『終の信託』『希望の国』

続けて映画です。26日27日でこの二本を見ました。『終の信託』は今年度最高作品になると想います。
希望の国』は園子温監督としてはよく撮った、体当たりの映画であるという評価はします。しかし私の感性ではない、というしかありません。


東日本大震災福島原発事故のあとに、再び大地震があり原発が事故を起こしたという映画です。
園子温監督は、痛烈に日本と日本人を批判します。我々は福島の事故から何も学ばず、時間とともに忘れていったという設定です。この映画の中でも「普通」の人は目に見えぬ放射能の恐さを、すぐに忘れて、恐がる人を変人扱いすると強調します。
日本人はそうかもしれないという、イヤだけど認めざるを得ないような感じはするのですが、それを乗り越える術を、この映画は示すことが出来ないというのが、私が評価しない理由です。
このような困難や過ちを、再び繰り返さないために、頑張る人はいる、そのことで未来は「希望の国」になる、と言えないのが園子温です。

同じく体当たりの『この空の花』も完成度は低いですが(大林監督には失礼な言い方ですみません)、人々の気持ちとどのような人間社会を作るのか、という点で、この二つは違うと思いました。
私は『この空の花』が好きです。
終の信託』は朔立木さんの原作で、それも読んでいますが、映画も原作も面白くて感動的です。周防正行には脱帽です。


映画は前半と後半に分けました。前半は主人公の女医、折井綾乃と、その患者、江木泰三との関係。そして後半は折井綾乃と、検事、塚原透との対決です。
この二つを交錯するように描かないことで、綾乃の思いが確たるものであると、強く感じることが出来ました。そして検事の狙いもわかりやすくなりました。
綾乃は同じ病院内の男と不倫をしていて、その男に棄てられたことで、落ち込んで「自殺未遂」事故を起こします。
そのときに、彼女が主治医を務める、重症の喘息患者である江木から優しい言葉を掛けられます。そこから二人はお互いの心を触れ合わせるような付き合いを始めます。
映画は、その様子を上手に描きます。決して男女の関係ではありませんが、恋愛感情のような親近感を持ちます。これが、この映画の肝です。
人はどのような時に、人を信頼するのか。そしてまた、その信頼の深さはどれほどなのか。それは個々に違います。恋愛でもない友情でもない、むしろそういったものよりも浅いかも知れない、「わかるわかる」の関係であったと思います。
しかし綾乃は、その関係から「少しでも苦痛を逃れさせてあげたい」と思い、江木を死にいたしめる処置を施します。
それに対置される検事は、まったく常識的な法の番人に徹します。被疑者は最も犯人に近いのだから、そこを徹底的に追及するのは当たり前です。
被疑者に罪を認めさせる、被疑者を有罪にする、それ以外のことは、検事の頭の中にはないと、映画は強烈に批判しています。しかも、この事件で言えば物的証拠も乏しく、自白に誘導するしかありません。
優秀な検事は、被疑者を罠に嵌めて、仕事を終えます。
映画はその一部始終を描くということで、検察の考え方を告発しました。
周防正行、まったくすごい映画監督です。

(続く)