2020年5月に読んだ本

『眼の誕生/アンドリュー・パーカー/渡辺政隆・今西康子』『それは秘密の/乃南アサ』『怪優伝―三國連太郎、死ぬまで演じ続けること/佐野眞一』『創作の極意と掟/筒井康隆』が5月に読了し、紹介できる本です。
家にいる時間は増えましたが、在宅勤務などで通勤時間が減ったので、結果的には本を読む時間が減りました。私の読書場所は電車の中が多いということです。読んだ冊数は少なくとも結構充実した読書でした。
『眼の誕生/アンドリュー・パーカー/渡辺政隆・今西康子』この本はまさに「目から鱗」でした。

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 地質時代の本は読んだことがなかったのですが、カンブリア紀に「生命の大爆発」が起きたことを初めて知りました。分類学上それまで動物界は3門しかなかったのが、この時期に38門に増えたそうです。
 結論から言うと、この本の題名通りに、この時代に多くの生物が視覚を得て、多種多様な種に分かれていったということです。なぜそういう環境が生まれたのか明確にはわかっていません
 地球が誕生したのが46億年前、カンブリア紀が始まったのが5億4300万年前、それから500万年の間に動物の種が爆発的が増えて、現在に至るまでの動物の原型が出来上りました。
 それを著者は丁寧に説明しています。
 地球誕生後にどのようにして生物がうまれて発達してきたのか、化石や現存する生物の研究を行い、進化論に沿って説明しています。そして視覚(光を取り入れるレンズと、その像を理解する脳)を得たことで、動物は食料を捕食する能力、その捕食者から逃げる能力が進化に寄与しているということです。
 現在の時点でこの学説を主張できる要因は、世界各地から各年代ごとの多くの化石が発見されて、しかも分析能力が向上したことで詳細な事実を解明できたことです。他の自然科学の分野の成果(発生生物学の進展、色や目、脳の研究等)も活用しています。
 ダーウィンの時代と決定的に違うということです。
『それは秘密の/乃南アサ「ハズバンズ」「ピンポン」「僕が受験に成功したわけ」「内緒」「アンバランス」「早朝の散歩」「キープ」「3年目」「それは秘密の」5編の短編と4編のショートショートです。
 ミステリーではなかったです。謎やオチの部分があまり重要視されていない小説でした。
 ある意味、期待外れですが面白くないということではなく、その経過、主に二人のやり取りを楽しむ小説です。短編をごく簡単に紹介します。
「ハズバンズ」は別れた夫婦が結構親密に会い、そして前の夫と現在の夫が持てあまし気味の妻の話で定期的に飲み会を持っているのが面白い。
「僕が受験に成功したわけ」は小学生なのにガールフレンドがいて、でもその母親の足が気になるという変態性がいい。
「キープ」は忘れました。
「アンバランス」はすれ違いの若いカップルのお互いの不信感の高まり、そしてマンションの壁から聞こえる謎の音が連動するリズムがいい。
「それは秘密の」は土砂崩れで脱出不能になったトンネルで1夜を明かす中年の男女。その会話はスリリング。
『怪優伝―三國連太郎、死ぬまで演じ続けること/佐野眞一 三國廉太郎のファンです。それでこの本を買いました。

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 脇役でしたが『切腹』(小林正樹監督/1962年)を見て以来です。公開時ではなく、のちに映画サークルで上映した時です。この映画で彼は冷徹な江戸家老を演じていて、カミソリのような印象を持ちました。
 そのあと映画サークルの市民映画劇場で見た『にっぽん泥棒物語』(山本薩夫監督/1965年)の泥棒役も小心で豪快、という矛盾した役柄は素晴らしかったです。これは戦後の3大疑獄事件といわれる松川事件をコメディタッチで描いた社会派映画です。
 そして晩年は『釣りバカ日誌』シリーズ全22作(栗山富雄他/1988年~)の鈴木社長を演じました。最後の回で会社は「君たち社員のものだ」という演説がよかったです。
 『復讐するは我にあり』(今村昌平監督/1979年)『息子』(山田洋次監督/1991年)も見ていますし、前のブログに書いたように『飢餓海峡』(内田吐夢監督/1965年)『無宿人別帳』(井上和男監督/1963年)をDVDで見ました。この人が出た映画はすべて見てみたいと思っていましたが、でも人柄はよく知りません。
 やはり役者馬鹿というべき凄みを感じる人生でした。
 この本は、佐野眞一が三國が自選した10本の映画を一緒に見ながら、彼の人生を振り返り、そして彼の目から見た俳優や映画監督に対する評価を聞いています。
 出ていない黒澤明についても「嫌われたでしょうね」と言っています。あまり共演していない三船敏郎勝新太郎渥美清にも言及しています。
 しかし『切腹』と『金環蝕』(山本薩夫監督/1975年)には言及がなく、ここで共演した仲代達矢についても何も言っていません。佐野眞一が聞かなかったということはないでしょうから、三國が言わなかったのでしょう。なぜでしょう。
『創作の極意と掟/筒井康隆この作者にしたら珍しくまじめなエッセイです。「序言」のところで遺言と書いてあります。でもその通り受け取っていいかは不明です。

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 たくさんの小説などの引用がありました。小説を書くための「極意と掟」ですが、初めて知るような言葉、知識がたくさんあり、とても勉強になりました。といっても、私の知らない言葉の詳しい説明、解説をこの本がしているわけではなく、それを辞典やインターネットで調べたということです。
 例えば「濫觴」が物事の起源とか小説の書き出しであること、「表題」という項では、タイトルには商標登録はないことを知りました。「セレンディピティ」や「擱筆」も何のことかわからず調べました。
 また「省略」「遅延」の項では、映画や小説の「省略」「遅延」の技法と効果をわかりやすく紹介しています。