2021年10月に読んだ本その2

『顔のない裸体たち/平野啓一郎』『世界10月号』『聖母の深き淵/柴田よしき』『タフガイ/藤田宜永10月に読み終えた本の残り4冊です。

 『世界10月号』が行方不明になって、年内に書けませんでした。それ以外を書きました。

『顔のない裸体たち/平野啓一郎

 文学作品ですがテーマがテーマなので、エロティックなシーンもありますが、官能小説のようではなく「むき出しの欲望」で、醜悪さがあります。

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 匿名で出せる出会い系サイト、掲示板等で別人格がどのように作られるか、ここではセックスをテーマにしています。

 真面目で平凡な教師の女と、これまた凡庸な公務員の男が出会って、二人の中にあった露出狂、サディズムマゾヒズムという秘められた性癖が、匿名という覆面をつけることで一気に表出すると描きます。

 彼らはその欲望を制御できずに「事件」にまで発展してしました。

 そういうことはそれぞれの人間の本性かもしれませんが、抑えられないのはなぜか、そこまではわかりませんでした。

『世界10月号』

 後日、本が見つかった時に書きます。

『聖母の深き淵/柴田よしき』

 緑子シリーズ2作目です。警視庁の捜査1課から新宿署、そして今度は下町の所轄へ異動してきた緑子の活躍です。

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 一人で、子どもを産んで穏やかに刑事生活を送っていた緑子ですが、事件ではない、ちょっとややこしい相談が舞い込んできます。

 トランスジェンダー女性が、親友が娼婦に堕ちているから、捜してほしい、そして救ってほしいという相談が舞い込みます。娼婦から立ち直るのは、警察の職務外なので、元刑事で信頼のおける探偵を、彼女に紹介します。それが麻生龍太郎でした。

 事件はやくざと麻薬が出てきて、主婦売春と暴行殺人、それに刑事の殺人も加わります。そして龍太郎と山内練がからむという盛たくさんの小説です。

 それでも緑子の子どもを中心に母性愛、父性愛をも描いていました。

『タフガイ/藤田宜永

 わざわざ時代設定を1970年代に持ってきて、新宿界隈の雑然としてイメージを出そうというのだろうか、あるいはその時期に壮年である男たち(著者の一世代上)の生きざまを描きたかったのだろうか、と思いました。

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 どんでん返しがあるわけでも、痛快でもない、ちょっとドロドロした感じのかつて社会の底辺を生きた人間の哀しさを感じました。

 戦後すぐの時期に同じ少年院で過ごした男二人。一人は元刑事の養子になって今は探偵、彼が主人公。もう一人は、妾腹の子であったが実父に引き取られて大金持ちの社長になっていました。

 ひょんなことから再会するが、金持ちの男の異母妹が家出して殺される事件が起き、探偵がそれの調査を引き受けます。

 それはその一家の確執、家族の過去を洗う仕事になりました。娼婦であったことや強盗の疑惑が持ち上がり、殺人までも、という風に話が進みました。

 「タフガイ」は日活がつけた石原裕次郎のキャッチコピーだが、よく考えると「良家のぼんぼん」(実際は、会社役員だが中流サラリーマン家庭)のイメージで、頑丈な男ではない。

 余計な話だが、日活ダイヤモンド・ラインとしてタフガイ(石原裕次郎)マイトガイ(小林旭)、やんちゃガイ(和田浩治)、ダンプガイ(二谷英明)、エースのジョー(宍戸錠)、クールガイ(赤木圭一郎)が、若手男優のまとめて売り出されたのは60年代です。。

閑話休題

 戦後の混乱期、若い苦しい時代に、生きるためになりふり構わぬ所業にかかわった男や女が、家族を持ち社会的地位も得て、安定した生活を送っているのに、過去をほじくり返される苦痛と虞を描いています。

 同じような境遇から人生をスタートさせた男も女も、守るべき物を持つか持たないかによって、生き方を変えさせたと思いました。