2023年7月に読んだ本

『この国のかたちを見つめ直す/加藤陽子』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ』『招かれざる客/笹川左保』『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし/加藤圭木ゼミナール』『日本と韓国・朝鮮の歴史/中塚明』『落語と川柳/長井好弘6冊でした。『世界7月号』『前衛7月号』も読んでいます。

 園田学園の図書館も使えるので、神戸の図書館では順番待ちとなる本も借りられました。近松研究所の図書館は、伝統芸能の系の本はとても充実しています。

 ちょっと長くなるので2回に分けて書きます。それでも長いです。

『この国のかたちを見つめ直す/加藤陽子

 加藤さんが毎日新聞で書かいたコラム、2010年からの「時代の風」2020年からの「加藤陽子の近代史の扉」そして書評などをまとめたものです。短くてとても読みやすいものですが、ちょっと物足りない所もありました。

 気になったことを書いていきます。

 まず第1章「国家に問う―今こそ歴史を見直すべき」では学術会議の問題です。

 自公政権の「国が重点分野を決める、選択と集中による科学技術政策が一番」に対し、歴代学術会議会長らは「科学者コミュニティーがいかなる分野を有望だとみなしているのかを国が理解し、そこに予算をつけてほしい」というもので、これは「原理的対決」で、「戦艦大和の愚策と『悲劇』が繰り返されることなぞあってはならない」としめています。

 全くその通りで、加藤さんのように排除された学者は、おそらくこのように毅然としているのだと思いました。

 第2章「震災の教訓―東日本大震災10年を経て」では「原発を『許容していた』私」があります。そして失敗学の創始者の畑村洋一郎さんが事故調査・検証委員会の委員長になったから期待できるという論調です。「責任追及よりも原因究明が優先され」ました。

 ちょっと意外な感じですが、民主党政権時代なのです。

 第3章「『公共性の守護者』としての天皇像―天皇制に何を求めるか」は、ほとんど気にせずに読み飛ばしました。でも「歴史の大きな分水嶺だった元号法制化」を読んで、官庁関係は年号を使うと思い出しました。1世1元制は明治以後だし、だから日本会議が法制化に力を入れたのです。

 第4章「戦争の記憶―歴史は戦争をどうとらえたか」は、戦争の本質をどこに見るのかということでした。

 内村鑑三の言葉を引いて「戦争の死者が戦後社会を縛る」「人の死が戦争の本質だ」といいました。良し悪しであれ、そこに縛られて戦争を考えるのも現実です。

 戦争を物語化、神話化してしまうと批判して、敗戦直後に作成された公文書についていた付箋の一枚が、戦争の実態を明らかにしたといいました。

 付箋は、この文書は「停戦後軍需品の整理をいかに行ったか質問された時の回答用として作製された」そして文末に「本付箋のみは速やかに確実に焼却すべき」とあったそうです。

 官僚の本質が見えます。

 「戦争が起こされた本当の原因と、国家が国民に対して行った説明が異なっていた事実」は記憶にとどめておくべきと言いました。

 第5章「世界の中の日本―外交の歴史をたどる」も面白かったです。

 ソ連の参戦を日本は批判しますが、連合国側は、ソ連に対して「連合国の合意による国際共同行動」と示唆していたと書いています。国際政治は単純ではないのです。こういったことを踏まえて相手の弱みを突くことが外交だと思いました。

 第6章「歴史の本棚」は書評集です。どれも面白そうなので、書名だけは上げておきます。

 「国家と秘密 隠される公文書/久保亨、瀬畑源」「思い付きで世界は進む―「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと/橋本治」「朝鮮王公族―帝国日本の準皇族/新城道彦」「なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか―ピース・コミュニケーションという試み/伊藤剛」「古都の占領―生活史から見る京都1945-1952/西川祐子」「経済学者たちの日米開戦-秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く/牧野邦昭」「告白-あるPKO隊員の死・23年目の真実/旗手啓介」

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー/ブレイディみかこ

 この本は、神戸市の図書館ではなかなか借りれないのですが、園田学園では書架にありました。

 英国在住のみかこさんが、中学生の息子の日常に触れながら、英国の下町の様子、中学校の生活などを書いています。とてもリアルで、英国社会がよくわかります。

 気になったことを書きます。

・公立学校に公のランキングがあることにびっくりします。

・普通の中学校に演劇を取り入れた授業があります。

・移民の子どもと貧困層の子どもがお互いをののしり合う喧嘩をしたときに、みかこさんの考え方、彼女が中学生時代の先生の言葉「人を傷つけるのはどんなことでもよくない」を紹介しました。

・エンパシーは「他人の感情や経験などを理解する能力」、シンパシーは「感情や行為の理解」ということ。

・FGM(女性割礼)を夏休み前に授業で教える意味は、移民が母国に帰って手術をするケースがあるからです。

『招かれざる客/笹川左保』

 1960年に書かれた笹沢左保の初長編です。ものすごく大胆なアリバイ崩しの推理小説で、ちょっと硬い感じの文章でした。彼が、郵便局に勤め、しかも労働組合の役員も務めたと書かれてありますが、この本は、そういう経験から書かれたものか、と思いました。

 話の発端は、国家公務員の労組の内部資料が当局に漏れて、それを理由に労組の幹部が懲戒処分されたことです。

 その秘密漏洩を実行した書記局の女がいて、そそのかした恋人である男が殺されます。

 この男に恨みを持った関係者が調べられますが、その最中に一番怪しいと見られていた労組幹部(殺された男の親友で、女を書記局に紹介し、一番裏切られた思いがあった)が事故死しました。

 他に犯人の手掛かりがないことから、被疑者死亡で警察は捜査を終わろうとしますが、一人の刑事が、殺された男の恋人に疑いを持ちます。しかし彼女には鉄壁のアリバイがありました。

 それを崩していくのが、この小説の中心で、同時に彼女の動機も明らかにされていきます。それがこの小説のタイトルでした。

 ほとんど社会的な背景のない推理小説で、登場する人物の心の動きについてもちょっと昔風の人物設定ですから、期待したほどではありませんでした。