『世の中ついでに生きてたい/古今亭志ん朝』『うつの医療人類学/北中淳子』『芸術立国論/平田オリザ』『尾根を渡る風/笹本稜平』『他人の空似/桜沢ゆう』『思いつきで世界は進む「遠い地平、低い視点」で考えた50のこと/橋本治』『泥濘/黒川博行』『図解使える失敗学大全/畑村洋太郎』8冊も読んでいました。
雑誌『世界』『前衛』も部分的に読んでいます。
本当によく読みました。いずれも面白い本でした。しかし、これらを書くのもまた大変です。2回で収めます。
『世の中ついでに生きてたい/古今亭志ん朝』
対談本です。対談した人とタイトルを書いておきます。
「ぼくら、廓を知らなくとも廓話はできる/山藤章二」「最後まで高座に燃やした志ん生の執念/金原亭馬生・結城昌治」「”普通の人”の感覚でないといい仕事はできない/池波正太郎」「日本語って、混乱しているようでも実に生命力に溢れている/池田弥三郎」「世の中ついでに生きてたい/結城昌治」「芸を語る 父を語る/中村勘九郎」「笑いと想像力/荻野アンナ」「落語も人物を描かなきゃ…/江國滋」「待ってました。イヨォッつ!/中村江里子」「親父は親父、芸は一代。/林家こぶ平」
志ん朝は2001年に亡くなっています。この本は2005年の発行です。対談相手を見ると彼を評価する人はいい人が多いようです。
「様子がいい」「いい噺家がいればいい話を生かす」「「お」がつくと付かないで意味が変わる言葉」「芸は人なり」「「三ベン稽古」は要点を抑える」という言葉、そこから発想し連想する話が面白かった。
暇で志ん朝、落語が好きなら読んでみてください。
『うつの医療人類学/北中淳子』
50才の時にうつ病で8か月休職しました。なぜそうなったのか、自分自身いつも知りたいと思っています。原因は職場のパワハラですが、同時に私の心身が弱っていたこと、先に見えないこと、相談する人もないと思い込んでいたこと等です。
それが本書読んだ動機です。
医療人類学という言葉も初めて知りました。医学の科学性と社会性を合わせて解明していく学問のようです。
うつについて、古今東西の変遷を調べ、その社会的背景が明らかにされています。そして現代の課題です。
私の時もそうですが「心の風邪」「必ず治る」「薬とセラピーで治療」が、1990年代以降の日本の治療でした。そして何より休むこと、大きな原因である職場環境から離れることでした。
本人の資質よりも、うつと自殺、過労死などが関連付けられる時代です。それはそうだと思います。
『芸術立国論/平田オリザ』
5月に平田オリザさんの講演を聞き、とてもいい話だったので、この本を買いました。講演とかぶっているところはあるのですが、わかりやすくて良かったです。5月に読んだ『22世紀を見る君たちへ―これらかを生きるための「練習問題」/平田オリザ』と併せて読むと、芸術・文化と人間社会の関係がよくわかります。
芸術・文化は、コロナ禍でいわれた「不要不急」ではなく「社会の在り方そのものを決定」していくと明言し、それに基づいて論を展開しています。
各章は「芸術の公共性とは何か」「地域における芸術文化行政」「経済的側面から見た芸術文化行政」「教育と芸術文化行政」「文化権の確立」「文化行政の未来」「芸術の未来」となっています。見事な章立てと私は思いました。
気付いたことを書いておきます。
・「あらゆる公共性の問題は「ある」「ない」の文脈ではなく「強い/弱い」「高い・低い」の文脈」であり、現代日本社会における文化芸術の公共性は高い、といいます。
それ自体は同意するのですが「さらに高まる」といいました。この本は2001年発行で、それから20年を経たコロナ禍で、国家も世論も「不要不急」と言うレベルでした。
・「日本の多くの公立ホールは出会いの場所になっていない」の指摘は、自治体の担当部局の意識の低さの現れです。文化芸術や公共性、住民の要望などについて、政策的に深い議論が出来ていないと思います。ですが少しずつですか改善されています。
・「日本は・・・儒教社会が成熟社会に向かう壮大な実験」は、文化芸術の先進国の西洋社会との違いを指摘しました。
・「会話」と「対話」の違い。「自分の言葉が容易に通じない体験」も日本社会の特徴と言います。「分かり合う文化」から「説明し合う文化」という展開です。最近の若い層の様子を見ていると、そういう流れかなと思います。
演劇鑑賞会について、評価しつつも厳しい指摘もしています。その一つに、適切な規模の劇場の問題があります。
400人規模の演劇を倍以上のホールで上演しています。それは財政的な問題ですが、良い演劇を見るために必要な条件です。これは難しい指摘だなと思いました。
『尾根を渡る風/笹本稜平』
『花曇りの朝』『仙人の消息』『冬の序章』『尾根を渡る風』『10年後のメール』の連作短編集です。警視庁捜査一課から、1500~2000m級の山に囲まれた奥多摩の駐在に転勤してきた江波淳史が、彼の周辺で起きる山をめぐる事件を、解決していきます。
江波とその愛犬、バツイチのガールフレンド、宿屋の息子などが常連です。
『花曇りの朝』山で遭難したのか、帰ってこない犬を探してほしいという相談が持ち込まれた。
『仙人の消息』高齢で山歩きを楽しむ、みんなから仙人と呼ばれた男が、急に現れなくなって、みんなが心配してという相談がきっかけで。
『冬の序章』山登りの支度をしていない男の死体をがれ場で見つけます。男の身元はすぐにわかりましたが、なぜ山に来たのかという謎が残りました。
『尾根を渡る風』山岳マラソンをする男が、江波のガールフレンドにストーカー行為を仕掛けた。なぜ、どういうことで、ということで調べ始めた。
『10年後のメール』10年前に山で消息を絶った息子から父に、突然メールが届きました。
正式な捜査はできないけれども、一緒に探してみようと山に登ります。
『他人の空似/桜沢ゆう』
お互いに「そっくり」と認め合う同士が巡り合って、いたずら心で入れ替わりを画策しますが、それがとんでもないことになるという話です。
これは性転換をテーマにした小説です。ノーマルであった男がいつの間にか性転換を自ら望むようになるという展開です。ちょっと無理があるように思います。