2023年5月に読んだ本その2

22世紀を見る君たちへ―これからを生きるための「練習問題」/平田オリザ』『日本人の笑い/暉峻康隆』と『世界5月号』『前衛5月号』を書きます。

22世紀を見る君たちへ―これからを生きるための「練習問題」/平田オリザ

 西神ニュータウン9条の会が平田さんを講演に呼び、私がその司会を務めました。そのために事前に一冊ぐらい読んでおこうと図書館で借りました。

 予想以上に面白く読みました。さらに講演を聞いて、平田オリザさんの魅力は劇作家を越えたものであると思いました。

 この本も演劇に関するものではなく、演劇を使った教育を考え実践してきた平田さんの考え方をまとめた本でした。

 大学の入試で演劇を使った事例がありました。四国学院大学の演劇コースの入試です。どういう風にするのかと思うと、受験生を67人のグループにして、テーマを与えたディスカッションドラマをつくらせるというものです。

 推薦入学の受験生なので、その考え方は知識の量をはかるのではなく、生徒の本質を見極める試験、と言っています。

その他にも「学び合い」「論理的にしゃべれない人の気持ちを汲み取る能力」など重要なことが書かれてありました。

『日本人の笑い/暉峻康隆』

 江戸川柳のいわゆる「ばれ句」を中心に書かれた本です。最初は1961年に出されて、暉峻康隆さんは高名な江戸文学の大学教授です。それにしては柔らかいというか、ちょっと品に欠ける文章でした。でも面白かったです。

 気になった川柳を書いておきます。

・宝船しわになるほど女房こぎ

・門口で医者と親子が待っている(これは解説を読むまで全く分かりません)

・神代にもだますは酒と女なり

・老いが恋わすれんとすれば時雨かな(蕪村)

・金につまづいて踊り子転ぶなり

・残念かいいか常盤泣いてさせ

・歯は入れ歯目はめがねにて事たれど

『世界5月号』

 この号の特集は二つ「新しい戦前と憲法」「見えない貧困」があり、「大江健三郎さんを追悼する/小森陽一」とか、面白い読み物が多くありましたが、紹介するのは映画です。

「インタビュー『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・タルデンヌ監督に聞く/聞き手・中村一成

 サブタイトルが「友情(アミティエ)という、たった一つのホーム」となっていました。

 少年トリと少女ロキタは、西アフリカからきた未成年の移民です。トリは在留許可を得ていますが、ロキタはその姉と偽ってビザを得ようとしますがなかなかうまくいきません。

 彼らは生きていくためにいろんなことをする、欧州社会は彼らをどのように扱うか、そういうことを描く映画でした。

 私は、見た直後は「よくわからない」という評価ですが、でもとても気になる映画でした。彼らが生きるために、金を儲けるために、子どもなのに欧州にやってくるという発想についていけなかったからです。

 しかしそういう現実があると、この映画は突き付けたのです。二人はたまたま知り合っただけで、男女の関係でもない、幼い無償の「友情」だけで結びついている姿も、異様に見えます。

 人権が普遍的なものとするのか、すべて問いかけられていると思いました。

『前衛5月号』

座談会「欧州左翼との新たな交流・連帯を求める旅その2 欧州左翼党大会―軍事ブロック・軍拡に反対、大陸を超えた共同/緒方靖夫、田川実、吉本博美」

 4月に続く欧州の左翼党との交流で、202212911日に開かれた欧州左翼党第7回大会に出席して、その時の様子を3人が話しています。

 欧州左翼党は2004年に結党され、現在、24か国の25党が正式加盟、12党がオブザーバーで、多様な左翼・進歩党が参加しています。西欧だけでなく、旧ソ連の一部を含めた東欧の政党も参加しているフォーラムです。欧州の有力な左翼政党がすべて参加しているというわけでもなさそうです。

 やはりウクライナ戦争が大きなテーマですが、それに対し意見の一致はありません。政権与党であるフィンランド左翼同盟は、フィンランドNATOに入ったために欧州左翼党から抜けています。しかし大枠として左翼が「対案」を示すことが大事だといいます。

 また北欧でも新自由主義との闘いがあるようです。

 日本共産党の「軍事ブロック強化、軍事費増大に反対」は受けたようです。米国が主導する中国、ロシア排除よりも、包摂です。NATOの拡大にも反対です。

 でもこれを読んで気になったのは、欧州全体で進んでいる極右政党の支持が増大していることの分析があまりなく、その一因となっている移民問題について触れていないことです。