2022年5月に読んだ本その2

『藝、これ一生/桂米朝』『ネットと愛国/安田浩一』『世界5月号』『前衛5月号』を書きます。落語関係の本が続いています。喜楽館に月一回以上行っていますから、落語家や演藝に関心が向いて、きちんとした本を捜して読んでいます。

『藝、これ一生/桂米朝

 副題が「米朝よもやま噺」となっていて、ラジオの同番組を書き起こした朝日新聞掲載の「米朝口まかせ」(2007925日~2009127日)がもとです。98編ありました。

 芸論と思い出がないまぜになって、昔の芸人さんの話は、もう誰からも聞けないものでしょう。落語家はもとより、漫才師、講談、浪曲、踊り、狂言文楽、喜劇、そして裏方の「下座」囃し方も紹介しています。上方の伝統芸能すべてを網羅している感があります。

 自分の弟子ではやはり枝雀への思いが強いと感じます。「あんな男おらんで」という評価です。直弟子よりも孫弟子、南光、雀々、吉坊、吉弥、塩鯛などが出てきますが、彼らはいい落語家になっています。

 私が贔屓にしている雀太は、枝雀の3番弟子(1番は故音也、2番は南光)の雀三郎の弟子ですから米朝のひ孫になって、この本には出てきません。

 最後が音曲漫才トリオ横山ホットブラザーズ(アキラ、マコト、セツオ)でした。3人兄弟+父の東六が出ていたのを思い出します。父はこの話が収録された時点で30年前に亡くなっていました。そして今は、三男だけが残っています。

 私は漫才も落語も好きでしたね。

『ネットと愛国/安田浩一

 「在特会の『闇』を追いかけて」が副題です。ルポライターの安田さんは、どんな人がどんな理由で在特会に入り活動しているのかを知りたい、と取材します。

 かなりしつこく在特会会員にインタビューしていますし、中心的な人からやめた人までも様々な話を聞き出していました。

 私も異様な「在日特権を許さない市民の会在特会)」の正体、どんな人が参加し何を言っているのかを知りたいと思い読みました。

 この団体は、見るからに異様で、言葉でも行動でも、暴力的で嘘が多いのですが、一部の幹部を除けば、けっこう普通の人であると書いてありました。

 驚いたのは「在日」の友人がいる人も、デモなどに参加しています。「在日」に特権などない、在特会は嘘を言っていると知っていても、同調している人がいるのです。

 ネットで様々なことを言い立てるネトウヨから外に出た行動力を評価された時期もあったようですが、今はどうでしょうか。

 この本では、やめた人の聞き取りも多くありました。のめりこんだ動機の多くは家族的な組織の温かさであり、逆にやめるのも、その縛りや、行動などの矛盾でした。

 刑事事件になった京都朝鮮学校、徳島教祖への暴力行為はその典型です。

『世界5月号』

沖縄返還交渉の歴史的陥穽―講和条約3条をめぐって/豊下楢彦

 今年は「沖縄返還50年」という節目です。前から「米軍はなぜ沖縄を長期に占領支配できたのか」という疑問がありました。第2次世界大戦終結の領土不拡大の原則により「一時的占領」しかできないから、おかしいと思っていました。

 軍事占領の経緯が書かれていました。やはり日本が「差し出した」ということです。

 ここにある52年締結の講和条約3条は「米国が沖縄を信託統治の下に置くという提案を国連に行いそれが可決するまで米国は沖縄への全権を行使できる」と規定しました。

 米国が自分で国連に提案するまで軍事占領し、しかも、その後は信託統治と言う植民地支配に変えるという条約です。

 ところが1956年に日本が国連に加盟し、1960年に国連が植民地を認めない宣言を出しています。矛盾が広がりました。

 しかし日本は沖縄返還を「国連に提起」することを放棄して従属国のように「日米交渉」問題にしたのです。

 その結果、米軍が望む「軍事行動の自由」を保障する「密約」を持った返還となったのです。

 今、台湾有事で沖縄、南西諸島の軍事化がすすめられていますが、それは間違いです。

 ウクライナを見たら分かるように、侵略を防ぐのは、軍備の増強や基地建設ではなく「戦争の危険性の除去こそが焦眉」です。それは官民を含めた外交、親善交流だと私は思います。

片山善博の「日本を診る」150(特別編)自壊する地方自治地方分権改革の原点に立ち返る】

 今回はちょっと長い記事です。地方分権改革の流れと意義、そして最近の状況です。そして20世紀の地方自治拡大から一転して「地方分権に対する期待と希望が今やほとんど消失した」と落胆し失望していると書いています。

 コロナの対応、国交省の統計不正等で、地方自治体は唯々諾々と従っているという批判です。そうだと、私も思いました。

 しかしふるさと納税に対する国と泉佐野市の争いをさして「非常識と違法の争い」でさすがに非常識が勝ったことは分権改革の成果だと苦笑いしています。

『前衛5月号』

岩波ホールの閉館発表の衝撃/児玉由紀恵】

 岩波ホール閉館を、小栗康平さんは「危機の本質は経済問題ではなく「映画文化そのものの変質」であると指摘」と書きましたが、それは何かを明らかにしていません。文末に「フランス、韓国なみの映画助成が急務」とそれらしいことを書いています。

 この記事の大部分はこれまでの岩波ホールの役割を評価するものです。それは全く同感ですが、岩波書店を親会社とするこのホールの閉館の要因を書くべきでしょう。

【メディア時評「テレビ」放送をめぐる気がかりなこと/沢木啓三】

 テレビの凋落は著しいものがあり「娯楽の王様」の地位はインターネットに奪われつつあるといいます。

 広告費が新聞、雑誌、テレビ、ラジオを合わせてもインターネット広告費を下回り「メディアの世界におけるパラダイムシフトが急速に進んでいる」状況です。

 そういう経済的問題を背景に、総務省の研究会で「放送の多元性・多様性・地域性の確保を目指すマスメディア集中排除原則」の見直しが議論されています。

 それはテレビ業界において、現在でもキイ局に自由にモノが言えない地方局を追い詰めるものです。「放送文化の破壊」につながると、私も思います。

 別の観点から放送の危機もあります。

 自民党は、民放とNHKの専務理事を呼んで、BPO放送倫理・番組向上機構)などについて質疑を行っています。BPOなどの法制化など、その委員に政府、与党寄りの委員を送り込もうという狙いです。 

 それは放送に対する権力の介入を意図し、言論や表現の自由を保障する憲法放送法に反するものです。