2023年11月に読んだ本その2

『どうせ曲がった人生さ/立川談四楼』『熔果/黒川博行』の2冊と『世界11月号』『前衛11月号』を書きます。

『どうせ曲がった人生さ/立川談四楼

 「落語もできる小説家」を売りにする立川談四楼のエッセイ集です。1990年から新聞や雑誌に連載したコラム等をまとめたもので、1994年の発行です。

 彼はこれ以後に、少しずつ落語家としても売れたように思います。新聞「赤旗」にも共産党支持の立場でコメントを載せていますし、毎日新聞の人生相談の1人です。

 このエッセイは政治経済などをテーマとしたものですはなく、もっと身近な出来事や付き合いのある人々、落語や芸能などについて書かれたものです。

「死について」では小説の師匠と崇める色川武大早野凡平、早世した弟、落語家等の付き合った人々の話です。「7つの怒り」では世の中にはよくあることで怒り、彼は喧嘩をするようです。談志の教えなども書いてあります。

 どれも上手に書いてあると思いますが、毒がないのです。

 彼の落語はテレビに見たことがありますが、きわめてオーソドックスな感じです。この本でもそんな感じで、あまり毒舌的なことは言っていませんでした。

 多分、現在ではもっと違う展開になると思いますが、これはおとなしめの本でした。

『熔果/黒川博行

 伊達誠一、堀内信也の元大阪府警マル暴の、ヤメ刑の不動産「調査員」が大暴れのシリーズです。

 金塊密輸、そして5億円の金塊強奪事件を知った二人は、金のにおいを嗅ぎ付けます。名古屋から九州まで走り回って、金塊を持って逃げている「犯人」を追跡しました。暴力団も絡んで彼らも襲われます。

 ハードボイルドとドタバタですが非常に読みやすいテンポで話が進んでいきます。470頁を超える大部で、次から次へと登場人物が増えていきますが、巻頭に一覧表もありわかりやすいです。すいすい読めました。

『世界11月号』

特集①『大阪とデモクラシー―維新・万博・都市の地層』7本、特集②『デジタルの壁』4本でした。その内の一つを書きます。

『維新の会の「中抜き」政治はどこへ向かうのか/丸山真央』

 「中抜き」とは社会学でいう「中」で、個人と社会、国家の間にある多様な「中間集団」です。政治的には政党、業界団体、労働団体、職能団体、宗教団体、地域団体等で、維新政治はそこを抜いて「政治家と有権者が直接につながった」形で支持を伸ばしてきました。

 そして「中間組織」は「既得権益」と批判されました。大阪で維新が攻撃したのは市職員の労働組合創価学会、町内会・自治会「大阪市地域振興会」でした。

 最近ではSNSの効果ではありますが、維新は「劇場型」と言われるように、彼らに対する攻撃を上手に利用しました。

 維新政治について、安定した中間組織に支えられていない「弱い」支持が多いので、今後どうなるのかという指摘をしています。

 そして中間組織が衰退する社会構造ですが、それは社会のデモクラシーの衰退につながっているといいます。

『世界の潮』でストライキの社会的意義―そごう・西武アテネ・フランセを例に/伊藤大一』がありました。

 労働条件や雇用を守るために、そこの労働者はストで闘いました。決して勝利したとは言えませんが、彼らの闘いの社会的意義を書いています。

 「セブン&アイ」はそごう・西武という大企業でしたからメディアの注目はありました。語学学校アテネ・フランセの労働者いじめも酷いものですが、マスメディアはあまりとりあげていません。

『前衛11月号』

 特集『労働者の権利・ストライキのある社会』2本でした。他にシリーズ『社会変革と真実の報道へ 赤旗記者ここにあり』4本、『戦争と平和の岐路に立って』2本です。

 『世界』と違って『前衛』で取り上げた労働争議は、小さい労働組合の小さな闘いでした。

 『ストライキを軸に要求実現の力を持つ労働組合をめざす/三木陵一』はJMITU(日本金属製造情報通信労働組合)組合員5000人、180支部の小さな組合の闘いです。

 「小坂研究所」「甲南電機」「畑鉄工所」の具体的な取り組みが書いてあります。

 統一ストライキ、産別団交の重要性を説いています。職場外へ出る取組、政治や社会を変える取り組みも主旨はよくわかりますが、小さい労働組合の工夫が書いていないのが残念です。

 国立病院機構31年ぶりストライキ―コロナ禍、人出不足、独立行政法人化の中で/鈴木仁志』は全医労(全日本国立医療労働組合)組合員19000人の元国立の医療機関労働組合で、現在は、多くの病院、組織は独立行政法人に移行しています。国家公務員法から労働基準法適用の労働者になったのです。

 31年ぶりにストライキに取り組んだとあります。31年前は国家公務員でしたから29分の職場内集会ですが大量処分を受けています。

 31年前は「28闘争」増員要求でしたが、今回は賃金闘争です。人事院勧告水準にも満たない回答に対し4回の交渉を重ねましたが、22年度は実質ゼロ回答で124支部223人が1時間のストライキを打ちぬいています。

 一カ所の規模は小さいですが全国での展開はインパクトがあります。独立行政法人化のメリットを生かした闘いに今後の期待が大きいです。国民から声援もあると思います。

『「新しい戦前」に「特攻」の経験から学ぶこと/山元研二』

 鹿児島県の中学校で、平和教育として「特攻」を教えてきた人です。知覧特攻平和会館や全国的な「特攻」への教え方等を批判しています。とても的を射たものだと思いました。

 「特攻」で死んでいった人々を「英霊」として教えていることを批判しています。

 知覧へは私も行っているのですが、この時は気づきませんでしたが、ここも多くの平和記念館と同じく、戦前の日本が中国大陸侵略を国策としてすすめ、戦争へ突き進んでいった全体像を書いていないそうです。

 HPで確認すると中高生向けの資料がありました。

 それは靖国史観をちょっと読みやすくしたもののように思います。1945年に入ると陸海軍が壊滅的な状況にあるにもかかわらず「国体護持」のために、敗戦を認めず沖縄、原爆、特攻へと国民の命を犠牲にする作戦をとっていった、そこは触れていません。

 山元さんは原発事故や慰安婦などを教えて「偏向教育」として事情聴取を受けたと言っています。現場の教師の「萎縮」が問題で、上からの圧力を感じると「それに」触れなくなるようです。

 政治的な圧力や歴史修正主義の教科書問題などもありますが、教師集団が団結して闘えないことが重大だと思いました。