『図書館の子供/佐々木譲』『脚本・雪やこんこん/井上ひさし』『落語家はなぜ噺を忘れないのか/柳家花緑』『一冊でわかるスペイン史/永田智成、久木正雄』『喝采/藤田宜永』『蟻の木の下で/西東昇』『世界3月号』の7冊です。そのうち4冊を書きました。
『図書館の子供/佐々木譲』
『遭難者』『地下廃駅』『図書館の子』『錬金術師の卵』『追奏ホテル』『傷心列車』の短編6編です。テーマがすべてタイム・トラベルものとなっていますが連作短編というほどの繋がりはありません。佐々木譲は意図的に各テーマと文体も変えようとしているような感じです。
今まで読んだ佐々木譲作品は、明確な展開とオチを持っていたのですが、この本の短編はいずれも明確な着地とはなっていません。時間を超えることで何を言いたいのかが明示されていないのです。
面白くないとは言いません。それはそれなりに味を出しています。
『遭難者』
昭和12年の東京に現れた全裸の男、未来のことを知っているような感じ。でもなぜそうなったのか。事故か。
『地下廃駅』
現代の少年たちが地下鉄の廃駅に迷い込み、出たのが空襲直後の東京だった。そこで一人が不良につかまり、一人は、それを見捨てて現代に逃げ帰ってきた。それからどうなるか。
『図書館の子』
もう一つの日本。猛吹雪の夜に図書館に残された少年を、どこからか来た男が、本を燃やして暖をとって助けた。一夜の体験が彼を変えたのか。
『錬金術師の卵』
中世ヨーロッパでつくられた美術品に込められた怨念が、500年の時を超えて現代によみがえる。かどうかわからない。
『追奏ホテル』
満州国時代に建てられたホテルに宿泊し、その時代に行ってしまう男と女。その雰囲気は感じられた。
『傷心列車』
満州国のホテルで働く貧しい女の前に現れた男。女はハルピン行きの列車に乗った。男は「必ず追いつく」といった。
タイムトラベルと多次元宇宙の話ですが、それを描くことが中心で、そこから現代を照射する感じが弱いと感じました。
『脚本・雪やこんこん/井上ひさし』
芝居を見て、それから脚本を借りて、何度も読み返しましたが井上ひさしの狙いが分かりません。
昭和20年代末、冬の北関東、田舎の温泉町にやってきた旅芝居の一座のドタバタ喜劇ですが、井上ひさしですから手が込んでいます。
田舎の芝居小屋で興行を打とうとしますが、大雪で延期、貧乏所帯のためか、仲間内のいざこざが始まります。小屋主の旅館の女将をを巻き込んで、お金が欲しいのか、芝居を見てほしいのか、人情の裏表を見せます。
最初は、舞台が減って食べていくのも苦労する落ちぶれた一座が、スポンサーを捜しているのか、と思いましたが、途中から少しずつ種明かしをしながらが、それをドンデンドンデンとすべてひっくり返すという展開です。そして最後はすべてお芝居だったという話です。
戦後から10年、経済復興が始まり、テレビ放映という新たなメディア、娯楽も出てきて、これまでの大衆演劇、芝居や寄席などに影響が出始めます。映画はもう少し発展しますが、その後急落するという時代の転換期を踏まえないと、この芝居愛の本当のすごさが分からないのかもしれないと思いました。
『落語家はなぜ噺を忘れないのか/柳家花緑』
花緑が彼自身の落語に向き合う姿勢を、かなり真摯に書いた本です。どのように落語を勉強し、口演できるネタを身に着けていくか、先輩などの話を織り交ぜながら、彼自身を赤裸々に紹介する、いわば舞台裏を見せる「野暮」な本です。
章立ては以下の通りです。
①落語家はなぜ噺を忘れないのか②いかにして噺に命を吹き込むか③落語家にとっての噺の種類④自分のネタを作る「笠碁」への挑戦⑤伝承芸としての落語
その都度、先輩や師匠に言われたことで、彼が自分の落語観を修正していったことも書いてあります。
小三治から「受ければいいのか」、若者に受けるようなギャグ満載の落語をさぐったことを批判されます。それは小三治自身も歩いた道でもありました。
そして現在は「噺の本筋が伝わるような演出をした結果、お客に受ける」そこにたどりついています。
花緑版『笠碁』の解説と全文が掲載されています。幼馴染で年寄りになった碁がたきのほのぼのしたユーモア満載の噺です。
『一冊でわかるスペイン史/永田智成、久木正雄』
映画『スリーピング・ヴォイス』を担当したので読みました。簡単なスペインの通史です。
中世ヨーロッパで「無敵艦隊」を擁して、日の沈まない帝国として、世界を植民地にした大国のイメージがありましたが、意外と貧乏な国でした。