2023年2月に読んだ本

『鬼哭の銃弾/深町秋生』『どんでん返し/笹沢左保』『なぜ「小三治」の落語は面白いのか/広瀬和生』3冊の本と『世界2月号』『前衛2月号』でした。

 深町作品にはまってきました。落語関係も続いています。

『鬼哭の銃弾/深町秋生

 先月に続く深町作品です。

 未解決の殺人事件を追う刑事の執念を描くミステリーと簡単に言うことが出来ますが、それ以上に人物設定が異常でした。

 父は鬼刑事であり、しかも妻や子に暴力をふるう異常人格です。そのもとに育った息子も刑事になりますが、親子は絶縁していました。

 それが未解決事件の銃弾が発射される事件が発生したことで、二人は相まみえます。

 父はすでに退職していますが、この事件に執念を燃やし、真相に迫ります。目星をつけた犯人をあぶりだそうと罠を仕掛けました。そして息子もこの事件の担当として走り出しました。

 未解決の事件には、その陰に隠された殺人事件があったというのがミソでした。暴力シーンもあり、一気に読ませる力はあります。でも隠された事件を警察が見つけられなかったというのが、ちょっと引っかかりました。

『どんでん返し/笹沢左保

『影の訪問者』『酒乱』『霧』『父子の対話』『演技者』『皮肉紳士』

 全て会話で成り立っているミステリー短編小説6編で、最終段階でひっくり返すような謎解きがありました。そんな制約がありながら、窮屈さを感じさせない笹沢さんの技量が光ります。

『影の訪問者』

 深夜、別れた男のもとに、素肌の上にコートを羽織った女がやってきました。突然の訪問をめぐる二人の会話です。

『酒乱』

 酒乱で、夫の従兄弟を殺した妻と、その夫の会話。事件の真相は誰が知っているのか。

『霧』

 別れ話をする夫婦の会話。男は上司の娘と出来て、妻に離婚を迫るが妻は応じない。最初は銀座通りを歩きながら、そして家のベッドの上で、それから二人は旅に出た。

『父子の対話』

 27年も別れて暮らしていた父と息子が、弁護士として成功した息子の下で暮らし始めた。なぜ二人は別れていたか、なぜ突然に父と子の対話になったのか。

『演技者』

 夫殺しを依頼した妻と、依頼された愛人の会話。完璧なアリバイを用意しての犯行だったが・・・。

『皮肉紳士』

 刑事が心理学者に、事件現場に残されたダイイング・メッセージのなぞ解きをお願いする会話。

『なぜ「小三治」の落語は面白いのか/広瀬和生』

 江戸落語人間国宝であった桂小三治について書いた本です。私も小三治は大好きですが、読んでいて大方は同意する内容でした。

 小三治落語協会会長就任の半年後のインタビューと、著者が考える、魅力的な小三治の演目90席について簡単な紹介しています。

 著者は小三治を「『人間という存在の可愛さ』を描く達人」という評価です。志ん朝や談志も評価しつつ彼らとの違いをこう表現しています。

 志ん朝は「スペシャルなイベント」談志は「一期一会の真剣勝負」で、小三治は「素敵な日常」といいます。

 小三治は、感動的なドラマを演じることや、ことさら笑いをとるというよりも、登場人物の楽しい話に、市井の庶民が共感するような噺ですね。

 もともとから上手い面白い落語でしたが、晩年は「取り立てて面白い台詞を言っているわけではないのに、なぜか笑いがこみ上げる」という評価に大きくうなずきました。

 小三治はまくらの名人ですが、これもそうおかしいことでもないのに、聞いていておかしいのです。感覚的に共感します。

 個々の演目紹介では、小三治の演じ方が細かく紹介されています。古典落語はみんな同じ噺になっていると思っていましたが、演者によってそれぞれ工夫しているそうです。

 「居残り佐平治」では、主役の佐平治を、志ん朝は「陽気でバイタリティー溢れる魅力的な人物」談志は「何だかワカラナイ奴」小三治は「飄々とした態度の向こうにどこか屈折したものを感じさせる」と性格付けしています。

 しかもさげの部分も、いろいろと違います。なるほどと思いました。

『世界2月号』

特集1「習近平新時代 共存の道は」

特集2「コロナは日本をどう変えたか」

 短くまとめるのは難しい。

『前衛2月号』

『現代地方自治の歴史的位置と展望/岡田知弘』

 岡田さんは自治体問題研究所の前理事長です。タイトルからわかるように、いっせい地方選挙の直前にあって現在の地方自治自治体をめぐる情勢の話です。

 見出しは「瀬戸際に立つ戦後憲法地方自治」「コロナ禍による生活苦と憲法25条の重要性」「生存権の歴史的普遍性と社会運動の重要性」「原発災害被災地の現状とエネルギー自治の重要性」「中小企業振興基本条例から生活保障基本条例の実現」「国・自治体を住民のものに とりわけ情報主権の重要性」です。どれもコンパクトにまとめられています。国の施策と私たちの生活のつながり、自治体の役割よくわかります。

 「地方自治体の団体自治と住民自治を否定する動きが強まって」いると書かれています。その通りだと思うのですが、それをどう覆していくのか、危機意識を持っています。

『プロボクシング・井上尚弥選手 4団体統一王者から次の挑戦へ/小林秀一』

 野球の大谷もすごいが、この井上もすごい、2階級世界最強をめざしていますが、その強さがよくわかる記事でした。