「〈私〉時代のデモクラシー」(岩波新書、宇野重規)

 面白い本だった。電車の中で読んでいて、何度も何度も読み返しながら読み通した。あまりこんな読み方はしないが、この本は何が書いているのか、を理解しようと思って、そういう読み方をした。多少時間がかかった。しかし、その値打ちがあった。
 簡単に結論から言うと、人間は社会的に生きるから、「私」という個人を大切にしようと思えば、お互いを認め合う社会で「私たち」として生きることが大事で、現代はそれを見失っている。デモクラシーこそが「私」と「私」を結ぶ橋だ、ということ。
 説得力を感じた。そして、社会を作ろう、政治の力が求められる、というのは流されるように生きている人びとに希望を与える。
 現代をオンリーワンを求める時代であり、それは平等の時代であり、「500年続いた西洋支配」からの脱却の時代、世界的な政治的覚醒の時代、階級の見えない時代、そして多数者支配というデモクラシーから、個人が尊重される新しいデモクラシーが求められる時代、とさまざまな時代的特性を分析し、だから、今政治が求められる、といいます。ここでいう政治とは、私的な問題を公的な問題として組み立てなおすものです。
 この時代分析が、政治の回復と「私」と「私」をつなぐ社会の構築へと話をつなげています。日本の状況を、「政権交代」に見られるような高揚期にあるにもかかわらず、それに答えられない政党の状況という風に、的確に分析しています。
 私は階級闘争が世の中を動かす原動力だと思っていますが、その「階級が見えにくい時代」という分析は認めざるを得ないと思いました。