2022年4月に見た映画その2

 4月の残りは『標的』『コーダ』『英雄の証明』『立ちあがる女』『サマ-・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビ放映されなかった)』『護られなかった者たちへ』『親愛なる同志たちへ』『クライ・マッチョ』『すばらしき世界』ですが、分割しながら感想を書いていきます。前から3つの映画を書きました。

『標的』

 ドキュメンタリーのすごい映画です。

 元朝日新聞の記者で、従軍慰安婦問題を否定したい勢力、人々からで「捏造記者」として酷い攻撃を受けた植村隆さんを追った映画です。

 植村さんが朝日新聞従軍慰安婦の書いた20年以上も前の記事に対して、誹謗中傷の嵐が巻き起こりました。大部分が匿名で、しかもそれは家族にまで及ぶという異常さです。

 戦前の日本が犯した戦争犯罪などを否定し、植民地支配がよかったという、馬鹿で恥知らずの人間が多くいることは知っていますが、ここまでするかという酷さです。

 事実として植村さんの記事は捏造ではないし、同種の記事は多くの新聞で書かれていますが、櫻井良子等の右派論壇は朝日新聞を標的にし、「植村攻撃」を煽っていると感じました。

 植村さんは櫻井良子等を名誉棄損で訴え、それは敗訴しています。しかし裁判の中でこの「植村攻撃」の目的が明らかになったと感じました。

 この映画の最後に植村さんの娘さんが顔を出して、たんたんとその思いを語ります。これは掛け値なしですごいです。 

 余計なことですが、このバッシングの時期に文珍がこれを落語のマクラにしていました。この時から嫌いになりましたが、「桜を見る会」で安倍首相の隣で得意満面の笑顔を見せているの見て大嫌いだと公言しています。

『コーダ あいのうた』

 child of deaf adrutでCODA、耳の聞こえない親から生まれた子どもということです。これはフランスの映画『エール』を米国がリメイクしたものです。しかし障碍者生存権を保障するという点で、フランスと米国は違いがあると思うから、ちょっと違和感がありました。

 ルビーは両親と兄の家族4人で暮らしていますが、彼女だけが耳が聞こえ、他はみんな聾啞者です。一家は父と兄が漁師をして生活しています。彼女は世間一般のつなぎ役で働いています。漁船の操業には聾啞者だけ乗船することを禁じています。

 高校の合唱部に入ると、教師は彼女の才能に気付き、音楽大学に入ることを勧めます。しかし彼女には家族の生活を手助けするという、生まれてからの仕事がありました。

 彼女が悩む姿、高校生活、恋愛、家族との葛藤など、とても感動的になるように作っていますが、どうも駄目です。

 聾啞者の家族があまりに能天気な感じがするのです。周りの人間との軋轢があまり感じられず、ほんとかなという思いが抜けませんでした。

『英雄の証明』

 西神ニュータウン9条の会HP5月号に書いたものを載せます。

 ICT(情報通信技術)の時代で

 イラン映画です。イランはイスラム共和制の国で、日本とは政治体制や法制度、社会的な常識、生活習慣等が違います。この映画は、そういう違いがありながら、マスメディアとネット社会という似通った社会の変化を描きました。

 借金が払えないために刑務所に入っているラヒムは休暇(刑期中に一時的に外泊することが出来るイランの制度)で、婚約者と姉夫婦に会いに行きます。

 その時に婚約者が拾った17枚の金貨を借金の返済に充てようとしました。でもうまくいきません。しかたなく持ち主に返そうと「鞄を拾った。連絡を乞う」とビラを貼り、連絡先をラヒム自身にして刑務所の電話番号を入れました。

 金貨は持ち主に返り、刑務所長はそれを知りました。

 ラヒムからすべてを聞き出した所長は刑務所のイメージをよくするために「正直者の囚人」として新聞やテレビに知らせます。それが報道されると、ラヒムは一躍有名人になりました。そしてチャリティ協会がラヒム救済の寄付金を募り、多くの人が協力し始めます。

 しかし「ラヒムの善行」を実証するために、落とし主を連れてくることを求められると状況は一転します。その人は名前も住所も告げずに去り、電話も公衆電話等からでした。見つけることが出来ません。

 今度は「ラヒムは大ウソつきだ」というSNSが流されます。ラヒムが噂を流していると思われる貸主の所に行くと喧嘩になりました。その画像も流されて、いよいよラヒムは窮地に追い込まれます。テレビの取材も中止になり、事情が分かっている刑務所長からも罵られました。

 結局、ラヒムは元の木阿弥となって刑務所に戻りました。

事実よりもイメージ

 金貨の入った鞄を拾って、それを元の持ち主に返したことは事実です。それをどう評価し利用するかは、立場によって違うことを描きました。しかもマスメディアだけではなく個人が発信するSNSが、事実以上に社会的に大きな影響力を持っています。

 それがラヒムの人間的評価と人生を左右しました。

 日本もよく似ていると思いました。