「i-新聞記者ドキュメント-」の背景

 映画サークルの5月例会であった表記の映画ですが、KAVCホールの閉鎖が延長されて中止となりました。これから委員会で話をしますが、おそらく延期として今年のどこかで上映します。

 機関誌に解説、背景等を書いています。解説は映画サークルのHPに載せていますので、そちらをお読みください。私は背景を書きました。以下に載せます。多くの皆さんに見ていただきたい問題作です。

※ ※ ※ ※

1. 記者クラブ
 東京新聞の望月衣塑子さんが勇名をとどろかせたのは菅官房長官の記者会見です。いい加減な答弁を追及しました。この記者会見は首相官邸主催ではなく、官邸記者クラブという任意の団体の主催です。
 こういう記者クラブは国の省庁や地方自治体などの公的機関あるいは業界団体ごとに、大手メディアの記者を中心に作られています。英語では「kisyaclub」と訳され、報道機関を指す「pressclub」ではありません。
 日本新聞協会は、その目的を「国民の『知る権利』と密接にかかわる」と言います。しかし加盟社以外の記者会見参加を認めない場合や、公的機関が加盟社や所属記者以外に対して取材活動を差別する等、問題があります。
 最近は海外の報道機関やフリージャーナリストからの批判を受けて、記者会見を記者クラブ会員以外にも開放する試みもあります。しかし「それは見せかけだけで実際には挙手してもまったく当ててもらえず質問させてもらえないのが現状」との批判があります。
 二〇〇五年フリージャーナリストが記者会見に入ることを求めた裁判は却下されています。二〇一〇年新聞労連は記者会見の全面開放を求める声明を出しました。
 記者会見は、官公庁等の情報提供を安定して受けることから横並び意識を生み、報道機関の本来の役割である、出された情報の裏を取り、異なる意見を収集し、事実を分析、検証する能力の低下が懸念されます。
 情報を出す側は、記者会見を使って世論の動向を探る、あるいは操作しようという狙いも持っています。
 しかも公的機関は記者クラブに対し記者室を提供、光熱費なども負担しており「便宜供与に当たる」という問題もあります。

f:id:denden_560316:20200508224439j:plain
公益社団法人
 この記者クラブとは別に公益社団法人日本記者クラブ(一九六九年十一月設立)があります。日本新聞協会、日本放送協会日本民間放送連盟の会長3人が設立発起人となり創設されました。ここは日本で唯一の「ナショナル・プレスクラブ」です。
 主な事業は時々の話題の著名人等の記者会見、報道・評論に顕著な業績をあげた個人、法人を賞する日本記者クラブ賞の授与です。
 非営利の独立組織で、会員には全国の主要な新聞社、テレビ局、通信社が法人会員として加盟し、個人会員として各報道機関の幹部、現役記者や記者OBも加わっています。外国メディアも法人会員や個人会員として参加し、クラブの目的に賛同する大使館、国際機関や企業、団体も賛助会員とする他に、ジャーナリズムを学ぶ学生を学生会員として受け入れています。現在、約190社、2300人の会員がいます。
 会費により運営され、政府等の財政援助は一切受け取っていません。
2. 報道の自由  
 「国境なき記者団」が評価する各国の報道の自由度比較があります。二〇〇二年から始まって、日本は民主党政権下の二〇一〇年の十一位が最高位で、東日本大震災後は二二位、そして第二次安倍政権が発足した二〇一三年五三位になり一九年は六七位でした。先進国G七の最下位です。
 上位に来る国はノルウェー、オランダ等の北欧西欧諸国であり、コスタリカも一〇位にいます。韓国(四一位)米国(四八位)は中位で、日本と同レベルには香港(七三位)、最下位のグループは中国、北朝鮮サウジアラビアです。この順位は民主主義の度合いに比例するようです。
 安倍政権の下で特定秘密保護法共謀罪法が作られたことは影響しています。この映画のように日本政府がメディアやジャーナリストに対する敵意やいやがらせも評価対象です。
 また政府に批判的な記者や慰安婦問題などに取り組むジャーナリストに対して、インターネットの匿名掲示板で脅迫・いやがらせがあることも問題視しています。
そして「記者クラブ」制度は「フリージャーナリストや外国人記者を選り好みしており、自己検閲を増大させている」と批判しています。
 政府だけではなく国民、報道機関の在り方も見ています。
 池上彰さんは「政府が圧力をかけるのは、どこの国でもいつの時代でも当たり前」といいます。圧力に対し「米国のメディアは思想信条が違っても、公権力と闘うときには連帯する」が、日本では望月記者と官邸が対立している状況で、記者クラブが団結して闘っていません。
 彼らはジャーナリストというよりも新聞社やテレビ局の社員という感じです。
 第二次安倍政権の特徴の一つに、「モリカケ桜」問題のように高級官僚の忖度が民主主義の根幹を侵していることがあります。それと同様にメディアにおいても「権力者の意向を忖度。自主規制が広がっていく」状況です。
3. マス・メディアの危機
 日本の新聞の特徴の一つに宅配制度があります。そのために世界でも発行部数が多い国(成人人口の三割、二位のドイツが二割)です。それが近年「新聞消滅の危機」と言われています。
 二〇一九年三七八〇万部とピーク時(一九九七年五三八〇万部)の三/四となっています。特に若年層が読んでいません。
 メディアの側の大きな要因はICT(情報通信技術)の発展、普及がありますが、報道機関の信頼性の低下もあります。
 宅配制度では市場原理が強くなり、社説や記事の内容が読者の望む方向に向きます。産経や読売の読者は政権与党を支持する傾向があり、同じ事実を書いても朝日や毎日と「視点が違う」紙面になります。
 またテレビも市場原理のもとで「数字が来なければニュースにしない」という姿勢が支配的です。このような権力監視の弱まりを「マスゴミ」と批判します。
 新聞やテレビ等の「伝統的」なマス・メディアが弱体化することで、権力を監視するジャーナリストを育てられるのか、心配です。
 

 


最後にニュースを読むときの注意事項を列挙しておきます。
記者クラブ発のスクープを鵜呑みにしない
記者クラブに加盟していない海外メディアや雑誌の報道もチェックする
③事件報道が多いときは、裏に何かがあるかも
記者クラブのない役所・団体の情報もチェックする
参考資料:「池上彰森達也のこれだけは知っておきたいマスコミの大問題」池上彰森達也/インターネット情報(Q)