2020年8月に読み終えた本

『夜明けまで眠らない/大沢在昌』『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちいいこと/大島薫』『もてたいと思っている男ってなんであんなに気持ち悪いんだろう』『自白 刑事土門功太郎/乃南アサ』『新・日米安保論/伊勢崎賢、柳澤協二、加藤朗』『ドラガイ/田崎健太』『5つの戦争から読みとく日本近現代史――日本人として知っておきたい100年の歩み/山崎雅之』7冊を紹介します。

『夜明けまで眠らない/大沢在昌

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 さすが大沢在昌と言いたくなるハードボイルド小説でした。単純な構成ですが、それで十分楽しませてくれました。

自衛隊フランス軍外人部隊民間軍事会社という経歴は本物の戦場を生き抜いてきた兵士、その男が主人公。

アフリカの新興国、政府側で雇われていたが、反政府勢力の一つ、ヌワンという首狩り族と戦う恐怖の経験から、暗いうちは眠ることができなくなった男。気力も体力も奪われて日本に帰ってきた。今はひっそりとタクシー運転手で「夜に眠れない」ことを生かして深夜営業を専門にしている。

 そこへ同じ軍事会社にいたと思われる男と遭遇して、事件に巻き込まれる。最初は暴力団が出てきたが、恐るべきヌワンが日本にいた。内戦は終わって、ヌワンも政府の一員、外交官となっていた。

 麻薬の密輸とか、小道具を使うけれども、元傭兵とヌワンの対決で最後は終わる、というありきたりのパターンです。そこはさすがに迫力満点で、一気に読めました。大沢作品には珍しく濡れ場らしきものもあり、楽しめる小説でした。

『自白 刑事土門功太郎/乃南アサ

 警視庁捜査1課の係長、土門功太郎が事件を解決していく中編4本。2010年発行の本ですが、主人公の土門功太郎はたたき上げで、彼の人物設定および事件の関係者などの人間が古めかしい、事件の動機などもあまり現代的とは思わなかった。

 「アメリカ淵」は東京都の田舎の渓谷で殺されていた女、そして関係者を調べると長年の不倫の男、精算がこじれて。「渋うちわ」はそう形容したい女(還暦あたり)が亭主を、見ず知らずの男を金で雇って殺す話。女は平気でうそを言う。「また逢う日まで」はコソ泥稼業で生きている夫婦。これも妻が主導権を握り、夫はお寺の息子で、引きずられるように生きている。転々と住まいを変えてなかなか尻尾を掴ませなかったが、子どもができてとうとう年貢の納め時。「どんぶり捜査」はアジア人が、仕事を首になり生活に困ってタクシー運転手を殺す。言葉も満足にできない男で、あまり後味がよくない。

『新・日米安保論/伊勢崎賢、柳澤協二、加藤朗』

 全編3人の鼎談。彼らは「自衛隊を活用する会」の中心メンバーで、護憲のスタンスですが単純に「9条の堅持」ではありません。

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 日米安保条約はどういう軍事同盟か、そして締結された政界情勢が東西冷戦構造であった時代からソ連、東欧の軍事ブロックが自壊し、米国1超大国テロリズムの時代に変化したことで、どのように変わってきたか、ということがよくわかります。

 現在の国際情勢では日米安保の本質である「片務性」の矛盾が大きくなっています。「平和の代償」である地位協定は、突き詰めると互恵性で対等になることを求められので、その改定に踏み込むことで、国民の前に、これまでの矛盾が明らかになってくるのでしょう。

 現状では、そこにある不平等の問題はすべて沖縄に押し付けられ、国民の目にから隠されています。

 元防衛官僚で小泉内閣の時期から内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)を5年間務めた柳澤さんが、どのように自衛隊を考えているかがわかります。

「戦場でスナイパーをやれば社会復帰に10年かかる」「安全保障は憲法論議からは出てこない」「紛争地でのPRT(地方復興チーム)はすべて失敗している」自衛隊は「戦略的従属、戦術的対等」など考えさせる言葉がありました。

5つの戦争から読みとく日本近現代史――日本人として知っておきたい100年の歩み/山崎雅之』

 昨年読んだ加藤陽子さんの本「それでも、日本人は戦争を選んだ」等を検証しようと、この本を読みました。明治維新以後の日清戦争日露戦争、第1次世界大戦、日中戦争、太平洋戦争を5つの戦争として、近現代史の概説を書いています。

 加藤さんの本は、1次資料である政府の公文書等を読み込んでの学術書に近いですが、これはそういった1次資料ではありません。加藤さんの本とか歴史学者の文献に基づいて書かれてあるようでが、索引がないのが不満です。

 内田樹さんも称賛していますから確かな人だと思いますし、加藤本とほぼ同じような内容でした。

『ドラガイ/田崎健太』

 ドラフト外で入団して活躍したり、話題となった選手を紹介するノンフィクションです。

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 取り上げられたのは、石井琢朗(横浜)、石毛博史(読売)、亀山努阪神)、大野豊(広島)、団野村(ヤクルト)、松沼博久・雅之兄弟(西武)です。

 私はプロ野球が好きですから、ここで取り上げられた選手の名前や、活躍した時期等は、団野村(彼がなぜ取り上げられるのか、この本のテーマでふさわしくない。野村克也の義理の息子としか考えられない)を除いて、それなりに知ってはいましたが、それぞれに面白い人生です。 

 この中で大野豊だけがテスト生です。他はそれなりにスカウトの目に留まっています。私と同学年ですが、プロに入るまでは、まったくと言っていいほど輝く時期がない男でした。それがプロでは、同学年の江川や掛布よりも長く活躍して輝かしい成績も残しました。

 もちろん才能もあったのでしょうが、運よくテストに合格したこと、江夏豊に出会えたこと、広島の黄金期であったこと、彼には幸運があったと思いました。

『もてたいと思っている男ってなんであんなに気持ち悪いんだろう』『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちいいこと/大島薫』

 大島薫は元アダルトビデオのゲイ、女装ゲイ、男の娘の俳優として出演していたが引退して、現在はタレント、文筆業となっています。インターネットで見た限りではかわいい顔をしています。でもこの2冊を読んですごく常識的で頭のいい人だと思いました。

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 2冊とも短い文章のエッセイ集です。彼の体験と考察、そして科学的根拠も調べています。いろいろと新しいことを知りました。

 『もてたいと…』は82本の短文(1頁半)と2本のコラムで、見た目オンナである利点を生かして、男に対して的確なアドバイスを書いています。感心したことを列挙していきます。

 ①デートの時は女性の歩く速度に気を遣う②女は同意を求めている③オンナの化粧は自分がテンションを上げるため④センスをほめる⑤恋愛は知能指数や社会経験がものを言う⑥嫉妬はしても束縛するな⑦「試し行動」する女もいる⑧仕事関係の異性とは半個室⑨女性の恋愛には理由が必要⑩愛情を伝えることに怠けてはいけない。

 『大島先生が…』は126項と3つのコラムです。セックスに関する新しい言葉をいろいろと知りました。性感帯には「純粋」「錯覚」「連想」があるとか、迷走神経(これは医学用語らしい)というものも知りました。男性ホルモンの特性の一つに「服従傾向が強い」のも納得でした。