2023年4月に読んだ本

『落語家論/柳家小三治』『騙し絵の牙/塩田武士』『師匠。ご乱心/三遊亭円丈』『李朝残影/梶山季之』『77冊から読む科学と不確実な社会/海部宣男』『川柳を始める人のために/時実新子』6冊と『世界4月号』『前衛4月号』でした。2回に分けて書きます。

『落語家論/柳家小三治

 小三治が主に「民族芸能を守る会」の機関誌に書き続けた巻頭言をまとめた本です。この団体は今でもあるそうですが、HPの検索しても出てくるのは古いものです。落語や講談、歌舞伎、狂言など幅広くかかわってて、1965年ぐらいから本格的な活動をしているようで「共産党系」と書いてありますが、いい仕事をしています。

 いつ頃書かれたものか、日付けを見ると1982年から6年ほどのようです。

「紅顔の噺家諸君!」「ある噺家の構造」という見出しがついています。若手落語家に向けたもののようです。

 その中で師匠の小さんからはいわれたことがあります。「盗め」「お前の噺は面白くねぇな」「その了簡になることだ」でした。女性の噺家(タレシカ)の可能性についても触れています。とにかく辞めずに続けることと書いています。

 小三治が気に入った酒の紹介で、一番が福井県武生市の酒で名前は秘密でした。長野県諏訪市の「舞姫」、新潟県高田市の「華」はあげられています。

『騙し絵の牙/塩田武士』

大手出版社の内側を描きました。映画では主人公に大泉洋を置いていますが、原作は彼を想定した当て書きだそうです。映画は見ていません。

 主人公の雑誌編集長、速水輝也を中心に社内の人間関係、作家やテレビ局はもちろんパチンコ業界等にまで付き合いを広げていって自分の雑誌を守ろうとする姿が中心でした。

 社内はもちろん、売れっ子作家にも影響力を持つ優秀な男です。

 出版不況であり、社長が変わったこともあり、速水の雑誌が潰されそうになるというところから、話は始まります。しかも家庭も崩壊寸前です。

 壮大な逆転を持ってくる騙し絵のような小説でした。でも広げ過ぎと思いました。

『師匠。ご乱心/三遊亭円丈

 19785月に「昭和の名人」といわれた三遊亭円生が、古今亭志ん朝三遊亭円楽立川談志などを引き連れて、五代目桂小さん率いる落語協会を割って出て「三遊協会」といをつくった経緯を、その真っ只中にいた三遊亭円丈が、すべて実名で書いた本です。

 1986年に単行本で出されて、読んだこれは2018年の文庫です。その後のことも書き足されていますし、現在の思いを語る円丈、六代目円楽、小遊三落語芸術協会)の鼎談もついていました。

 楽しくはないけれども、とても面白く読みました。

 円生は孤高の名人、自分の落語を愛し、守ろうとした噺家のようです。でも人間的には幅が狭い感じです。

 円丈が「落語協会に戻りたい」といった時の、円生とその妻の罵り、円丈自身のこの事件のクライマックスです。彼は円生に従いますが、これで「切れた」と言います。

 志ん朝はわかりませんが、円楽、談志(この時は協会に戻るが、のちに立川流を作って出ていく)はそれぞれに「野望」を持っていたようです。

李朝残影―梶山季之朝鮮小説/梶山季之

ここに収められているのは以下のとおりです。

小説:『族譜』『李朝残影』『性欲のある風景』『霓のなか』『米軍進駐』『闇船』『京城、昭和十一年』『さらば京城』『木槿の花咲く頃』

参考資料:『族譜(広島文学版)』

エッセイ:『韓国の”声なき声”を推理する』『朴大統領下の第二のふるさと』『京城(ソウル)よ わが魂(ソウル)』『魂の街ソウル』

解説:『梶山季之「朝鮮小説」の世界/川村湊

 梶山季之は知っていましたが、こういう小説は初めてです。彼のものは、いわゆるポルノ小説の類を読んできました。

 彼は1930年、日本の植民地であったソウルで生まれます。敗戦とともに両親の故郷である広島に帰って来ました。高校教師など職を転々とした後、1958フリーライターとなり、

ラジオドラマの脚本なども書いていました。

 1962年『黒の試走車』がヒットしこれ以降、流行作家となりますが1975年に香港で死亡しました。幅広い小説を書いていて、複雑な人だなと思います。

 特にこの小説集は、日本が植民地支配していた時代の朝鮮半島を舞台として、日本人と朝鮮人を描いています。『族譜』『李朝残影』にはその残酷な支配の様子が書き込まれていました。

 梶山が朝鮮にいたのは15歳までですが、その雰囲気を十分掴んでいたということでしょう。

 『族譜』は、朝鮮の大地主、名家の主が創氏改名に抵抗する姿、それを徹底的に苛め抜いて「自発的」に改名させようとする日本側の圧力を、これでもかと描きます。権力のもとで、それを仕事とする「良心的な」官吏の思いを入れています。  

 創作ですが、日本の朝鮮支配の姿が読み取れます。