2023年7月に読んだ本その2

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし/加藤圭木ゼミナール』『日本と韓国・朝鮮の歴史/中塚明』『落語と川柳/長井好弘』と『世界7月号』『前衛7月号』を書きます。

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし/加藤圭木ゼミナール』

 一橋大学の加藤圭木ゼミナールの学生たち5人が、色々話したことをまとめました。2021年発行ですから、最近の大学生、それも優秀な大学生の東アジアの近現代の歴史の知識程度がよくわかります。

 「何が本当かわからない」という問いは、正直なのでしょう。韓国人が「反日」というのも、私から言えば「当たり前」と思っていましたが、彼らはわからない、となります。

 日本人自身が、植民地支配のことを知らないから、その被害者のことがわからないのです。特別難しいことではなく、韓国、台湾、中国、そして東南アジアの国々で何をしたかを知れば、何のために「海外進出」をしたか、普通の感覚で考えればわかることです。

 その意味で、この本は大学生たちの成長を感じさせました。 

 『永遠の0』について、中学生の時には「特に疑問を感じなかった」けれども、改めて読んで「特攻隊の問題性や特攻隊が考え出された背景、その責任」に触れていないといっています。

 きわめて普通の感覚です。

『日本と韓国・朝鮮の歴史/中塚明』

 2002年に発行されて、これは201110刷りです。とても分かりやすい本で、初歩的ことから説明してくれました。私が気になったことを書いておきます。

・「朝鮮」「韓」はどちらも古くから使われてきた民族の固有の言葉です。

・現在は分断国家ですが、10世紀の初め高麗時代以後は一つの民族一つの国家をつくっています。英語の「Korea」は高麗の「コリョ」からきています。

・明治以後、日本は「朝鮮は遅れた国、発展のない国」とみて、保護国、植民地化していきますが、それは侵略を合理化する独断です。

吉田松陰の「征韓論」が明治政府に大きな影響を与えた。

・日清、日露の戦争は朝鮮の支配をめぐる帝国主義戦争だった。

在日朝鮮人が増えるのは植民地化以降で「食えない」ために来日したが、厳しい民族差別があった。関東大震災の大虐殺も、それが背景にあり、官憲がデマを流した。

・朝鮮の「工業化」を進めた日本資本の半数は三井、三菱、住友、野口、東拓といった巨大資本。

清沢洌の「暗黒日記」にも、朝鮮や台湾の植民地を当然視するアジア蔑視があった。

・戦後の日本でも神話と事実の区別をつけない人々がいる。

『落語と川柳/長井好弘

 筆者はよみうり時事川柳の五代目選者です。このコーナーは私もちょっと見ていましたが、時事と言いながら政権与党の批判はほとんどありませんでした。それを前提に読みました。

 噺家の川柳句会(戦前にも戦後にもありました、戦前は鹿連会、戦後は鹿川会といいます)と、彼らの川柳の紹介。そして落語に出てくる川柳、落語を生かしている川柳の紹介です。

 落語の面白さは伝わりましたが、やはり現在を見る川柳の視線はありませんでした。

 面白い川柳を書いておきます。落語家の作は名前を入れておきます。無いのは落語の中で使われる古川柳です。

・干物では秋刀魚は鰺にかなわない(志ん生

・画面などどうなろうとも二人連れ(五代目小さん)

・真打の宵に上がるは儲けぐち(2代目正楽)

・手に取るなやはり野に置け蓮華草

・町内で知らぬは亭主ばかりなり

・間男は亭主の方が先に惚れ

・富籤の引き裂いてある首くくり

・先々の時計になれや小商人

噺家は世上のあらで飯を食い

・ひろびろと心せわしき野ぐそかな

・あたらぬがある故ふぐの怖さかな

・女房の角をへのこで叩き折り

・母親はもったいないが騙しよい

『世界7月号』

 特集は「狂騒のChatGPT」「交錯する人権と外交」で質量ともに豊富ですが、うまく短くまとめられません。

 『ウクライナ戦争が突きつける問い―規範の二重基準を超えられるか/三牧聖子』はロシアに対する批判の高まりは、G7が言う「法の支配」と米国のこれまでの戦争の欺瞞を問い直す国際世論について書いています。『「死の商人国家」を選ぶのか/杉原浩司』は日本が軍事産業の育成、武器輸出に展開していく状況に警鐘を鳴らします。

 大事なのですが、短く書くのが難しいので、それで片山さんのコラムの紹介です。

『連載164片山善博の「日本を診る」そろそろ変わろう地方議会、このままでは見捨てられる』は地方自治の担い手である地方議会、議員を厳しく批判しています。端的に言えば首長と与党に緊張関係がないことです。

 与党議員は、議会案件について当局から事前に説明を聞いて「可決する」ことをやめるべき、と指摘しています。

 議会での討論ではない、このような悪習は神戸市でも聞いたことがあります。特に「オール与党体制」ではそうなりがちです。それは議会が住民の信頼を失う自滅行為です。

『前衛7月号』

 特集「岸田政権の原発回帰への大転換を許さない」5本の論文がありました。

 その内の『東電・柏崎苅羽原発再稼働の検証こそ行うべきである―新潟県検証総括委員長をなぜ解任されたのか/池内了』を紹介します。

 池内さんは前の新潟県知事である米山隆一さんの要請によって、2018年に発足した検証総括委員長に任命されます。20186月に選出された現在の県知事、花角英世さんからも米山前知事の意図を踏襲し「期限を区切ることなく議論を尽くしていただきたい」と言われたそうです。

 それが新潟県当局、県知事の意向に従わないことから、202192日に予定していた3回目の総括委員会は開かれず、そのまま233月末の「任期切れ」で総括委員会は「消滅」し委員長、委員全員が「解任」されました。

 池内さんと新潟県知事の考え方の違いも整理されて書かれてあります。①報告をまとめる前に県民の意見を聴く②福島事故の検証から、柏崎刈羽原発の安全性に言及する③東電の適格性④3つの検証委員会(技術、避難、生活・健康)が議論しお互いの意思疎通を図る⑤知事は節目の会議の見に出席、この池内さんの意見に知事は了承せず、しかも「総括委員会で図って調整したらどうか」という妥協案も拒否したそうです。

 新潟県はこれまでの報告を事務的にまとめて最終報告を239月に出しました。池内さんは11月に独自報告書を出しています。そしてそれらを基に244月に『新潟から問いかける原発問題』も出されました。