『傍流の記者/本城雅人』『赤めだか/立川談春』『日本VS韓国 対立がなくならない本当の理由/池上彰』『世界4月号』『フォッサマグナ/藤岡換太郎』『声に出して笑える日本語/立川談四楼』の6冊を紹介します。まずは3冊分です。
『傍流の記者/本城雅人』
ミステリーではなく全国紙の社会部を舞台にする、新聞社の企業小説で『敗者の行進』『逆転の仮説』『疲弊部隊』「選抜の基準」『人事の嵐』『記憶の個室』の連作短編集です。
東都新聞社会部に優秀な記者ばかりがそろった黄金世代の同期六人。警視庁の植島、検察の図師、調査報道の名雲、遊軍の城所、人事の土肥、社長秘書の北川をそれぞれ担当部局で活躍していますが、各辺ごとに中心人物を変えながら新聞社内部の葛藤を書いています。
「貫くべきは己の正義か、組織の保身か。出世か、家族か、それとも同期の絆か――。中間管理職の苦悩、一発逆転の大スクープ、社会部VS.政治部の熾烈な争い……火傷するほど熱い新聞記者たちの闘いを見よ。痛快無比な企業小説」という持ち上げた書評もありますが、社内の丁々発止の面白さですね。それがジャーナリズムの役割とどう関係しているのか、彼らの記事の社会的な影響力はどうなのか、その点が物足りないと思います。
『赤めだか/立川談春』
談志、談四楼を読んで、続いて今や江戸落語のトップランナーともいえる立川談春の立川談志入門から前座修業までを書いた自伝です。面白いし立川一門の中もわかるようになっています。
講談社エッセイ賞も取っていますし、テレビドラマにもなっています。
当然、師匠談志とのかかわりが濃くてまた面白く、彼の「名言」や奇行がふんだんに出てきます。今、立川流の中で一番マスコミに露出の高い志らくは、昔から根性が悪かったようです。
私は、談春の同期で廃業する談秋との話が一番しんみりときますね。それと1年間築地のシュウマイ専門店で働いた話。配達途中で落としたシュウマイを、ぱっぱとごみを払って持っていく感覚、食べ物商売のものではない、無茶苦茶ですが、そこで世間の常識や気配りを学んでいきます。
そんな経験をして落語家、談春がつくられたのが面白いですね。
『日本VS韓国 対立がなくならない本当の理由/池上彰』
2020年9月発行ですから、この問題に対する池上彰の最新版の考え方といっていいでしょう。フジテレビ「池上彰スペシャル」を書籍化したものです。これは装いを凝らした嫌韓本のたぐいです。
日本のネトウヨに迎合する『反日種族主義』を書いた李栄薫(李承晩学堂の校長)の主張を踏襲するだけで、韓国内にある李栄薫らを批判する人々をきちんと取材していません。
やはり池上彰さんは酷い、と思います。
本の章立てを紹介すると「はじめに―日韓対立はいつまで続くのか」①「なぜ日本に厳しく、北朝鮮に甘いのか」②「反日の象徴「不買運動」のその後」③「意外と知らない!?徴用工問題」④「若者世代に変化のきざし」⑤「「反日種族主義」と嘘の歴史教育」⑥「日本と韓国が分かりあうために」で、「池上彰からのラストメッセージ」として「韓国は韓国の歴史を見直そうとしている。私たちの側にもやるべきことはたくさんある」となっています。
でもこの本では、日本のヘイトスピーチや嫌韓本が持っている歴史の偽造、明らかな嘘については一切触れていません。池上彰さんが映画『主戦場』に出てくる、従軍慰安婦問題を否定する恥知らずの面々と同じような顔に見えてきました。
『反日種族主義』は2019年に韓国で出版され10万部、同年に日本でも文芸春秋社から出版されて40万部売れています。内容は日本で出版されている嫌韓本と同様のようです。一度、本屋で立ち読みしてみます。図書館で検索すると予約待ちがたくさん入っていました。
これに正面から反論する韓国の研究者が『歴史否定とポスト真実の時代 日韓「合作」の「反日種族主義」現象/康誠賢他』を2020年初めに出しています。日本でも2020年12月に出版されています。
それについても池上さんは触れていません。今度はそれを読んでみます。