2022年6月に読んだ本その2

『葛藤する刑事たち/村上貴史編』『漂う子/丸山正樹』『世界6月号』『前衛6月号』

6月の残りはこの4冊です。簡単に書こうと思いましたが、そうはいきませんでした。

『葛藤する刑事たち/村上貴史編』

 時代ごとに並べた短編警察ミステリーの傑作を9編集めています。作品は以下のとおりです。これはそれぞれの事件に刑事が絡む小説、という以上に、編者は「組織としての警察に目を向けた小説」と言っています。

 編者は解説で、ここに載せた小説、作家だけでなくもう少し大きな視野で警察ミステリの変遷を書いています。それも面白いです。

 大雑把に〈黎明期〉は1950年代から、〈発展期〉は80年代から、そして〈覚醒期〉は21世紀ということだろうと思います。確かにそれぞれの味がありました。

〈黎明期〉『声/松本清張』『放火/藤原審爾』『夜が崩れた/結城昌治』〈発展期〉『老獣/大沢在昌』『黒い矢/逢坂剛』『薔薇の色/今野敏』〈覚醒期〉『共犯者/横山秀夫』『焼相/月村了衛』『手紙/誉田哲也

 その中で『焼相/月村良衛』はSFの色が濃くて、人質を取った立てこもりですが、警察と犯人の相克、葛藤があまり感じられませんでした。ちょっと異質です。

 この中で特によかった2編はこれです。手練れだと思いました。

『夜が崩れた/結城昌治

 ヤクザの妹を愛し、恋人にしてしまった刑事の話。

『共犯者/横山秀夫

 警察の銀行強盗訓練と同時刻で、別の銀行が強盗に襲われるという話。

『漂う子/丸山正樹』

 丸山正樹を初めて読んで、良いなと思ったデフ・ヴォイスシリーズではない小説です。

 これもよく書かれた本でした。

 住所不明児童(親の都合で転々と住居を変わり、学校にいけない子ども)を扱った小説です。ミステリーの範疇で読んでも、よく練られています。

 小学校の教師をしている恋人に頼まれて、フリーカメラマンが父とともに行方知れずになった女の子を探し始めます。彼は、その過程で今まで知らなかった社会の裏側を知ることになりました。 

 取り立てて犯罪が絡んでいるというということではありませんが、社会の謎に挑むミステリーです。

『世界6月号』

 特集は「核軍縮というリアリティ」「批判的野党がなぜ必要か」ですが、以下の対談がよかったのでそれを書きます。

【人新世の環境学-なぜいまカール・マルクスなのか(斎藤幸平(35×宮本憲一(92)の対談)】

 46月の2回に載りました。簡単に書きます。

 約60才の歳の差の対談ですから、どちらも遠慮するのは仕方ありません。でも言いたいことはわかりました。

SDGSがアヘン」と批判した斎藤さんに対して、これまでの環境問題に関する国連会議、ストックホルム1972)リオ(1992)等で出された共同声明は「妥協の産物」と宮本さんも答えました。

 マルクスの地球環境に対する考え方には触れていません。宮本さんが、これまでの活動でマルクス経済学者からいろいろと言われたことを出しているので、そこは避けている感じがしました。

 斎藤さんはマルクスの「物質代謝」に言及しますが、宮本さんは、それに直接答えずに「資本主義では気候変動」を解決できず「新しい社会主義が必要」といいました。

片山善博の「日本を診る」151回「街路樹伐採をめぐる混乱から地方議会の役割を再確認する」】

 地方議会の衰退を批判しています。自分たちが決めた施策について、議会はとても無責任だということです。

 街路樹伐採に対して、住民から反対が出ると、それを決めた自分たちが矢面に立たないことを批判しています。

 それはよくあることで、だから行政サイドから馬鹿にされます。

『前衛6月号』

 特集は「沖縄復帰50年で何が問われているのか」でした。それではなく巻頭の「新自由主義を転換し、『やさしく強い経済』を実現しよう/大門実紀史」を書きます。

 これまでの共産党の政策を踏襲するものですが、より現実を踏まえた説得力のあるものでした。

 章立ては①日本の新自由主義がもたらしたもの②「やさしく強い経済」を実現しよう、これまでの経緯、新自由主義の考え方と結果と、それを改善する手立てを書いています。

 日本の新自由施策の本格化は小泉・竹中の「構造改革」からで、所得税法人税の減税と消費税の増税によって貧富の格差を拡大してきました。

 それを改善する政策は①賃上げ②社会保障の充実③大企業・富裕層への増税④気候危機打開の経済政策⑤ジェンダー平等、でした。

 とりわけ「内部留保課税案」はよかったです。法人税減税によって積み上げられた内部留保を吐き出させるのは、とても合理的です。