『沖縄米軍基地全史/野添文彬』『柳家花緑特選まくら集 多弁症のおかげです/柳家花緑』『歴史否定とポスト真実の時代/康誠賢・鄭栄恒、翻訳古橋綾』『海はどうしてできたか/藤岡換太郎』『世界6月号』『人新世の「資本論」/斎藤幸平』6月の本は、読了したのが花緑まくら以外は「ちょっと難しい」感じの本ばかりになってしまい、読み終えた小説、ミステリー本はありませんでした。まず3冊を書きましたが、長いです。
『沖縄米軍基地全史/野添文彬』
演劇鑑賞会8月例会、文化座『命どぅ宝』を担当したので沖縄の米軍基地問題を調べるために読みました。時系列的体系的に書いてあるのでとても理解しやすかったです。著者はまだ30代、沖縄国際大学の准教授です。彼の日米安保に対する評価、否定か肯定かは不明でした。
全体の構成は、前書き的に「沖縄基地問題」とは何か、を概括的に述べて ①沖縄米軍基地の形成(沖縄戦からサンフランシスコ講和へ)②沖縄への米軍基地の集中(50年代から60年代)③米軍のさらなる集中と固定化(沖縄返還とその後)④普天間・辺野古問題の迷走(冷戦後)でした。
『命どぅ宝』は②の時期ですが、④の現代についての問題意識を内に含んで提起しているように感じました。先日(2021年7月14日)台本を読んだ感想を載せました。
数字的なものや、心に残った問題を書いておきます。
現在の沖縄米軍基地は、米軍25,843人、専用施設面積18,496haで、沖縄県は日本全土の0.6%だが70%が集中し県面積の8.2%沖縄本島の14.6%を占め、県別にみると青森2.4万ha0.25%、神奈川県1.5万ha0.61%、東京都1.3万ha0.59%で一桁以上高くなっています。
米軍の中で組織が小さい海兵隊が多く、在沖米軍の面積7割兵力の6割を占め、これで米軍内の沖縄基地の持つ役割が見えます。海兵隊はいわゆる「殴り込み部隊」です。
憲法9条と日本の非軍事化は沖縄の米軍の存在と表裏一体で考えられたもので、憲法9条、日米安保、沖縄米軍基地が日本の安全保障政策の基礎となっている、という分析です。
サンフランシスコ講和条約後も、昭和天皇も軍事占領を「希望する」といい、米軍は「フリーハンド」使用の長期化を求めます。米軍基地の日本本土からの撤退と沖縄の強化が進められます。
56年那覇市長に沖縄人民党、瀬長亀次郎が当選するも、米軍の工作で失脚します。しかし那覇市民は、その後継者を市長選挙で圧勝させました。
そのほかに列挙すると、60年沖縄県祖国復帰協議会が結成され、教職会などの17団体(沖縄自民党は反対)が参加。核兵器の配備「アジア最大の各弾薬庫」となる。軍用地料が復帰前28億円、復帰後215億円へなり、地主が変化した。米軍と自衛隊の共同演習し、海兵隊に協力する。78年保守県政になる。そしてオール沖縄VS安倍政権。
本書を読み終えて思うことは、あまりにもひどい実態を知らなかった、ということです。
米軍は日本の主権をすべて排除した基地使用にこだわり、それを全面的に「日米地位協定」に反映しています。EU諸国の基地、同じ敗戦国のドイツとイタリヤとも全く違うものです。しかもそれを日本国民の目から隠しています。マスメディアが、根本的な問題として報道しません。
『柳家花緑特選まくら集 多弁症のおかげです/柳家花緑』
人間国宝柳家小さんの孫、22才最年少で真打ですから落語界のサラブレッドと思っていましたが大違いでした。学習障害で読み書きができない、学校の成績は最低という少年時代を過ごしてきたそうです。
「まくら集」は立川談志、林家たい平に続いてです。まくらは本編と違って、それぞれの個性が出て面白いです。しかもいずれも上手な文体で彼らの口跡が聞こえてきそうです。7月は林家木久蔵(今の木久扇)を読んでいます。
花緑さんの特徴は、上から目線ではなく時勢的なことも言わず、日常的な出来事をしゃべっている感じです。面白くするために「ネタを仕込む」感じ(仕込んでいるかもしれないが)でもなく、それでいて聞くものを笑かしています。
是非高座を聞きたいと思いました。
『歴史否定とポスト真実の時代/康誠賢・鄭栄恒、翻訳古橋綾』
「反日種族主義」という言葉を作った、日韓のベストセラーとなった歴史を改ざんした『反日種族主義/李栄薫』の欺瞞を徹底的に暴く本です。
全体的に訳が固い本でしたが、李栄薫の氏素性、思想そして書かれている内容について細かく反論しています。それだけにもう少しわかりやすい言葉使い等を工夫して書いてほしかったと思います。
私が『反日種族主義』を読まず(ジュンク堂にはなく、図書館も予約待ちが30人ぐらいいたので)に、これを批判した本を読んで、納得しているのか、その理由は、李栄薫は李承晩学堂の校長で李承晩を「建国の父」と崇拝し、軍事独裁政権を長く敷いた朴正煕を称賛する立場の人だからです。
これまで韓国が民主化された後の戦後の軍事独裁政権の暴政を描く映画をたくさん見てきたし、映画サークルの例会で、その時代を描く韓国映画(例えば『太白山脈』『弁護人』等)を取り上げるたびに、韓国の歴史を勉強してきました。
そして李承晩や朴正煕、全斗煥等がどれほどひどい政治、暴力的な弾圧をしてきたか良く知っています。それを持ち上げる学者は信用できなということです。しかも彼らは日本の嫌韓グループと同じように「従軍慰安婦」として名乗りを上げた人を侮辱してます。
仮に例え彼女たちが自由に職業を選べる娼婦であったとしても、日本の植民地とされていた朝鮮で、戦争下で、幼い少女たちが「自由」に生きる術は持っていないと思います。それを侮辱するとは、人間性が分かります。
この本を読んで、同じ資料でもどのように読み込むかによって、正反対に使われるものだということを知りました。第1次資料がどのような環境で作成されたのかを考慮するのは、研究としては当然です。
「2021年4月に読んだ本その1」(2021年5月16日)で『日本VS韓国/池上彰』を批判しました。池上さんもこの本を読んでいると思いますが、どう評価するのか聞きたいです。