『イニシェリン島の精霊』『ワンセカンド永遠の24フレーム』『午前4時にパリの夜は明ける』残った3本を書きます。ちょっと奇妙な映画と言っていいと思います。話の筋としては、わかりにくい映画ではないですが、すとんと胸に落ちるということはない映画です。
『イニシェリン島の精霊』
何とも奇妙な映画でした。
イニシェリン島は架空の島ですが、撮影されたのはアイルランド島のすぐ西にあるアラン諸島です。店舗などが集積するエリアもありますが、映画の中心となる人々が住んでいるのは荒涼とした牧草地の、風が寒々とした雰囲気の島です。
でもこれがアイルランドらしいかと言えば、違うのではないかと思うのです。もっと熱い人柄のように思います。
この映画も、本来なら温かい人間関係がある島中のつきあいなのに、毎日のように飲んでいた二人が、ある日突然に友情を破棄するといったことから、凄まじい暴力が始まるという、なんとも言えない映画でした。
しかも「わしに近づくと、わしは自分の指を切り落とす」次々と自分の指を切り落とし、それを元友人に投げつけました。
なぜそうするのか、全く分からない映画でした。
でも荒涼とした島の風景がとても美しく感じるという、矛盾した映画です。
『ワンセカンド永遠の24フレーム』
市民映画劇場の映画です。
中国映画界の巨匠といえるチャン・イーモウの映画です。彼は北京オリンピック開会式の総監督を務めていますが、検閲は受けています。
文化大革命の時代、強制収容所に入れられた男が、自分の娘が出ているニュース映画を見ようと脱獄して、上映される田舎の村にやってきます。そこでフィルム泥棒が肝心のフィルムを砂漠にまき散らすという事態になります。
しかし映画をどうしても見たいという村を挙げての協力で、フィルムを修復して映写会が出来たという話でした。
娘が出ていたのはわずか一瞬でしたが、男は何度も繰り返し一晩中見続けました。そして再び捕まって収容所送りとなりました。
これは映画に対するオマージュだといいます。でも私は、そこはわかりませんでした。わかったのは文化大革命の時代は薄汚い時代だったのが、それが終わると、みんなきれいな服と顔をしているということです。
現代中国のプロパガンダもありますが、みんなが映画を見たがった、娯楽が乏しいということもあるでしょうが、その当時の中国人民の感情がよく描かれています。それがこの映画の肝です。
『午前4時にパリの夜は明ける』
1980年代のパリの映画です。冒頭にミッテラン大統領の誕生があります。保守政治、カトリックの規範からの転換、そういう時代ということです。
政治が変わったからと言って、すべてがよくなるとも限りません。政治的社会的なことには映画は触れません。
専業主婦が離婚して、子どもを抱えて、ラジオのDJのアシスタントの職を得ます。映画はそこから転がっていきました。
タイトルはラジオ番組が終わった後、家に帰る彼女の姿です。
彼女の息子、彼女が連れ帰った少女、彼女と付き合うラジオ局の男、DJなどさまざま人々とのふれあい、が描かれるのですが、ごく普通の女性の日常です。
そして印象として「あっさり」として時間が流れるような映画でした。よくわからないのですが、ああそうかという受け止める映画でもありました。