の記憶があいまいで、殺人事件を全く知らないこととするために、ストリッパーに「俺のことは一切言うな」と言い含めて市街に逃がします。素知らぬ顔で捜査を始めますが、そこへさらに、郊外の農場で黒人の少年の変死が発生します。

関係する人間を調べ始めると、二つの事件が絡んできて、謎が広がると同時に単純な殺人ではないこともわかってきます。

最初の隠ぺい工作もあり、マーシュ自身にも嫌疑が及んできます。しかし黒人少年の殺人事件の根が深いことがだんだんわかってきます。それは人種差別と町のエライサンも含めた秘密結社の存在が浮かんできました。

という話です。題名のように刑事マーシュの個性も際立たせるミステリーでした。

『喧嘩(すてごろ)/黒川博行

 読みやすいのでついつい夜更かしをしてしまう小説です。大阪を舞台に大阪弁を使う暴力団関係者たち、それを利用しようとする悪徳政治家等のガラの悪い連中が勢ぞろいします。

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 建設工事の暴力団対策を請け負う建設コンサルタント二宮啓介とはみ出し暴力団員桑原保彦の「疫病神コンビ」第6弾という本です。

代議士事務所の秘書から暴力団に脅かされているから「話をつけてくれ」という依頼が「サバキ」(暴力団を他の暴力団を使って抑える仕事)を生業としている二宮に来ます。相手がかなり強力なので、知り合いの暴力団では手に余ることから、桑原に声をかけてしまいます。彼は自分の組を破門されているで、派手な喧嘩はしないと踏みましたが、そんなことではすみません。

「組の庇護」がない中で、喧嘩を売るので身の危険を感じるようになってきます。

その一方で、桑原は議員、議員秘書錬金術を暴いて金を得ようと、臭い所へ突っ込んでいきました。

 痛快な悪漢小説です。

『世界9月号』

 二つの特集がありましたが、両方とも読み切れませんでした。この二つの課題について底流では大きな変化があるはずと思っていますが、私の前の現実では、マイナスの要素が立ちはだかっていると見えているので、懐疑的になっているからです。コピーの抜粋を載せておきます。

【【特集1】企業を変える――気候・人権・SDGs】

 グローバル大企業は、現代の巨人族と化した。

 利潤を追い求めるその巨大な生産力と、洗練された広告・マーケティング手法による政治・世論への介入は、地球環境と民主主義に危機をもたらしている。人権侵害への加担が問われるケースも少なくない。

 持続可能なありかたへ、企業を変えなければならない。

【【特集2】最前線列島――日米安保70年】

 「日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する」。

 195198日に日米安保条約が結ばれてから、70年が経過した。

 沖縄では新たな基地建設が強行され、各地で無法な低空飛行訓練が常態化し、異常な騒音と危険が列島を包みこみ、首都圏の空域は占領されつづけている。

 屈従への痛覚すら失った〈現地政府〉とその官僚機構は、この列島を米軍の最前線拠点へと改造する作業に、せわしく立ち働いている。その合言葉は、「いっそう厳しさを増す安全保障環境」と「日米同盟はグローバルな公共財」といったものだ。

【メディア批評【第165回】/神保太郎(ジャーナリスト)】

①地下放送局から水鉄砲を撃て!

 香港の「リンゴ日報」廃刊を引き合いに、日本の産経新聞とフジテレビの権力に従属した報道を紹介。郵政のかんぽ生命の不正を暴くNHKに対し、郵政幹部が経営委員会を通じて

NHK会長に圧力をかけた、その議事録が公開された。

②ルール設定と報道の自由東京五輪の時期に

 バッハ会長に「嘘つき」という罵声を浴びせたフリー記者は、都庁職員に強制退去をうけ、「自称ジャーナリスト」とテレビは紹介した。

 まともに質問にも答えない権力者、彼らが決めた「ルール」を黙って守る会社員記者達に運営される記者クラブこそが問題です。

片山善博の「日本を診る」【142】ワクチン接種をめぐる混乱――自治体から見た国のお粗末と身勝手/片山善博早稲田大学)】

コロナ禍で自公政権中央政府の官僚たちの愚かさは、多くの国民の知るところとなりましたが、それでも「誰がやっても同じ」というように思う人は結構います。そうではないと思います。トランプとバイデンはちがうし、ドイツのメルケル首相とアベスガ首相では言葉が違います。

 同じように知事によっても自治体の姿勢が違います。大阪府知事は見事なくらい嘘で固めていましたが、府民の大きな犠牲は隠しようがありません。

 その上で、この小論は自治体職員から見た国の正体を書いていました。