『田辺聖子の人生あまから川柳/田辺聖子』『探偵は女手ひとつ/深町秋生』『文字助の話/立川談四楼』『空白の起点/笹沢左保』『22世紀を見る君たちへ―これらかを生きるための「練習問題」/平田オリザ』『日本人の笑い/暉峻康隆』6冊と『世界5月号』『前衛5月号』でした。
2回に分けて書きます。
お聖さんの川柳愛がよくわかる本でした。しかも「人生あまから」と言ってるように、人の奥底それぞれを表現した川柳を集めていました。こういう本を読むと、その傾向の川柳が思い浮かんできました。さっそく私の川柳日誌に書き込みました。
この本で引用されて、私が気に入った川柳を書いておきます。
・何がおかしいとライオン顔を上げ
・行水をつくづく犬に眺められ
・酔っ払い真理を一ついってのけ
・娘もうほんまのおいどして歩き
・貧乏もついに面だましいとなり
・出世せぬ男と添うた玉子酒
『探偵は女手ひとつ/深町秋生』
『紅い宝石』『昏い追跡』『白い崩壊』『碧い育成』『黒い夜会』『苦い制裁』
山形に住み働いている探偵、椎名留美を主人公にした連作短編集でした。もっと悪役が活躍するのかと思いましたが、身近な犯罪を扱っています。
結構楽しく読みました。
留美は元刑事で、同じ刑事だった夫と死別して、娘と二人暮らしのシングルマザーです。浮気調査などの探偵らしい仕事よりも農作業の手伝い、雪かき、デリヘルの運転手と言った便利屋の仕事が多い、と愚痴ります。
でも刑事時代の伝手を生かして情報を取り、その時代に知り合った元番長を協力者にしています。さらに署長とも繋がっています。
『紅い宝石』は、山形らしくサクランボ泥棒。
『昏い追跡』は、万引きを見つけられた少女、なぜそんなことをしたか。
『白い崩壊』は、デリヘル嬢たちの拉致という、最も危ない話。
『碧い育成』は、麻薬の栽培。
『黒い夜会』は、ホストを罠にはめる悪人。
『苦い制裁』は、ストーカーを受けたという男はセクハラ野郎。
どれもどこにでも居そうな小悪人たちが立ち回る話です。
『文字助の話/立川談四楼』
桂文字助、立川談志の弟子(元は三升家小勝の弟子で、師匠の死後に談志門下)を弟弟子の談四楼が書きました。私は『赤めだか/立川談春』で、その名前だけは知っていました。かなり無茶苦茶な人間だなという感じがあったので、この本を読みました。
予想通りというか、予想以上の噺家でした。
三升家小勝の弟子になり、その師匠の没後、立川談志の弟子になり立川談平と改名し、1979年に真打昇進し桂文字助を襲名します。かなりいい名前のようです。その辺りが噺家としても、普通の社会人の範疇でもピークの感じです。
そこから師匠の談志を「困らせた」というぐらいに、酒毒がまわり無茶苦茶の人生へと「転落」していったようです。敵味方の見境なく喧嘩を売り、借金を重ね、ついには妻子にも去られます。
談四楼が見てもいい奥さんだったようです。さらに彼のもっとも理解者であった贔屓筋などへ喧嘩を売って独りぼっちになり、生活保護を受けた噺家になりました。
喉頭癌で入院させられた時に、嫌がって「窓から飛び降りるぞ」と脅かして脱走したといいます。でも部屋は一階だったという落ちもありました。
2021年76才で死去しています。
この本は談四楼が文字助の話をツイッターに書き溜めたもので、そのもとは「文字助コンフィデンシャル」で、それは今でも読めます。
『空白の起点/笹沢左保』
これは笹沢左保のデビュー第5作で1961年に雑誌「宝石」で連載されています。作家2年目ですが、これで直木賞候補になっています。「推理小説でしかない小説」(いわゆる本格派)では珍しかったようです。
確かに奇抜な謎の設定でした。
列車の中から、崖から突き落る男を目撃した女は、その男の娘だったというのが、物語の始まりです。その男は自分に多額の保険をかけていて、娘が受取人だったことから、その列車に乗り合わせていた保険会社の調査員が、真相の究明に拘り始めます。
かなりの偶然と無理筋のような犯罪、動機と私は思いました。若い時はともかく今は「本格派」は面白くないです。