2023年7月に見た映画

『遺灰は語る』『小説家の映画』『キャロル・オブ・ザ・ベル―家族の絆を奏でる歌』『君たちはどう生きるか』『手紙と線路と小さな奇跡』『世界のはしっこ、小さな教室』6本ですが、映画サークルや演劇鑑賞会の原稿があったので、時間がない中でよく見ました。でも「よかった」という映画は少ない月でした。

『遺灰は語る』

 イタリア映画界の巨匠タビアーニ兄弟の弟がつくった映画です。兄は死んでいます。面白い映画が多いのですが、でもこれはよくわかりませんでした。

第二次大戦の直後、イタリアのノーベル賞作家ルイジ・ピランデッロの遺灰をローマから故郷のシチリアへ運ぶという映画です。それにまつわるエピソードが描かれていました。でもその意味がよくわからないのです。

『小説家の映画』

 韓国映画ですが、これもよくわかりませんでした。

 書けなくなった有名な女流作家が旅に出て、色々な人に出会い、そして一線を引いた女優に出会って、一緒に映画をつくろうといいます。

 映画がつくられて、それでどうなのか。わかりません。

『キャロル・オブ・ザ・ベル―家族の絆を奏でる歌』

 第2次世界大戦のポーランド、スタニスワブフ(現在はウクライナ)に住む3家族を描きました。それぞれ国も民族も違い、彼らの運命は、ナチスドイツとソ連の戦場となり、侵略を受けたポーランドの複雑さを象徴する感じです。題名はウクライナ民謡だそうです。

 一軒の大きな家に住むユダヤ人のもと、ポーランド人、ウクライナ人の家族が間借りして住んでいました。仲がいいということではないのですが、それなりに付き合っています。

 ドイツ軍が西からポーランド侵略戦争を開始して第2次世界大戦がはじまり、すぐにソ連軍が東からポーランドを攻略します。

 まずポーランド家族の夫婦をソ連軍が連れ去ります。子どもはウクライナ人の家族として残ります。次にドイツ軍がやってきてユダヤ人夫婦を連れ去ります。

 ドイツの支配の下でユダヤ人の子どもは大きな時計の裏の隠れ家で生活します。ウクライナ人の夫はレジスタスの一員で処刑されます。

 やがてドイツ軍が敗走して、再びソ連軍により支配されます。この時に、ウクライナ人の妻はドイツ人の子どもも助けます。

 戦争が終わって平和になるのではなく、ソ連軍はウクライナ夫婦も連れ去り、ドイツ人の子どもは殺され、他の子どもたちは施設に送られました。

 そして現在にとんで、ウクライナポーランドユダヤ3人の子どもが成長して再会するところで終わります。

 ドイツ、ポーランドウクライナソ連(ロシア)の関係を象徴する映画でした。庶民は協力して生きようとしますが、残酷な国家がよく描かれていました。

君たちはどう生きるか

 宮崎駿の脚本、監督の映画ですから期待していきました。でもダメでした。私にはこの映画の良さが全く理解できません。

 同名の吉野源三郎の戦前の子供向けの小説からヒントを得たように書いていますが、私は違うと思いました。この小説を読んだ子どもの話ということになっていますが、戦時下という時代設定を生かすのではなく、幻想的な異次元の世界を描くのは違うと思うのです。

 残念です。

『手紙と線路と小さな奇跡』

 面白い映画なのですが、この時代(まだ軍事独裁政権)の韓国の感じを知っていないと本当の意味の良さがわかなないのかもしれないと思うのです。『1987、ある闘いの真実』の一年後です。

 村に線路は通っていても駅がない、隣の町へ行く道路がない、村人は線路を歩いていて、時折事故がある。それで駅をつくってほしいという要望を国会議員にあげています。しかし埒が明かないので、一人の若者が中心になって自分たちで駅をつくる、という話です。

 でもそれ以上に深みを持った映画だと思いました。

 公共施設が整備されていないのは、日本の植民地時代と独裁政権負の遺産だと思います。それを乗り越えていく映画だと感じました。

『世界のはしっこ、小さな教室』

 ドキュメンタリーです。いい映画でした。西神ニュータウン9条の会HP「憲法と映画」で書いたものを載せておきます。

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  教育は本当に大事

 西アフリカの小さな内陸国ブルキナファソ、南アジアのバングラデシュ、ロシアのシベリアで生きる少数民族エヴェンキ族を描くドキュメンタリーです。

 それぞれの国の詳しい事情は描かれません。辺境にある小学校の教室で奮闘する教師と子どもたちの日常に焦点を絞っています。でもその限られた映像から、他の状況も推し量る事もできます。

貧しさとは何だろう

 ブルキナファソ60以上の部族で構成された国で多様な言語があります。公用語はフランス語で、識字率をあげることを重要課題にしています。教師は、現地の言葉が分からない中で、560人の子どもたちにフランス語の読み書きを教えています。

 ここは最貧国の一つで、僻地では教室も整っていません。

 バングラデシュも貧しい国です。しかも低湿地の洪水多発地帯がおおく、そこでは船の教室です。この国の大きな問題は、女の子は教育よりも早く結婚して支度金を稼ぐ事を求められる習慣です。法律では結婚は18歳以上と決められていますが、実態は18才未満で6割、14歳未満でも2割が結婚します。

 教師は女子を進学させるように母親を説得します。自立した女性には教育が必要です。

 エヴェンキ族は極寒のシベリア森林地帯で、トナカイを遊牧しながら家族単位で暮らしています。

 教師は教室となるテントや教育道具をそりに積み込み、彼らのキャンプ地を回って10日間の授業を行います。ロシア語に加えてエヴェンキ族の言葉と文化を伝え守りたいと思っています。

奮闘は実るのか

 この映画に登場する教師たちは女性です。あまりにも厳しい自然環境と財政状況の中で、奮闘する彼女たちの情熱が描かれます。

 どこまで本当か、あるいは彼女たちの奮闘は、事態を変えることが出来るのか、疑問も残ります。

 しかし半年、一年たった子どもの成長を見ると、一人一人の可能性が感じられます。それが未来を拓くと映画は強く訴えました。

 愚かなロシアの侵略戦争は続いています。世界中の軍事費が教育費に回ると、人間の未来は間違いなく明るくなります。人類は、なぜそれに気づかないのか、怒りを覚えました。