2023年6月に読んだ本その2

『アマゾン文明の研究/実松克義』『雪に撃つ/佐々木譲』『孤独の絆/藤田宜永』と『世界6月号』『前衛6月号』を書きます。

『アマゾン文明の研究/実松克義』

 世界一の大河、アマゾン流域に古代文明があったという本です。先行研究の分析と現地調査に基づいて書かれてありました。まだまだ謎が多く、すっきりと終わりませんが、とても面白い本でした。注)も含めて340頁の大部です。

 文明もそうですが、アマゾン川自体もとてもすごい川だと思いました。日本の川とは根本的に違います。

 最遠の源流はペル-・アンデス6800kmの長さで、流域面積は約700万㎢(米国より広い)です。

 河口にあるマラジョ島は4万㎢と九州より大きい。それも含めて川幅350km、本流の幅は1500km遡った所にある大都市マナウス(人口約200万人)まで平均511km、水深40m、標高は50mで、2万トン級の船が行き来しています。河口から3700kmで標高100mという非常に緩やかです。

 南米諸国も含めて研究があまり進んでいないようですが、巨大な遺構、遺跡がたくさん残っており「未開の地」とは全く違う、人の手がたくさん入っています。高度の土木技術があり自然と共生する文明があったようです。

 支流があるボリビアモホス平原(27㎢、本州ぐらい)を中心に現地調査をしていました。その文明は推定でいうと紀元前2000年からすみはじめ紀元後1300年頃に崩壊したといいます。

 大土木工事で高度な水利システムや農業システムを構築した、大きな社会があり多数の民族が共生していたようです。しかし、その理解はまだ「表層的」と書いています。

『雪に撃つ/佐々木譲

 道警シリーズです。

 読んだ後からわかるのですが、一つの中心的な事件があって、派生的な事件があちらこちらで、時間差をおいて起きる、関連してないように見えて、それが捜査が進むにつれて、どんどん近づいてくる、という書き方です。

 やくざ者に追われている女性外国人労働者、家出した女子高生、車の窃盗事件、カーチェイスと発砲事件が、札幌とその周辺の街でバラバラに、少しずつ時間差をもって発生します。

そしてそれが雪まつりの前の日、札幌の警察が一番忙しい一日です。離れた部署にいるいつものメンバーが活躍します。面白い小説でした。

『孤独の絆/藤田宜永

 探偵・竹花シリーズの連作短編集です。『サンライズ・サンセット』『等身大の恋』『晩節壮快』『命の電話』の4篇です。

 竹花もとうとう還暦になるのですが、ますます魅力的になっています。ハードボイルドですが、嫌味な人間は出てきても凶悪犯は出てこない、小さな事件です。人間の面白さや深みを感じさせる小説です。

サンライズ・サンセット』

 疎遠になっている娘を探してくれという依頼を受けるが、依頼主は父ではなく、娘の別れた夫の父だった。なぜ元義父が息子の別れた妻を捜したかったのか。

『等身大の恋』

 結婚披露宴でつくった等身大の新郎新婦の写真パネルが盗まれた。意外な犯人にたどりつくが、それは、その結婚のカラクリ、恋愛感情の複雑さまで明らかにしました。

『晩節壮快』

 老人ホームであった些細な盗難事件の犯人探しから、脱走した二人の老人を追います。高齢者の男同士の友情や男女の恋愛感情など、こんな風になるのかと感心しました。

『命の電話』

 竹花のもとにいたずら電話がかかってきて、若い男が「死ぬ」と言います。自殺をほのめかすのですが、繰り返し電話がきます。竹花は、些細な電話の音を頼りに、とうとうその男を探し当てます。それは誰であったか。

『世界6月号』

 特集は「現代日本のSNS空間」「もうひとつの資本主義へ」でしたが、2023年の統一地方選挙大阪維新の会の圧倒的な勝利について書いたものを紹介します。

『維新体制「完勝」の現実とその戦略/松本創』『検証・大阪維新の会の財政運営―普遍主義に潜む社会的分断』

 全国的にも大阪維新の会は躍進しますが、とりわけ足元の大阪府知事、市長、府議会、市議会では圧勝という結果でした。反維新勢力の壊滅的敗北というものです。

 この二つの記事はそれを分析しました。私自身は「維新」はええ加減な誤魔化しの政党だと思いますし大嫌いですが、兵庫県、神戸市においても、それが大きな支持を得ているのは事実です。

 それはなぜか。これを読んで、そうかと思ったことを書いておきます。

・彼らは「経済的弱者の味方」「一般人の感覚に近い」という評価を得ています。それは事実と違いますが、多くの有権者にそう思い込ませています。「都構想」「大阪市解体」は否決されていますが、それでも彼らは、それを持ち出して多くの支持があります。

 一方でIRは全く選挙の争点になっていません。

・府も市も「小さな政府」になっていません。「身を切る」と言いますが、事実は違います。教育費は高い水準の維持していますが、その中身が変わっています。教育費の無償化などを進める一方で、支援学校への助成が急減しているのです。

 彼らを支持するアッパーミドルが恩恵を受ける無償化の「所得制限の撤廃」で教育費無償化の普遍化を進めると同時に、本来、手厚い保護を受けるべき弱者を切り捨てる、それは社会的分断を推し進めるものです。

 しかし得をする層と損をする層の厚さは全く違います。票になる層へは手厚い予算配分をする、「維新」が選挙に強い理由の一つだと思いました。 

『前衛6月号』

PFAS有機フッ素化合物)による汚染と血中濃度測定、毒性研究―沖縄、大阪、摂津、東京、多摩での調査に関わって/小泉昭夫』

 小泉さんのこれまでの研究の経緯と、現在のPFAS調査について詳しく話をされています。それは彼の人となりもわかるし、日本の公害研究の課題とかもとても分かりよくなっています。

 小泉さんは、東北大学で学び、秋田大学で教鞭をとり、京都大学の公衆衛生大学院を開設された人です。

 そして、この論文では公害企業名も含めて実名が書かれているのが、さすがだと思いました。

 PFASの汚染源の主なものは米軍基地とダイキン工業です。東京の多摩川、沖縄の嘉手納、普天間の基地周辺、大阪の摂津市ダイキンの工場です。

 日本は2000年代初頭に「問題に気づきながら放置してきた」と国の責任まで明らかに指摘しています。