『最高の人生をあなたと』『人生はビギナーズ』

 『最高の人生をあなたと』は一人で見た。監督脚本は例会でも上映した『ぜんぶ、フィデルのせい』の監督ジュリ−・ガブラス(彼女は社会派の巨匠コスタ・ガブラス『ミッシング』『ミュージックボックス』)の娘だ)。
 親と子は別人だから、あの親にしてこの子ありとか、トンビが鷹を産んだとかは、私はあまり思わない方だと思っていたが、最近の宮本太郎の書くもの言うことを聞いていると、親のことを子供はどう考えていたのか、ちょっと考えているから、そうでもない。自分ながら偏見を持っているなあと思う。
 それはさておき、映画はコメディタッチで老いの問題、そして夫婦ということを考えさせる。その点では佳作といっていいと思う。


 主演が妻がイザベラ・ロッセニーニ(かの美女イングリット・バーグマンの娘)、夫はウィリアム・ハートだから見ているだけでも「ああ映画だ」と思うぐらい飽きることはない。
 男は建築界で名も知られた巨匠で、妻は元教師でボランティアにも熱心。彼女に母は健在で隣に住んでいる。元医者だ。3人の子供に恵まれ、孫もいて、それぞれ立派にやっている。
 だから、そんな夫婦に還暦を前にして、どんな難関が待ち構えていようとも、楽しんでみることが出来る。そんな映画だ。
 映画の内容は映画のブログでたくさん出ているから、そちらを見てほしい。ここには簡潔な感想しか書かない。
 元々テーマの選び方が、中流階級の人々を描くところから違う。今の世界なりヨーロッパを描くときには、テーマはたくさんある。先進資本主義国の超高齢化社会も、その一つだろう。それを見やすく描くのも監督の腕だと思う。
 大勢が見たいのは、ちょっと問題を抱えている、しかし自由に誇りを持って生きる高齢者だろう。この映画のような社会的にも地位を築き、個人的にも魅力的な高齢者は、やはり大勢をひきつける。
 しかしそれでは人生の盛りを超えた時期の生き方、終焉を迎える心構えは、我々庶民から見れば、理想的だが、そんな甘いものになるのかな、という思いになる。
 しかし、そうではない高齢者もいるという映画もありうる。私は『草原の小学校とおじいさん』のように行きたい。
 人生はビギナーズは同じような中流階層の、もう若くない男の生き方をさぐった映画だった。


 父親が、妻が死に、そして75歳になったときに『ゲイだ』と自分の性癖を告白して自由に生きはじめた。そのことを息子は父が死んだ後に思い出して、今、自分はどう生きたらいいのかと悩む映画だ。
 仕事は結構順調だし、遺産もあるのだろうが、うまく世渡りが出来ている。犬とも親密な関係を作っている。しかし女とはぎこちない。愛とか家族とかいうのが、よくわからないのかもしれない。
 ゲイだと告白した後の父が、それまでの窮屈な生き方から解放されたように感じるのだろう。
 なんだかおかしい。高齢者の父はいいとして、そうではないゲイの生き方は、そんなに解放されたものではないように思うからだ。
 しかしこの映画全体に対して、アラフォーの男が悩むことかと思ってしまう。