2023年3月に読んだ本その2

『昭和の戦争/保阪康正対談集』『師匠!/立川談四楼』『紋切型社会/武田砂鉄』『世界3月号』『前衛3月号』を書きます。ちょっと『世界』が長くなりました。

『昭和の戦争/保阪康正対談集』

 対談する相手は半藤一利「対米戦争、破滅の選択はどこで」伊藤桂一「一兵士が見た日中戦争の現場」戸部良一統帥権が国を滅ぼした」角田房子「帝国陸軍軍人の品格を問う」秦邦彦「南京と原爆、戦争犯罪とは」森史郎「『特攻』とは何だったのか」辺見じゅん「戦火に大和の遺訓―歴史は正しく伝わっているのか」福田和也ヒトラー、チャーチり、昭和天皇牛村圭東京裁判とは何か」松本健一「近代日本の敗北、昭和天皇の迷い」原武史昭和天皇、未解決の謎」渡辺恒雄「『戦争責任』とは何か」でした。

 印象的には保守系の作家、研究者ですね。

 意見が違う人、戦争観の違う人などに対して、相違があるテーマは避けている感じでした。ですから加藤陽子さんの本のように戦争の全体像と本質をえぐるような話ではありません。それぞれが得意とする事柄について話し合っています。対談相手の意見を聴く感じです。

 「特攻」を発案した大西瀧治郎についても悪く言わない人、昭和天皇を優れた政治家という人がいました。

『師匠!/立川談四楼

『すず女の涙』『講師混同』『打ちどころ』『先立つ幸せ』『志ん生同盟』5編の短編と著者解説として『その後の落語会上下』です。

 全て江戸落語の世界で、弟子から見た師匠を描いています。『打ちどころ』が全くのフィクションで、他はモデルがあるといいますが、江戸落語噺家をあまり知らないので、それはわかりません。

 いずれも噺家の余芸ではない水準でした。

 病持ちの師匠、隠し子のある師匠、交通事故で一皮むけた師匠、同性愛者の師匠、障がい者の師匠、そういう落語家を弟子の立場、視線から書いています。

『紋切型社会/武田砂鉄』

 武田砂鉄が初めて出した本です。社会評論というのかな、表題を見てわかるように、現在の社会の状況、情勢について彼が考えるところを21編(文庫本340頁ですから115頁前後)で書いています。

 辛辣ですが概ね同意できる内容です。しかし文章がこなれていない感じで、少し読みにくかったですね。最近の文章の方が読みよいです。

 「はじめに」でボーリングのボールの例え「10ポンドと15ポンド」しかないのでどちらかを選ぶしかない、店側も客も、そのことを受け入れている社会を紋切型社会といいます。

対立も強制もないのに、用意されたものを無批判に受け入れることのおかしさです。

 文庫版のために「生産性―誤解を招いたらお詫びします」を書きおろしています。これは「新潮45」が廃刊になった杉田水脈のLGBTQの件を取り上げています。単行本は朝日出版社で文庫したのは新潮文庫ですから、わざわざこれを取り上げるという根性が入っています。

 権力や世の中の多数派にモノ申すというスタンスです。

「そうはいっても男は―国全体がブラック企業かする」では橋下徹従軍慰安婦発言で、米軍の海兵隊に対して「男性=性欲=女が必要」という意見は単純、短絡的と見方を一刀両断です。返す刀で、その彼の男性観に男から反論が少ないと指摘しています。

『世界3月号』

特集1「世界史の試練 ウクライナ戦争」

特集2「保育の貧困―『異次元の少子化対策』を問う」

 特集は充実してしますが、それ以外にも面白い記事があり、それを書きます。

片山善博の「日本を診る」(160)『「大砲もバターも借金で」では次世代に顔向けできない』

 防衛費倍増を狙う岸田政権は、増額分4兆円のうち1兆円は増税で、他は歳出改革などで生み出そうとしている、と報道されているが、それらはすべて赤字国債の発行につながると喝破しました。

 政権側の誤魔化しを簡潔に説明し、消費税増税は「封印」されているといいます。

ひろゆき論ーなぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのか/伊藤昌亮』

 2チャンネルの創設者であり、ユ-チュ-ブ約160万人、ツイッター187万人がフォローしている「ひろゆき」こと西村博之について、その考え方を彼が書いた本を基に解明しています。

 彼はプログラマーであり、世界を「データとアルゴリズムからなりたつ」ものとみて、色々なことをコメントしています。討論に強いことから「論破王」といわれています。

 伊藤さんは、彼の自己改造論や社会批判論は「自己や社会の複雑さに目を向けることのない、安直で大雑把なものであり、知的誠実さとは縁遠い」と断じています。

 権力にもリベラル派にも批判的なように見えますが、沖縄の基地反対闘争を冷笑したり、原発稼働に賛成する姿勢で、彼の姿勢はよくわかります。

葛西敬之は日本鉄道をどの変えたか 森功「国商」を読む/原武史

 葛西敬之は、国鉄分割民営化を推し進め、最後はJR東海の名誉会長、安倍元首相のブレーンになった男です。

 森が書いた「国商」は葛西が「自ら信じた『国益』のために政治家や官僚と結託した経営者」ととらえています。

 その『国益』とは安部と同様に戦前回帰であり、鉄道に対しては乗客の利便性よりもスピードを重視します。

 東海道本線、新幹線が特急、急行を切り捨て、こだま、ひかりよりも停車駅が少なくスピードを出すのぞみに傾斜し、究極のリニア建設を推し進めていくのも、葛西の考えによるものです。

 リニアこそ「21世紀を通じて日本の発展を支えるインフラ」といっています。環境を破壊し莫大な建設費、維持費が必要なリニアに拘る、時代錯誤で国を誤らせた男です。

『前衛3月号』

特集「岸田大軍拡路線の欺瞞と危険」

「『安保3文書』で極まる対米従属と軍事一体化―「戦争国家」づくり許さぬ平和の国民的共同を/小泉大介」「米国追従の岸田大軍拡に未来はない/竹内真」「変貌・強化される沖縄の基地のいま/加藤裕」「安保3文書の改定と大軍拡予算は、実質的な改憲である/永山茂樹」「加速する軍事研究への動員/池内了

 大量の論文があってとても読めませんが、「安保3文書」がとても危険なもので、対米追従であることと大軍拡で、日本が大きく変わる、国民生活が破壊されることが明示されています。

 その情勢の根拠は「台湾有事」です。南西諸島の自衛隊基地などが増強されています。しかしそれは中国の国内問題です。あってはならないと思いますが、それに日本や米国が軍事介入することにはならなと思います。

 米国が中国と全面戦争を選ぶことはないし、外交交渉でそれを防ぐことに全力することもないままに、軍備増強に走る姿は異様です。