今年読んだ本

 これまで読んだ本を記録として残してこなかったのですが、今年は手帳に書いています。だいたい年間100冊(月刊誌、漫画、ブックレット等も入れて)を超えるようなペースです。このブログで3月に読んだ本を紹介して以降、書いていませんが、せっせと読んできました。前に書いたものを除いて、今年読んだ本で、これは、と思うものを適当に並べてみました。
 簡単な感想を書いていきます。
トップリーグ』(相場英雄)
昨年からすっかり相場英雄ファンになりました。図書館では貸し出し中が多くて、なかなか読めません。

いずれも現代社会に対する批判をかなりストレートに作品に織り込んでいます。この本もマスコミ、ジャーナリズムと権力の関係をテーマとして、現在の安部政権を連想させるように書き込んでいます。
題名は政権与党のトップと懇談できる「特別扱い」されるマスコミ各社メンバーをさす業界用語(本当にあるのかどうか知らない)です。そこは狙ってもなかなか入れないのに、時の官房長官の引きでいつの間にか紛れ込んでいく、新参の新聞記者と、元同僚で、今は雑誌記者になっている「闇の政治資金」スクープを狙う男を中心に話は進みます。
政治資金のタブーを隠すために「権力の罠」が仕掛けられます。彼等を脅しすかし、そして、最後には潰して見せる、その周到さと恐ろしさを描きます。
ちょっと上手くいきすぎるところもありますが、楽しめました。というか「めでたしめでたし」ではなく「悪は栄える」かもしれない、という結末です。
現状をリアルに見たら簡単に希望的観測は出せません。だからそういう結末にしたのでしょう。
登場人物も含めて現在進行形の安倍政権のマスコミ操作とだぶらせて書いているのがすごいところだと思います。

アメリカの汚名』(リチャード・リーブス)
井上ひさしの芝居『マンザナ、わが町』の会報を書くために読みました。アジア太平洋戦争時の日系アメリカ人強制収容をとりあげたノンフィクションです。
この芝居の山場でルーズベルト大統領をヒトラーと同じ人種差別主義者だと決めつけます。それはこの本で書かれている、西海岸に住む日系アメリカ人1世2世12万人の取り扱いを見れば「その通り」と思います。
何の法律違反もしてない市民に対し、無法にも政府が実質的にすべての財産を取りあげたし、明確な容疑もなくFBIが連行していきました。
そして表面的には日本とも戦争が理由となっていますが、本質はそうではなくアジア人に対する偏見だと、指摘しています。アメリカ・インディアンの殺戮から始まる人種主義があからさまになっただけです。
ニューディール政策で、労働者の権利を拡大したルーズベルト大統領の負の側面です。
しかし米国の憲法はそれを禁じているし、民主主義の政治システムは、きっとそれを乗り越えるという希望を『マンザナ、わが町』は描きました。
『帰り来ぬ青春』『孤独の絆』『潜入調査』『再会の街』(藤田宜永

今年の収穫は「探偵・竹花」シリーズに出会ったことです。藤田宜永は、昨年『戦力外通告』を読んで、私と同世代の男たちを上手に描いていますから、意識的に読むようになりました。そして、このシリーズを知って立て続けて読みました。
探偵・竹花は、主人公が還暦を越えても、年相応の衰えを抱えながら探偵業で活躍する話です。しかも30そこそこの彼女がいるという設定ですから、何とも羨ましい。
この4冊は長編短編とあります。ダイナミックな国際犯罪組織が絡むものから、身近な人探しまでいろいろです。私立探偵ですから警察のような組織力も強制権もなく、科学捜査といっても自前では出来ませんから、人と出会い、証言を積み上げながら、少しずつ真相に近づいていきます。
同じような探偵ものとしては『汚れちまった悲しみに』(浅黄斑)『灰の旋律』(堂場舜一)も読みましたが、こちらはまだ若いし、元刑事です。探偵・竹花とは思い入れが違います。
警察ものでは『宰領・隠蔽捜査5』(今野敏)『教場2』(長岡弘樹)『地層捜査』(佐々木譲)『警視庁文書捜査官』(麻見和史)など、それぞれ面白いミステリーですが、私は佐々木譲ですね。
警察ものではないですが『量刑』(夏樹静子)を読みました。700頁の大部ですが、読みやすい文体です。毎日少しずつ50〜100頁で10日ほどかかりました。

交通事故死と遺体遺棄の被告人の量刑を軽くさせる、決して死刑にはさせないために、その事件の黒幕が裁判官の娘を誘拐する、という話です。たまたま生じてしまった交通事故、それを隠そうとした背後には政治がらみの金があり、そして極秘で誘拐犯の後を追う、と色々盛り込まれています。
小説の焦点の一つは、3人の裁判官が協議して量刑をきめるシーンです。相場があり、上司の意向があり、それぞれの信条にもとづく議論が展開されて面白いところです。
ですが、ここに登場する裁判官は死刑を廃止する考えがない、ということと、冤罪の可能性をまったく考えない人間です。
小説の主旨とは違うかもしれませんが、検察や警察が証拠をねつ造したり、拷問のような取調べで自白を強要する可能性をまったく考えないことに違和感を持ちました。