2022年2月に読んだ本

 無職になって一月が過ぎましたが、なぜか忙しい毎日です。もう少しブログを書く時間をつくれるかと思いましたが、片付けるべき雑事が多くてそうもいきません。「自由」になって、あれもこれも目移りしていますが、ここは何とか週2回は守ろうと思います。

 ようやく2月の本に手が回りました。とりあえず3冊です。

『内閣調査室秘録―戦後思想を動かした男/志垣民郎、()岸俊光』『報道事変―なぜこの国では自由に質問できなくなったか/南彰』『慟哭は聞こえない/丸山正樹』『刑事という生き方』『運転者 未来を変える過去からの使者/喜多川泰』『青光の街(ブルーライト・タウン)/柴田よしき』『むかしむかしあるところに、死体がありました。/青柳碧人』『世界2月号』『前衛2月号』9冊ですが、1月に読み始めて2月に読み終わった本が多いということです。

 

『内閣調査室秘録―戦後思想を動かした男/志垣民郎、()岸俊光』

 「ナイチョウ」は、総理大臣直属の情報機関で、外国に対処する機関という勘違いをしていました。これを読んで、わかることは、対外機関よりも国内的に「反共」で米国に従う国をつくるために、国民を思想誘導する機関であるということです。

 この本は志垣民郎(俳優、志垣太郎の伯父)という、戦後1952年吉田首相によって作られた内閣調査室の創設時からかかわった人間(村井淳をトップに配下4人のうちの一人)の日記と内部資料によって、岸俊光が編集しています。

 CIAに招待されて研修を受け、人脈を広げていきます。彼の主な業務は政権に協力する学者、知識人、文化人に金をばらまいて集め、養成することです。それらの階層の人間は権力に従うことを良しとしない人が多いようです。ですから思想的に近いと思ったら若い時から近づいて、金と名誉を与えています。

 調査研究を委託するということで打ち合わせ、飲食などをした日にちが、実名とともに明らかになっています。

 藤原弘達はとても親しかったようです。林健太郎元東大総長、福田信之元筑波大総長、著名な国際政治学者の高坂正堯歴史学者の会田雄二等127人の名前が書いてあります。

 そして付き合ったけれども金を受け取らなかった人間として、小泉信三鶴見俊輔福田恆存、上山春平、堤清二がありました。

 今もそういう活動をしているでしょうし、おそらく学者よりも社会的に影響の大きいと思われる似非文化人、芸能人に近づいているのでしょう。

『報道事変―なぜこの国では自由に質問できなくなったか/南彰』

 南彰は新聞労連委員長を務め、東京新聞記者の望月依塑子と協力して、アベスガ政権を追求する姿勢を持っている朝日新聞の記者です。

 「はじめに」のところで、2018年、河野外務大臣(当時)の都合の悪い質問には答えない「次の質問どうぞ」を紹介しています。記者の質問を無視する政治家とそれを咎めず擁護する政権、さらにそれと対決しないマスメディア、ジャーナリズムに、この本の問題意識があります。酷いものです。

 以下のような章立てで、それぞれ問題を持っていますが④が後世までも禍根を残すものです。アベスガ政権はまさに私利私欲だけで政治を回しています。言ったこと行ったことの結果責任を明らかする姿勢は全くありません。

①答えない政治家②「望月封じ」全詳細③「嘘発言」「でたらめ答弁」ワースト10④文書が残らない国⑤記者クラブ制度と「連帯」

 報道だけではなく、思想や言論のレベルを上げていくには過去の積み上げが必要ですが、そういったことも含めて、正確な記録記憶を残すことが大事です。

『慟哭は聞こえない(デフ・ヴォイス)/丸山正樹』

 デフ・ヴォイス(deafvoice)とは「ろう者の声」という意味で、手話を指します。手話通訳士、荒井尚人と彼の家族を中心とする連作短編小説4編があります。そして末尾に筆者による長い「あとがき」があります。シリーズ3冊目です。

 1月に初老刑事、何森稔を主人公とする『孤高の相貌』を読んで、そのもとになった「デフ・ヴォイス」シリーズを知り、とりあえず西図書館にあったこれから読みました。

 期待以上に面白い本でした。ミステリーとは言えないかもしれませんが「謎」を秘めています。

 主人公、荒井尚人は聾者の両親から生まれた「聞こえる子供」コーダです。その特殊性を生かした物語が展開しました。妻は警察官で、子連れの再婚です。

『慟哭は聴こえない』

 荒井の兄家族が出てきます。聾者の壁を越えたい甥、妊娠した聾者の夫婦の混乱など、彼らにとって生きにくい社会が浮き彫りになります。そして荒井夫婦にも子ども(瞳美)が生まれます。彼女は聾者でした。

『クール・サイレント』

 聾者の男性モデルHALが注目を集め、所属事務所は俳優にまで売り込もうとします。そこへ荒井が呼ばれて、通訳と相談相手になりました。

『静かな男』

 廃屋で死んだホームレスの身元を何森が調べます。やがて彼が聾者であることがわかり、彼の人生が明らかにされました。

 手話にも方言があるのを知りました。

『法廷のさざめき』

 聾者の女性が、不合理で配慮の足りない会社を訴える裁判の原告側通訳で荒井が付きました。職場の様子がよくわかるように書かれてあります。

 健常者にとって、聾者との付き合いを経験したり真剣に考えていないと難しいと思います。私も無神経な人間の一人でした。でもこれを読んで少しわかりました。