2020年4月に読んだ本

 私の本の読み方は1冊を集中して読むというのではなく、23冊並行しながら読むというやり方です。極端ないい方をすれば、2冊本を持って家を出て、1冊は行きの通勤電車もう1冊は帰りに読む、家では1冊は居間で、1冊は寝間でという具合です。あるいはもう1冊は1週間ほど間が空いている、また読みかけで行方不明なっているのが1冊ある、ということもあります。

大体、一度に図書館で10冊借りてくるのですが、パラパラと見ただけの本が多くあります。しかし4月に入って、借り換えができないから7冊ぐらいは読めそうですね。

ふつうは3400頁の大部になってくると半月から一月ぐらい読み続けます。でも面白くなれば、佐々木譲や相場英雄などは大体1週間で読んでいます。

 4月に読み終えた本の中で、印象に残ったものを紹介します。

「砂の金字塔16巻/佐藤まさあき劇画、佐藤まさあきらしいタッチで、芸能界を舞台に人間の欲望を描こうとしています。でもなにか薄っぺらい感じがする。

 一人は、かつて表舞台にいて一度失敗した男、もう一人は貧乏でいじめられてきた女。二人が世の中、彼らを踏みつけにしてきた人間に対して「見返してやる」という「復讐心」で歌謡界、芸能界に挑戦する、そこまではいいが、特別な才能のない人間でも「死に物狂い」で整形をして姿かたちを整え、裏金を使い、ライバルにわなを仕掛けるなどあの手この手でスター、アイドルになれるか、と問うています。

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  いったんは勝利を掴むことで漫画は終えています。

 それはそれでいいとしても、この主人公の二人が、その苦しい中で何を掴むかを描いてほしかったです。人を踏みつけにすることが、自分の中に何を残していくのか、あるいは回りまわって、どんな人間関係をつくっていくのか。まあそこまで書くとあまりに長くなるのかもしれません。

「殺意の隘路/日本推理作家協会協会が組んだ若手から中堅、ベテランという幅広い作家層のアンソロジーで、初めての人の中にもいいのもありました。

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 「もう1色選べる丼」「もういいかい」「線路の国のアリス」「ルックライフ」「九尾のキツネ」「黒い瞳のうち」「柊と太陽」「幻の追伸」「人事」「夏の終わりの時間割」「理由ありの旧校舎」「ルーキー登場」「定石外の誘拐」「旧友」「副島さんは言っている~十月~」という15編。

細かい説明は忘れているしできません。この本を選んだのは若竹七海「副島さん・・・」でしたが、さすがにそれは面白かった。これだけ紹介します。

病院で立てこもり事件があって、そこからアルバイトで古本屋の店番をしている探偵に電話がかかってくる。立て籠もり犯は、濡れ衣を着せられそうだから、真犯人を探してくれという要求だった。

探偵は電話とパソコンを駆使して、被害者の正体を明らかにして真相までたどり着くという話。見事に1日で終わってしまう、会話のテンポがよくて良かった。

「漂流街/馳星周初めて馳星周を読んだが、ちょっと合わない。西村寿行勝目梓のバイオレンス小説は、まだ抵抗なく読めたが、これは痛いと感じるような人間関係であり、残酷な人間ばかりだった。もしかしたら私の年齢による変化かもしれない。

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 日本にやって(帰って)きた日系ブラジル人の若者マーリオは、闇社会にどっぷりつかって使い走りをしている。彼の「金を掴んで自由になりたいという」野心を描いた。

 彼の周りにいるのはやくざと中国人マフィア、南米からの移民(ほとんどが不法)たち、そして娼婦。

 殺人を犯して逃亡を考えるが、その前に金が欲しいと思っていたところへ、関西やくざと中国マフィアの麻薬取引を知る。仲間3人とそこへ拳銃で殴り込みをかけて、金と麻薬の強奪に成功したのだが、彼の大事にしたい人間を人質に取られてします。

 最後は自暴自棄になって、手当たり次第に殺し始めて、自分も死んでしまう、という乱暴な終わり方でした。

「作家の使命・私の戦後 山崎豊子自作を語る1/山崎豊子山崎豊子さんの作品についてのエッセイです。面白くてすいすいと読めました。

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私は彼女の小説は読んだことはないのです。その理由はあまりにも長編すぎるから途中で飽きるのではないかを思って手が出ません。一度「沈まぬ太陽」を読み始めましたが挫折しました。

しかしこのエッセイを読んで、読みやすい文章を書く人だと思いますから、現在、最も関心を持っているジャーナリズムにかかわる「運命の人」を、今年中に読もうと思いました。

この「自作を語る1」の1部は「不毛地帯」「二つの祖国」「大地の子」というアジア太平洋戦争とその後を描いた小説についてです。「不毛地帯」はシベリア抑留と帰国後に大手商社で活躍する主人公を描きます。この小説の連載中にそこに書かれた汚職事件とそっくりのロッキード事件が発覚しています。「二つの祖国」はアジア太平洋戦争時の日系アメリカ人を主人公として、戦時中の強制収容事件、戦争中の語学兵の活躍、そして極東軍事裁判を描きます。「大地の子」は日本が敗戦したのち、中国大陸に置き去りにされ、中国で育った満蒙開拓団の子ども、戦争孤児を主人公に戦後の中国、文化大革命、そして日中共同プロジェクト「製鉄所建設」等を描く。この小説の取材に、その当時の中国共産党総書記、胡耀邦が全面的に協力してくれたと書いています。

 この3つの小説、戦争3部作というそうですが、そのあらすじを読むだけでもすごい小説だと思います。しかも徹底して関係者に取材して事実の裏付けを取りながら小説の形に組みなおす作業をしています。

 いつか読んでみたい、戦争に対する見方が変わるかもしれない、と思いました。

 その次の2部「沈まぬ太陽」「運命の子」もまた鋭いテーマです。「沈まぬ太陽」は日本航空が舞台です。労働者の立場に立って労働組合の運動をした実在の男、恩地元=小倉勘太郎を主人公のモデルにしています。彼は、アフリカ等のへき地を転勤させた会社のいじめに屈せず、会社を辞めることもしませんでした。

主人公は御巣鷹山の航空機墜落事故や会社の再建などが加わって、日本航空という会社の腐敗を追及します。

「運命の子」は沖縄返還時の日米の密約を暴いた毎日新聞記者、西山太吉の事件をモデルにしています。国家的な疑惑を巧みに男女関係や個人の問題にすり替えていく司法やマスメディアがどのように描かれるか、米軍基地問題が「核抜き本土並み」であると公言し、非核3原則を国是と国民と世界をだまして、ノーベル平和賞をもらった佐藤栄作がどう描かれているのか読みたいと思います。

「第Ⅱ捜査官 虹の不在/安東能明」は「死の初速」「小菊の客」「掟破り」「虹の不在」の短編集です。いずれも元高校物理の教師という経歴を持つ神村五郎(署長も一目置く捜査能力をもっているが、変わり者)とその教え子であった西尾美香という所轄の刑事コンビが活躍します。

 いずれも軽い話です。「死の初速」は団地の6階から落ちて死んだ男、そばには小学生の継子がいた。「小菊の客」は小さな居酒屋小菊のママが2階の居室で絞殺されていた。常連客が疑われるが、その動機はなにか。「掟破り」は管理人の目の前で飛び降り自殺した主婦なのに「自殺ではない」という電話があった。学校のママ友に聞き込みを始める。「虹の不在」は部屋に血痕を残したまま行方不明になった男、嘘の住民票だった。周辺人物への聞き込みから捜査は始まった。

 いずれも意外な犯人にたどり着くのですが、いずれもそんな動機で殺すか(あるいは死体遺棄)というもので、ちょっとゲーム感覚のなぞ解きになっています。

「私立探偵 麻生龍太郎/柴田よしき」は短編集というより中編集です。「OUR HOUSE」「TEACH YOUR CHIDREN」「DEJA VU」「CARRY ON」「Epilogueというように英語のタイトルがついています。それぞれ独立した物語ですが、警察をやめて私立探偵になった麻生龍太郎が主人公で、彼が仕事を受けて事件、事件らしきものを追いかけたり見つけ出したりするという話です。すべて「さすが柴田よしき」というべき小粋な作品です。

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 それぞれ簡単に紹介していきます。

OUR HOUSEは小学生の時期に近所の男子と一緒に埋めたタイムカプセルを探してほしい、という金持ちの主婦の依頼。探偵は、変転する家の住人を探していくが、結局は捨てられていたことがわかる。そして彼女の依頼の目的は何だったのか、と考えてお仕舞。

TEACH YOUR CHIDRENは、やめていった女教師からセクハラで訴えられた校長、彼は全く身に覚えがない、なぜそうなったのか、を調べた。話は単純だが、それを解明していく手順と話のふくらまし方が上手です。

DEJA VUは、デ・ジャブ=既視感。お互いにどこか出会っていると確認できた、ちょっと知り合った青年に殺人容疑がかかるが、彼の行方は分からない。人探しはこういう風にするのか、という見本のような話です。

CARRY ONはかなり込み入った話の展開をします。叔母の「盗まれた」宝石の指輪を探してくれてという依頼。それを彼女に送ったかつての恋人を訪ね、さらに盗まれた現場である信州の別荘へと行く。そこには殺人を目撃したという女性が隠れていて、彼女はやくざに見張られていた。殺された男は誰、誰が殺した、それは宝石の盗難とどうかかわってくる、と謎は広がっていく。結局、依頼人が別の目的をもって調査を依頼していたのだが、あまりの急転直下の解決に、一度読んだだけではちょっとついていけなくて、読み返しました。

 宝石にアレキサンドライトという昼の光と夜の光で色が変わるものがあるのを知りました。

Epilogueは探偵、麻生龍太郎と彼の恋人、山内練の関係を紹介するだけ。そう彼らは男同士ですし、練は暴力団に近い男です。

今月もミステリーが多かったです。