2024年7月に見た映画

90歳、何がめでたい』『数に溺れて』『ちゃわんやの話』『ヒロシマナガサキ』『悪は存在しない』『ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ』『モリコーネ 映画が恋した音楽家』『アイアム・ア・コメディアン』『荒野の用心棒』『ヴェスパー』『墓泥棒と失われた女神』の11本見ました。よく見たなという実感があります。

 久々にノルマとしている7本/月を越えました。それは定例に予定していた会議を取りやめたためです。けっして暇だったわけではありません。本もそこそこ読み、他の用事はいつものようにこなしています。

 この会議に意外と時間を取られていたのがよく分かりました。

 数を見たからと言って、良い映画が多くあったわけではない、それは仕方ないことでした。簡単に書いていきますが、2回に分けます。 

90歳、何がめでたい』

 佐藤愛子のエッセイを基に作られた映画です。主演が草笛光子90才、元気な老女を見事に演じています。それだけで見た値打ちがありました。

 佐藤愛子が引退宣言した後で、パワハラで左遷された高齢の編集者から「みんなが待っている、もう一度書け」と持ち上げられて、日頃思っていることを雑誌に書き始めると、自分自身に力がみなぎり、そして読者の支持も得て単行本に、それがまたヒットする成功譚でした。

 老人に対する深い考察はありません。

『数に溺れて』

 ちょっとわからない映画でした。ストーリーの紹介もできません。

 祖母、母、孫の世代の女が、それぞれの夫を殺すという筋ですが、なぜそうなるのか、彼女たち自身の気持ちも3人の女の関係もよくわかりません。

『ちゃわんやの話』

 私は物足りないと思いました。

 16世紀末、豊臣秀吉が明を征服しようと朝鮮を侵略した戦争で、それに従軍した島津など、西日本の大名が朝鮮人の陶工を連れて帰ります。それらの地で朝鮮の優れた陶磁器をつくり始めました。

 その420年を振り返るドキュメンタリーです。中心は鹿児島の沈壽官家です。

 その素晴らしい技術は、納得いくものです。連れてこられた陶工や家族がひどい扱いを受けた、彼らの苦労、その歴史も感じることが出来ました。

 しかし私が分からないのは、その大名達、その地域の有力者たちが彼らを大事にしなかったことです。間違いなくその藩の利益を生み出して、現在まで続く伝統的な産業にまでなっています。

 伊万里にいった時に、立派な陶磁器の美術館がありましたが、伊万里に陶磁器の技法を伝えた朝鮮人の名前は不明と書いてありました。それは情けないことだと思ったのです。そこに切り込まないドキュメンタリーに力不足を感じました。

ヒロシマナガサキ

 2007年製作のドキュメンタリーです。日系3世のスティーブン・オカザキが監督しています。

 広島、長崎を撮った原爆映画は結構見てきましたが、これには新しい映像がたくさんありました。

 被爆者の証言があり、原爆投下にかかわった米兵の証言も撮っています。それに米軍が被爆直後の広島、長崎を撮ったもので、最近になって公開した映像でもって組み立てています。

 新しさもありました。

 これは神戸市外国語大学公開講座で見たもので、そのあとに20代の若者(祖父の被爆体験を絵にした高校教師、関学に留学している監督の娘)によるパネルディスカッションがありました。テーマは「ヒロシマを伝えるということ―Z世代が考える平和」でした。

 彼ら自身は悲惨な原爆体験を伝え聞いていますが、それを同世代に伝えるのは難しいという意見でした。

 私は多くの平和記念館が空襲体験ばかりで、戦争全体や「加害」を展示していないが、どう思うかと聞きました。それは彼らも気づいていたようで「それはおかしい」と言いますし、あとで同意見だといいに来た人もいました。

『悪は存在しない』

 今や世界的に高い評価のある濱口竜介の脚本、監督の映画です。この映画もヴェネツィア映画祭の銀獅子賞という高い評価です。しかし私はよくわからない、という感想です。


 長野県の架空の町、水挽町に大手芸能会社がグランピング(魅力的、豪華なキャンプ施設)をつくる計画を進めていて、そこの住民に説明会をするというのが中心的な話です。

 住民から排水の問題や管理についても厳しく質問されて、専門家でもない芸能会社の

担当者二人は答えきれないまま説明会は終わります。彼らもそんなにやる気はない、という楽屋裏も見せます。

 しかし仕事ですから、土地も買っているし、計画を進めるために街の中心人物、便利屋の男に接触を図ります。

 そんな時に、彼の娘が行方不明になるという事件が起きました。

 男の友人などが総出で捜して無事に娘は見つかって、さあそこからどうなる、という段階ですが、映画はそれで終わりました。

 美しい自然と金儲けで開発しようとする側の対立に見えそうですが、そうでもない感じです。よくわかりません。こういうのが受けるのはなぜでしょうか。 

『ホールドオーバーズ置いてけぼりのホリディ』

 米国の昔懐かしい70年代の全寮制のハイスクールの話です。

 クリスマス休暇ですべての生徒、教職員が学校から出ていきますが、最終的に3人が残されます。母親が再婚して新婚旅行に行き、帰る家がない生徒、居残りの生徒の面倒を見るちょっと頑固な先生、子どもをベトナム戦争で失った賄いの黒人女性です。

 クリスマスイブ、学校職員の友人が催すパーティに招かれて3人は楽しみました。そしてクリスマス当日は「校外授業」と称してボストンの街へ出かけます。

 3人の距離がだんだん近くなる様子が描かれ、彼らが抱える秘密も見えてきます。そんなに大きな秘密でもないのですが、彼らの人生、生き方に関わることでした。彼らは休暇明けの新年には、少し違う関係を持っていました。

 ささやかですが人間は良い方に変わることが出来る、そんな映画でした。

 先生役が「斜視」という設定は、秀逸でした。

 『モリコーネ 映画が恋した音楽家

 市民映画劇場7月例会です。たくさんの人に見ていただきました。エンニオ・モリコーネの映画人生を描くドキュメンタリーですが、彼は素晴らしい映画音楽をつくっていますから、映画における音楽の役割が分かる映画です。

 監督のジュゼッペ・トルナトーレがどれほどモリコーネが尊敬しているかがわかります。

 私は一度見ていますが、それでもワクワクしながら見ていました。特にマカロニウエスタンの大ヒットで世界の注目を集めた『荒野の用心棒』は非常に印象的な音楽です。しかしこの映画、この後に見ますが、音楽家仲間から「下品」と言われても仕方がないかなと思いました。

 師匠ペトラッシからはあまり評価されていなかったようです。