2021年11月に読んだ本その1

 『松本清張と昭和史/保阪康正』『ゆがんだ波紋/塩田武士』『解体屋ゲン7380/星野茂樹、石井さだよし』『希望荘/宮部みゆき』『桂歌丸正調まくら語り~芸に厳しくお客にやさしく~/桂歌丸』『異形のものたち 絵画のなかの怪を読む/中野京子』『世界11月号』7冊でした。とりあえず4冊を書きます。

松本清張と昭和史/保阪康正』

 松本清張の『昭和史発掘』と『日本の黒い霧』の紹介です。両方とも読んでいないのですが『昭和史発掘』を読みたいと思いました。

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 保阪さんはノンフィクション作家として清張さんに認められたと自負し、権力に媚びず、事実の積み上げで真実に迫る、松本清張の遺志を継ぐ人です。

 清張は、戦前の日本の針路を決めたのは2.26事件であると認識し、それ以後「ゆがんだ高度国防国家」となり、戦争への道を付けたとして『昭和史発掘』を書いています。新装文庫版9巻中59巻までが直接2.26事件を取り上げ、それまでの巻でも、この事件につながる視点で書いているようです。

 戦後は米軍による謀略事件を取り上げた『日本の黒い霧』です。

 これは米軍の占領下で起きた怪事件「帝銀事件」「下山事件」等の真相、背景を推理したものです。すべてを米軍の秘密機関の関与を強調したため、謀略史観と批判されています。大岡昇平などから、最初から反米に偏りすぎという批判を受けますが「そういうものを集めた」と開き直ってもいます。

 賛否、批判を受けているのを承知しながら、保阪さんは、清張史観は客観性を重視し、自分の仮説に反する資料も公開している、と評価しています。

 戦前戦後の日本を考えるために必要な本で、また課題が増えたと思いました。

『ゆがんだ波紋/塩田武士』

 昨年読んだ本ですが、再度読みました。直観的に良い本だと思いましたが、その良さであるとか問題点を、きちんと具体的に把握できていなくてもやもやしたものが残っていました。読み直して、そのあたりが腹に落ちました。

 新聞の誤報をテーマとした5つの連作短編集で、一つ一つを完結させています。誤報が記者などの誤解、間違いではなく、意図して作られる場合もあり、その狙いや動機、影響などを書いています。

 SNS等が流言飛語を広めますが、伝統的メディア(新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディア)がそれに振り回される状況もあります。この本では、それを狙ってフェイクニュースを作り出す「勢力」があることを暗示して終わりました。

 内容については、このブログの20201216日にもう少し詳しい紹介を書いています。

『解体屋ゲン7380/星野茂樹、石井さだよし

 今年の初めから、アマゾンの「読み放題」で読める分を追いかけていたのですが、途中で止まっていました。7380(721800)まで880話を読んで、印象に残った感想を書きます。

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 建物解体を主業務にするゲンの工務店を中心とした話ですから、土木建築分野を中心に取り扱っています。しかし労働、中小企業、まちづくり、商店街、政治、環境、教育、文化、芸術、国際関係そして国内だけではなく、海外までもとかなり幅広い話題です。

 そして老いた職人の思いもあれば、ロボットなど最先端の技術、SNSまでも使って仕事の可能性を探っています。

 でも視点は中小企業、下請け、下町の商店、末端の労働者で、効率や利益第1新自由主義ではなく、弱者の協力共存ですから、読んでいて気持ちがいいです。しかし漫画ですからミソは主人公ゲンがかなりのスーパーマンだということです。外国人労働者から国際的な芸術家とも付き合っていきます。

 「社会に出る前に」ではブラック企業の見分け方の話。「春の嵐」はリニア新幹線をめぐる話。現実は止めようがないですが、辛らつに批判しています。 

『希望荘/宮部みゆき

 宮部みゆきはかなり久しぶりです。「火車」「レベル7」「理由」「弧宿の人」などを読んで、読みやすい文章を書く人だと思いましたが、しばらく読んでいませんでした。

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 探偵ものを探していて、宮部みゆきの「杉村三郎」が引っかかりました。でも図書館では予約が多く入る人気で、たまたま返却のコーナーにあったものを借りました。

 4作目から読み始めて、杉村の過去が出てきますが、それほど煩わしいものでもなく、一つ一つが楽しめました。

 探偵・杉村三郎シリーズの第4作で短編4編です。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」で、主人公の杉村三郎はいつも出てきますが、それぞれが絡むこともなく、独立しているので連作ではありません。

 児童書の編集者であった杉村は、財閥の娘と結婚するも離婚して、畑違いではあるが、これまでの経験と能力を生かして探偵業を始めます。

 最初の依頼「聖域」は事務所のあるアパートに住んでいて「自殺する」という言葉を残して去っていった老婆の行方を捜します。「希望荘」は「若いころ人を殺した」という言葉を残して死んだ父、その真偽を確かめてほしい、という依頼でした。「砂男」は探偵業を開く前の話。離婚して故郷に帰った杉村の周辺起きた、知り合いの男の失踪事件を思い起こします。どうやら戸籍の入れ替わりがあったような感じで、未解決のままです。それがきっかけで探偵業に開きます。

 「二重身(ドッペルゲンガー)」は東日本大震災の直前に東北に古物を捜しに出かけたまま行方不明になった古物商の男を探してくれという依頼です。

 殺人もありますが、どれも凶悪犯は登場せずに、身近な人の犯行です。