2022年4月に読んだ本

『楽しく生きたきゃ落語をお聞き/童門冬二』『秘本大岡政談/井上ひさし』『理不尽な進化/吉川浩満』『デフ・ヴォイス/丸山正樹』たった4冊ですが面白い本ばかりでした。

とりあえず3冊。あと一冊は後日『世界』『前衛』と一緒に書きます。

『楽しく生きたきゃ落語をお聞き/童門冬二

 童門さんは美濃部都政を支えた一人です。歴史小説を数多く書かれているのは知っていましたが、落語も好きであったことを知りました。そして、この本は2017年に書かれていますから90才であったのも驚きです。今もお元気なようです。

 落語ネタ35本のあらすじを紹介しながら、そこに見て取れる人生訓を披露しています。

「きびしい職場戦争に勝ち抜くための”武器”になるような話」を選んだといっています。

 武器かどうかはわかりませんが、確かにいい噺を選んでいて、私も好きなものが多くありました。でも童門さんの解説、教訓とは違う受け止め方をしているのもあります。

はてなの茶碗』【「どこに価値があるのか」冷静に考える】

 米朝が作り直したといわれている話で、元ネタは十返舎一九の本だそうです。水漏れする安物の茶碗が、見る見るうちに千両になりました。

 ものの値打ちが決まる仕組み、馬鹿馬鹿しさが世の中の一面の真理をついています。

『千両みかん』【トランス状態に陥ると、冷静な判断ができなくなる】

 大金持ちが病気の息子のために千両で手に入れたみかん、息子が親に残した3房「三百両の値打ち」と思いこんだ番頭がそれを持って逐電します。

 買えば千両、そのうちの三百両という欲と思い込みが人間を狂わせます。

『付き馬』【騙すほうも悪いが、騙されるほうにも問題が】

 一文無しの男が、誘われるままに遊郭で遊んだ翌朝、貸してあるお金を集金して払うと、店の牛太郎を「馬」にして引きまわして、最後は見知らぬ棺桶屋に連れてきて、ここの「おじさん」が払ってくれる、と騙してトンずらしました。

 自分の儲けばかりを考えていると、うまい話にうかうかと乗ってしまいひどい目にあうという話です。

 人間の欲と世の中の仕組みを上手に組み合わせた落語でした。

 他にも『百年目』『猫の皿』『鼠穴』『明烏』も面白いです。

『秘本大岡政談/井上ひさし

 短編時代小説集です。『秘本大岡政談』は『花盗人の命運は「大明律集解」にあり』『焼け残りの西鶴』『背後からの声』の連作3編、それに『いろはにほへと捕物帳』『質草』『合牢者』『帯勲車夫』の4短編がありました。

 『秘本大岡政談』は元江戸城書物奉行が、若い御家人に語る大岡越前守忠相の裁きのもとになった本の逸話です。

 『合牢者』の「合牢」という言葉は井上ひさしの創作でしょうか。同じ牢屋に入った人間が関係どのように変化していくのかが描かれます。明治政府の密偵が、政治犯の真偽を探るために同じ牢に入れられて、信憑性を出すために、同じような拷問にかけられます。そんな関係が続くと二人の間に友情らしきものが芽生えました。

 彼の小説は何冊か読んでいます。ユーモアなど独特の味がするのですが、戯曲やその芝居ほど面白くないと思いました。

『理不尽な進化/吉川浩満

 400頁を超える大部で、ちょっと読みにくくもあり読むのに時間がかかりました。一般向けの教養書的なので、進化論がわかるかと思いましたが、学者たちの論争部分が多くあり、そこはちょっとわかりにくいものでした。でも読み終えました。

 ・生物学における進化論は、ダーウィン以後も科学の発展を受け入れて「進化」している。

 ・進化論は論理的に「自然淘汰」と連綿と続く「生命の樹」の二つ柱がある。それは、「説明と理解」という科学的方法と歴史的思考の相克、という哲学的問題と絡む。

 ・誕生した生物の種の99.9%が絶滅し、現存する0.1%もいずれ絶滅する。

 (この数字は現存する生物種が500万~5000万種で、生命誕生の40億年間に出現したのは50億~500億種という推定)

 つまりタイトルは、多くの絶滅した種は「自然淘汰」の結果ですが、その生き残った「適者生存」は偶発的な「理不尽な要素」が重要な役割を持っているということからつけられています。

 納得した事例は恐竜の絶滅です。

 15千万年繁栄した恐竜(人類はおよそ700万年)は、白亜紀の天体衝突によって地球環境が大きく変化し、その結果、哺乳類との生存競争に負けたということです。

 適者生存で地球の支配者となった恐竜は、突然の環境の変化で「適者」ではなくなり、むしろ、その特徴である巨大な体は不利な要素になったということです。

・パンダの6番目の指。竹をつかむために掌の骨が突起した。

・進化論の革命性は、進化は目的も終点も持たない、偶然性に左右されると見抜いた。

自然法則の公式化は人間性(人間的直観、感覚)とあわず、その除去が必要。

・人間社会で使われる「進化論」の言説は眉唾が多い。

 それほど面白いものでなかったのですが、色々と新しい言葉、思考方法に出会い、中身の濃いい本でした。