2020年12月に読み終えた本その2

池上彰の世界の見方インド/池上彰』『安倍政権は「倒れた」が「倒した」のではない/松竹信幸』『「世界」12月号』『ナンバー/相場英雄』『林家たい平快笑まくら集/林家たい平』後半は5冊ですが、中身が濃いくて、ちょっと長い紹介になりました。

池上彰の世界の見方インド/池上彰

2月例会『あなたの名前が呼べたなら』を担当しています。インド映画なので、機関誌でインドの社会全体を紹介する文章を書くために本を借りました。これは2020年に出た本で、池上彰さんが中学生に特別授業をしたものを本にまとめたもので、わかりやすいです。しかしこれだけでは足りないので、昔に買っていた『インドを知る事典』やインターネットの記事などを使って書きました。その記事は、別途載せます。ここでは標記の本を紹介します。

印象はインドの全体像ですが、中学生相手のためか深部に触れていない感じです。でもさすがに説明は上手だと思います。

カーストをヴァルナ(身分)と結びついたジャーティ(職業集団)の上下関係を作るインドの社会制度と説明しています。憲法では差別を禁じて平等を謳っているが、カーストを前提とした社会を想定していることをいいます。結婚という個人の人生、「家」家族の重要事においてそれは重みを増します。都市よりも農村部でそれは顕著です。

インドの経済成長の特徴であるIT産業は、新しい職業だからカーストの枠外で、能力さえあれば、誰でも成功することができる職業だという面があります。

『安倍政権は「倒れた」が「倒した」のではない/松竹伸幸

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 この本には二つのことが書かれてありました。一つは安倍政権がなぜ78か月も持ったかを分析し、もう一つは、それを倒すために築かれている野党共闘にはどんな政策が必要か、特に防衛政策について、様々な思考を巡らせています。

 ここに書かれてあることが、正解であるとか、問題の全てであるとは思いませんが、これだけ率直にまとまった文章に書けるのは松竹さんだけだと思いました。

 安倍政権が長く続いた要因は、21世紀に入って変化してきた政治情勢、日米関係に対応してきたことだと書きます。

岩盤支持(新自由主義の保守)の上に、それ以外のリベラルも取り込んでいたためだと書きます。例として靖国参拝は政権直後にしただけで、後はいかなかったことや、戦後70年談話は、形として村山談話を踏襲し、従軍慰安婦問題でも河野談話を否定していないこと等、イメージとしてある排他的ナショナリストではない身のこなし方をしています。

 アベノミクス、秘密保護法、集団的自衛権容認、共謀罪、沖縄基地など、そして彼の個人的な属性から出てきたモリカケサクラ問題の露骨な利益誘導など、そして高級官僚の忖度行政、どれもひどいもので日本の民主主義を破壊してきました。

 それらを覆い隠して来たのが「やってる感」の演出で、官製春闘働き方改革、女性活躍社会、地域創生もそうだろうが、中身は全くないか、看板倒れですが、それでも御用メディアなどの効果で国民の支持を得ています。

 そして野党共闘を進めるために、政策共闘の可能性をいろいろ考えています。

 民主党政権の失敗は「未熟」よりも「覚悟のなさ」であり、小泉内閣郵政選挙を事例に誠治をかえる「覚悟」が必要と指摘します。

 野党共闘は国会共闘、政策共闘、政権共闘とあり、新安保法制反対闘争で経験を積んできていますが、これから政権に近づくためにもっともっと政策のすり合わせが必要です。

 立憲民主党日米安保容認しながら核兵器廃絶条約に賛成できるのか、共産党専守防衛

を認めるのか、です。共産党は連立政権下では自衛隊を認めるが、党自体の考え方は「9条の完全実施」で、それで政権運営ができるかです。

 その他、消費税問題でも違いがあります。

 小見出しに「バラバラ」「多様性の統一」に変える、とありましたが、野党共闘は、昔の派閥政治の自民党よりもバラバラですから、それが魅力でもあります。この本は薄い冊子みたいなものですから、色々な分野の政策検討の本がつくられたらいいと思います。

『ナンバー/相場英雄』

「保秘」「十二桜」「あたり」「へそ」4編の短編集です。ナンバーとは警視庁捜査2課、知能犯担当の刑事たちのことを言うそうです。

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 これは所轄から警視庁捜査2課に配属された西澤警部補の成長を描きます。その後『トリップ』『リバース』とシリーズになっています。

 殺人や強盗などの捜査1課の強行犯担当と違って、2課は汚職、横領、背任、詐欺、選挙違反、不正融資などを担当します。事件が起きて犯人を捜すというよりも、密告などによって犯罪の存在を知り、犯人の当りをつけて、その証拠を固めるような仕事です。その証拠も

 そのために「保秘」が絶対的な鉄則です。何の案件か、どのあたりを動いているか、犯人やその周辺人物はもちろん、仲間内の同僚にすら秘密にするという言葉です。そして2課以外の人は彼らをシロサギと呼ぶとも書いてありました。その意味するところは、この本を読んむとよくわかります。 

林家たい平快笑まくら集/林家たい平

 副題に「テレビじゃできない噺でございますが」と付いています。それは寄席の雰囲気に応じてマクラを話すから、という意味でしょう。放送できないような危ない話をするわけではありません。多少、落語界の楽屋裏をしゃべっているだけです。

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立川談志のマクラとちがって、自分の考えを押し付けるのではなく、本編への導入を考えたオ-ソドックスなマクラで、たい平の人柄がよくでていました。

 横浜にぎわい座で独演会を続けているようですが、20082015年のそこでの噺です。

 大体が自分が体験したこと、失敗談だとか、噺家仲間のおかしな言動などを多少膨らませて面白おかしく話しています。でもこんなのもありました。

「個人の正義でも何でも、正義を振りかざせば、正義同士がぶつかって争いになる。戦争だって国と国の正義がぶつかって起きるでしょ。正義というものも、少し冷静に考えなければいけないな、そんな風に思います」

『「世界」12月号』

 特集1「コロナ災害下の貧と困―自助か連帯かー」雨宮処凛、山家悠紀夫、後藤道夫、田畑博邦等。特集2「学術会議任命拒否問題」でした。保阪正康上野千鶴子杉田敦前川喜平等で、それぞれりっぱな人が意見を表明しています。それ以外にも面白い論文がありました。

「権謀の人(上)/斎藤貴男

 一番面白かったのがこれです。JR東海名誉会長、葛西敬之を安倍、菅と続く最悪内閣の指南役であったと告発する記事です。

 集団自衛権の等の憲法解釈は内閣法制局に委ねられているから、局長を政権に従う人間に変えればいい、という報告書が財界の調査会報告書に書かれていて、その委員長が葛西氏であったということです。

議院内閣制のもとの首相は、事実上立法権もにぎっていると強調しています。最高裁などの人事権も内閣が握っている、と書いています。憲法の基本理念である3権分立を形骸化する考え方です。

安倍首相はこの考え方を鵜呑みにして、短絡的に自分が立法の長であるといい、検察も含めてすべてを支配できると考えていたのでしょう。

 葛西が頭角を現すのは国鉄の分割民営化です。「国鉄改革」と称して、反対する幹部を追い落とし、動労などを抱き込み、マスコミを操って世論操作をし、国労を標的に徹底的にたたきます。

 それに協力した労働組合をつぶそうと画策しています。

 JR東海という私企業が始めたリニア新幹線をいつの間にか国策事業に出来たのも、葛西と安倍政権の関係です。

「『パラサイト』に結晶したポン・ジュノの作品世界/玄武岩

 『パラサイトー半地下の家族』で、カンヌ映画祭グランプリなどを取って、韓国映画の巨匠となったポン・ジュノの評論です。「世界」誌から映画紹介、解説が無くなって長いですが、こういう企画を連発してほしいものです。

 ポン・ジュノ民主化革命を闘った世代の後、民主化された韓国で映画を撮り始めます。エンターテイメントと社会性を両立させる作品(『殺人の追憶』『母なる証明』など)を撮り続け『パラサイトー半地下の家族』がその結実です。 

 グローバル資本主義の寓話と評価しています。

片山善博の『日本を診る』学術会議会員候補六人の任命拒否事件を診る」

 片山さんは、世評の焦点を短い文章で的確に書いてくれますから、だいたい最初に読みます。今回は学術会議の問題です。

 まず「問題」と書かずに「事件」と書いています。「違法な任命」という明確な認識です。

そして菅総理は「説明責任能力の欠如ないし説明責任に対する認識が著しく薄い」と喝破しています。

 特集も面白いものでしたが、それ以外にもいろいろと勉強になりました。