2022年1月に読んだ本

売国真山仁』『松本清張を推理する/阿刀田高』『拾った接種券/桜沢ゆう』『孤高の相貌/丸山正樹』『古典落語・上方艶ばなし/藤本義一』『暗約領域・新宿鮫Ⅺ/大沢在昌』『世界1月号』7冊でした。とりあえず4冊の紹介です。

売国真山仁

 明治以後、日本はアジア諸国への軍事的侵略を隠すことなく膨張してきました。日清戦争1894年)日露戦争1904年)第1次世界大戦(191418年)で「勝利」して台湾、朝鮮半島南洋諸島を植民地支配し、そして満州事変(1931年)翌年の満州国建国は帝国主義の侵略行為です。

  その歴史的事実を言うと「売国奴」「非国民」と批判する人達がいます。しかし「従軍慰安婦」など他国民を蹂躙してきた歴史は忘れてはならない、と思っています。

 この本は、そういう彼らが使う「売国」ではない、戦後の日本にある、日本国民が生み出してきた利益、あるいは将来の日本にとって大事な知的財産等を「宗主国」米国に売り渡す「仕組み」があると描きました。

 日米安保条約やその地位協定などの批判する時に、私は売国的だといいます。それは国民生活よりも米軍の都合、利益を優先する条例、制度であるからです。国民生活を守る法制度を米軍に適用除外としています。

 戦後の日本は、このような軍事的にはもちろん政治経済的にも文化的にも米国に従属する面が多くありました。その一つが宇宙開発事業であるという小説です。

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 主人公は、一人は宇宙開発に係わる若手の女性研究者、もう一人は能力を買われて東京地検特捜部に引き上げられた検事です。

 二人の話が並行して進行し、最後に政界の黒幕の二重スパイ的な行為で結びつきます。

 この本は現実の日本の戦後政治を意識して、保守政治家と官僚、宇宙船研究、検察などが配置されて、それなりに面白みはありますが、矛盾の暴露が足りない感じでした。

 

松本清張を推理する/阿刀田高

 松本清張の作品も好きですが、彼の本、思想について評論、批評する本も好きです。彼の本をすべて読んでいるほどではないのですが、偉大な作家だと思っています。

 ですから私が評価している批評家、研究者等からどう評価されているのか気になります。11月は保阪康正『松本清張と昭和史』を読みました。

 阿刀田さんも好きな作家ですし、彼の本も結構読んでいます。これは阿刀田さんが朝日カルチャセンターの講座「松本清張を読む」の教本です。

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「ある『小倉日記』伝」「張り込み」「点と線」「無宿人別帳」「ゼロの焦点」「黒い画集」「日本の黒い霧」「砂の器」「絢爛たる流離」「陸行水行」「隠花の飾り」を題材に語っています。

 気になった論点は以下の通りです。

・探偵小説から推理小説へと変化を作り出した作家という評価。

・トリック重視から動機や犯罪の背景を重視した。動機を突き詰めれば人間ドラマになり社会の矛盾が描かれる。

・ミステリーにこだわったわけではない。「張り込み」は推理小説とは言えない。「点と線」ゼロの焦点」などは勉強して書いていった。

 なるほどと納得しました。

 

『拾った接種券/桜沢ゆう』

 拾ったコロナ接種券で他人に成りすましてワクチンを打ったところ、その副作用で失神してしまった男。母親が呼ばれて「偽物とばれる」と思ったが、平然と連れて帰られます。

 接種券の持ち主、水沢和音はFTMでトランス男性でした。しかも資産家の庶子の子で莫大な遺産を受け取る権利を持っていたのです。

 しかし祖父は遺言書に彼が「女でいること」を条件としていました。それにもかかわらず男性化手術をうけ、そして失踪していたのです。

 彼(彼女)の母親は、財産目当てで和音の代わりを探していました。その罠にはまった男は「女に戻る」性転換手術への道を歩まされます。

 莫大な財産が手に入ると思えば女になる選択もあるのかもしれない、女になりたいと思い込もう、いや男でいたい、そういう揺れがコミカルに描かれます。母親の洗脳で、いつしか女役に踏み込んでいきます。

 官能小説ではないので濡れ場シーンも少なく、それでいて欲得の心理描写も物足りない、中途半端な感じです。ライトノベルと言われるものかね。

 

『孤高の相貌/丸山正樹』

 丸山正樹さんの本を初めて読みました。組織に従わない「変わり者」の初老の刑事、何森稔が主人公の中編『二階の死体』『灰色でなく』『ロスト』が収録されています。ミステリーとしても力作ですが、障碍者や社会的弱者の視線が良いので、惹かれました。

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『二階の死体』

 車いすの娘と暮らす母親が二階で撲殺されます。誰が何の目的で殺したのか、それがわかりません。何森は物証を積みあげてとんでもない仮説をひねり出します。

『灰色でなく』

 供述弱者という性質があります。他人の言うがままに従い、それが自分の考えと思い込んでしまうような人です。警察の供述でも刑事の誘導に従い、それが本当にやったことと思い込んでしまう性質です。

 警察は事件のストーリーを描き、犯人を特定しますが、その時に都合の悪い証拠は隠します。

 何森の追及で、供述と物証の矛盾が明らかになります。

『ロスト』

 現金輸送車を襲って2億円を奪ったけれど捕まった男友田六郎、頭をうって「全生活史健忘」という記憶喪失となりますが刑務所に入ります。7年半の年期が明けて出所してきますが、記憶喪失はそのままで、現金のありかがわかりません。

 何森が担当となって、現金はどこへ行ったのか、記憶喪失は演技ではないか捜査が始まります。

 共犯と思われる逃げた男女二人が、友田に接触をします。それを手掛かりに事件の謎が動き出します。

 面白いけれども、情けある結末を持ってきました。

 これから丸山正樹さんを読もうと決めました。でも図書館にはあまり置いていません。